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「花に染む」(くらもちふさこ)

(「花に染む」のネタバレ全開です)

「花に染む」は一言でいうと「異常なマンガ」です。
というのも、これは「読解パズル」とでも言うべき構造になってるんです

どういうことかというと、まず、マンガ内に散らばっているいろんな描写から、一定の法則を導き出し、そして次にはその法則を曖昧な部分に当てはめて、登場人物の心情を読みとるんです。そうやって初めて、登場人物が何を考えてなぜそのような行動をしたのか理解できるというマンガとなっているのです

これ、多分、小説などの文字だけの媒体では無理なんじゃないかな?
マンガだからこそ成し得たのでしょうが、まあ、だからってこんな酔狂なこと考える人はくらもちさんくらいしかいないんじゃないでしょうか

けれど、「花に染む」には、「この作品は読解パズルですから、皆さん頑張って解いてくださいね」なんてどこにも書かれてないんですよ。普通の読者が手に取って読んだ時、「ふむふむ、なるほど、これは謎解きなのね」なんて思いつくわけないんですよ。そんなことは私にだって無理です

私が「花に染む」を読み解く(この言葉好きじゃないんですが)ことができたのは、ひとえに、連載を追っていたことと、5ちゃんねるのくらもちスレに常駐していたことに尽きます(まあ、くらもちスレでは頭のおかしい人扱いされましたが)。
それと、もう一つ理由があって、「花に染む」の前身である「駅から5分」、これがあるカラクリの含まれた作品だった、というか本来、そうなるはずだった作品なんですよ。くらもちさんは途中でやめちゃったみたいですが。

その流れもあって、当然のように私は「花に染む」も謎解きする気満々で読んでいたわけです(笑)
これが、仮に「花に染む」のことを全然知らなくて、いきなり単行本を全巻渡されて、はい、これがくらもちさんの新作!って言われて一気にまとめて読んだとしたら、「なにこれ?どうしちゃったのくらもちさん。雰囲気はいいけど、こんなスカスカで意味不明の作品を描く人じゃなかったのに……」くらいのことは思ってたでしょうね

というわけで、「花に染む」を一から解説しようかとも思ったのですが、やっぱり昔のテンションの高かった頃の自分が書いたものが一番優れていると思うので、私の書いたAmazonレビューを貼り付けることにしました

まずは最終巻の8巻のレビューから

ネタバレ注意

なんていうか、批判されても仕方ないし、批判点はいちいち頷けるのですが、これって読解パズルとも言うべき作品だと思うんですよね。だから微細な人間ドラマ的描写を期待して読むと、肩すかしっていうか、パズルだから欠落している部分は読者側が補足すべきものなんですよ。ここまで読者に要求するか?ってびっくりするほど、難易度高いですけど(笑)

結論を言うと、この物語を読み解くには、隠れている法則を見つける必要があります。最重要法則は「陽大は弓関連(流鏑馬・馬も含む)以外では、基本的に誰かの望みに従ってしか行動しない(できない)」というものです。『駅から5分』で楼良が雛に言っていた「弓を射るときは本来のお姿に戻られている」っていう台詞、アレは重要なヒントだったということです。「至上最悪の良い子」という雛の指摘もここに起因していると思います。他には、花乃の陽大に対する行動も制約されていて、基本的に、陽大の「弓」を追いかけること、陽大を守ることの二点以外にはありません。恋ではないからです。火事で陽向を助けられなかった罪悪感を陽大を守ることで無自覚ながら必死に打ち消していたのでしょう。さらに、雛は運命の神が味方しているので雛の願ったことは大抵叶う、これは本気で大真面目に陽大が信じていたことで、この物語の「鍵」とでもいうべきポイントです。火事から楼良とのキスまでの期間、陽大の行動はほぼこの「雛は運命の神が味方している」という妄想に支配されていたと言っても過言でないくらいです。反面、陽大が明示的に願った願い事はことごとく叶うことがありません。そして、雛は花染神社がなにより大切で、陽大は比々羅木神社を「花に染む」の「花」とみなすほど恋い焦がれていた。

以上を前提に、陽大が何を考え何を感じどう行動してきたのか?を読み解いていくと、なぜあの最悪の状況であの瞬間、陽大が楼良に恋したのか、どうして陽大は花染神社の宮司になることに固執せざるを得なかったのか、なぜ楼良を自宅に泊めなくてはならなかったのか、などがおのずと見えてくると思います。一方、何度読んでもわからないというか、決定できるだけの情報量がないものもあり、例えば、雛は今でも陽大に恋しているのか、陽向は雛のことをどんな風に好きだったのか、などは少なくとも現時点では私にはわかりません。でもそれで十分かな。

と書いてはみたものの、やっぱりこれだけでは足りないかなって思って、私の解釈の詳細を『花に染む』1巻から7巻のレビューに書いてみました、良かったら読んでみてください。

『花に染む』8巻のAmazonレビューより

ネタバレ注意

初めて1巻を手に取った時は、ただただ暗い表紙だと思いましたね。売ろうとする気が感じられなかった…。
あとはよく覚えてないって言うか、読み返しすぎて、最初に何を感じたのか全然記憶にないです。

見落としがちだけど、この巻で注目すべきポイントは、陽大が弓をやっている理由は比々羅木神社の神様に喜んでもらいたいからということと、花乃が陽向の死に責任を感じている様子でしょうか。以後、全編に関わってくる重要な要素です。

雛が花乃を嘘つき扱いした理由は後になってわかりますが、雛も中学生の頃は自分の願望が事実だと思い込んでしまう性格だったということで、思い込みの激しさという点では陽大の足元にも及ばないにせよ、圓城一族は多かれ少なかれ思い込みしやすい人たちなんでしょう。
以後、陽大を筆頭に登場人物たちの思い込みと勘違いがこのマンガ中を埋め尽くすのですが、意外に主要人物の中で一番思い込みが少ないのは、不思議ちゃん楼良なんじゃないかなという気もします。陽大と花乃の仲を勘違いするのはまあ当然とも言えますし。

『花に染む』1巻のAmazonレビューより

ネタバレ注意

2巻の最重要ポイントは「雛は僕が過去を封印してしまうことを好ましく思ってない」という陽大の台詞でしょうか。3巻で判明するのですが、雛には運命の神までも味方していて、自分の運命は雛の願い通りになってしまうという強烈な思い込みを彼は抱いています。
陽大、はっきり言って相当おかしい人物です。
でも、確かにこの巻でも、雛が花乃に茴香大学へ入ってほしいと願うと花乃が入学する、神社のアパートに入居してもらいたいと願うと、アパートに空きがあるという事実が花乃にバレて花乃が入居する、極め付きは雛のおかげで早気が治って花乃が笑顔になる、といった具合に、ことごとく雛の願い通りになり、ふだんは表情の乏しいというか玉虫色の陽大ですが、その都度、絶望感に打ちひしがれる彼の様子が見て取れます。

ここで、陽大が最も恐れているのが、冒頭に挙げた「雛は僕が過去を封印してしまうことを好ましく思ってない」という雛の想いです。
運命の神も味方する雛が好ましく思ってない以上、陽大はいつか必ず過去に向き合う日が来てしまう、でもそれはどうしても避けたい…。「花に染む」の「花」に例えるほど比々羅木神社を愛している陽大が仮想世界を作ってまで、倭舞を拒む理由は3巻で明らかになります。

他には、この巻はようやくヒロイン楼良も登場するのですが、『駅から5分』の頃と比べて一層不思議ちゃん度が増してます。『駅から5分』から読んでいた私も、楼良を陽大の恋の相手にするのは止めちゃったのかな?って思ったほどでした。
今になって思うと、不思議ちゃん度が少ないと、花乃が楼良を軽く扱うという点で説得力に欠けるというか、花乃が恋人のいる男性に対して思慮の足りない人になってしまうので仕方なかったのでしょう。

『花に染む』2巻のAmazonレビューより

ネタバレ注意

3巻は一気にいろんなことが明らかになった巻でした。
と書いてますが、私自身は3巻を読んだ当時には細かいところはほとんど理解してませんでしたけど…。

まず、陽大と雛がキスしている姿を火事で亡くなる直前の陽向に見せてしまったこと、これが陽大の罪悪感の中心にあることが描かれます。陽大はもともと駅5の頃から一貫して、弓関連以外では「誰かの望みに沿った行動しかしない人間」として描かれてきました。余談ですがスズメを手の中で温め続けるシーンはこれの典型でしょうね。
で、この巻で彼が望みを叶えたい最重要人物が陽向であることが明らかになります。陽向を絶「望」させてしまったから、せめて生前の陽向が自分に望んだように、花染神社の宮司となるために生きてゆこうというわけです。ここで最大の障壁になるのが雛の存在です。なぜなら、雛は陽大がどんなに比々羅木神社に恋い焦がれているか知っている唯一の人物であり、その雛が陽大に対して「過去に向き合う」ことを望むのであれば、運命の神も味方につけている雛の願い通り、陽大は倭舞へ帰りたいという気持ちを抑えられなくなってしまうからです。
そうなると陽向が陽大に望んだ「花染神社の宮司になってほしい」という願いを叶えられなくなるわけです。

実際に陽向が仮に自分が死んだ場合でも陽大に花染神社の宮司になってほしいと考えていたとは到底思えないのですが、視野狭窄に陥った超思い込み激しい体質の陽大にとって、花染神社の宮司になることは至上命題となっています。本当は倭舞に帰りたいけれど花染神社の宮司にならなくてはいけない、だから雛と運命の神に対抗するだけの力をつけなくてはいけない…という端から見ると何とも馬鹿馬鹿しい葛藤を、火事以降ずっと陽大は抱え続けていたため、陽大は雛をできる限り避けてきたのですが、ここにきて花乃から思いがけない事実を聞かされます。花乃は陽向を助けられなかったせいで、陽大と雛の仲がこじれた関係になったと思って自分を責めていたのです。
花乃は陽大にとっては、大切な親友で命の恩人でもあり、花乃と再会した後の陽大は花乃のどんな些細な願いでも(それが陽向の願いとぶつからない限り)叶えようと心を砕いてきました。火事が原因で自分と同様の罪悪感に苦しむ花乃を何とかして救いたい、そのために自分と雛との仲を元に戻さなければ…、これが陽大に与えられた更なる課題でした。

そんな時、楼良の「陽大さんと私が出会ったことはきっと意味があるはず」という言葉に力を得て、陽大はある企みを徹底的に実行することになったのです。

『花に染む』3巻のAmazonレビューより

ネタバレ注意

4巻ではいきなり過去に戻るわけですが…。

過去に戻った一番の理由は、陽向の人となりをじっくり描く必要があったんだろうなって思います。それがないと、陽大や花乃の抱えている罪悪感が読者の心に響いてこないですから。
花乃の「恋」に対する嫌悪感も陽向の温厚なキャラあってこその描写でしょう。陽向は花乃にとってはいろんな長所を持った大好きな人なのに、「恋」というフィルターを通すと、その長所がすべてスルーされて「楽しくない」人と一言で評価されてしまう、これを「淋しい」と思える花乃だからこそ、花乃の陽大に対する気持ちも恋であるはずがない、と私は思うのですが…。
そしてそんな兄だからこそ、陽大は合宿でのがまん大会で花乃に抱き着くことで兄を勝たせ、雛の差し入れした巻藁矢を兄が手に入れるよう画策したのでしょう、これは単に巻藁矢だけの問題ではなく、雛への想いを断ち切ることと、それ以上に陽大にとって打撃だったのは、雛と交換で花染神社へ行くことは、比々羅木神社に別れを告げることを意味したからです。だからあれほど震えたのだと思います。
その後の弓の大会で、雛との待ち合わせに自分ではなく兄を行かせたのも、同様の決意の表れでしょうが、いったん決心したものの最後の最後、火事が起こった時に雛のキスについ応じてしまったのは、やはりどうしても比々羅木神社を諦めることが出来なかったからで、陽大はこの時の自分の弱さを責め続けることになるわけです。

他に特筆すべき事項は、陽大と雛の傘の中でのキス?ですね。これ以後、陽大と雛の顔が激似になっていったのは、罪悪感の共有からだと思います。これは一時的なもので、8巻になると、雛はすっかり顔つきが優しくなりますし、陽大も楼良とのキス以後、目に力が宿っているので、文字では語られていないけれど、最終話の時点で陽大と雛はもうほとんど似てないんだろうなって思います。

『花に染む』4巻のAmazonレビューより

ネタバレ注意

5巻も引き続き過去話。京都に舞台は移り、千場君という奇妙な人物と陽大の交流に絞られるわけですが…。
どうして千場君はああも変わった人として描かれなければならなかったのか?その理由はあれくらい図々しい人でないと陽大が本音を出さないということなんでしょう。陽大は中身はかなりヘンですが表面上は一応空気を読む常識人として振る舞っていますからね。あの楼良に対してすら、背後に雛の存在を察知するまでは、本音はともかく、表面的には礼儀正しく応対してましたし。
そして、千場君の最大の役割は、最終的に陽大を花染町に行く流れにさせること。陽大が花染町に行くのは、花染神社の宮司になるという陽向の望みを叶える第一歩ですから、陽大は是非とも行かなくてはならないことは重々わかっているのですが、彼自身の心は花染神社の宮司になりたいなんてこれっぽっちも思ってないし、仮に花染町に行ったとしても、運命の神が味方する雛を相手にどこまで自分の意思を貫けるのかという問題もあるわけです。そこで亡くなった人たち(陽向を意味している?)から力を貰おうとして、大木の根っこにしがみついたりするわけですが…。
このあたりの描写は、陽大…正気か?って花乃みたいな感想を抱いてしまうわけで…。そんな調子でグダグダ日々を暮らしていたのですが、うっかり皆の前で「ふざけんな千場」と口にしてしまったことで、仮病がバレて仕方なく花染町に行く羽目に…。陽大ってとことん主体性のない人間として描かれちゃってますね。

そしてようやく、花乃の長い回想が終わって、いよいよ楼良が本領を発揮する番がやってきたわけですが、その前に花乃は火事以降ずっと望んでた陽大への抱擁を叶えることが出来、この時点で、陽向を助けられなかった罪悪感から生じた陽大を守りたい気持ちが最大限に満たされることになります。これは後々、花乃が陽大への執着から解き放たれるために、前提として必要なものだったんだろうなって思います。

『花に染む』5巻のAmazonレビューより

ネタバレ注意

6巻の重要ポイントは楼良の回想シーン、雛が花乃楼良と三人立ちで試合に出たいと強く希望していることを陽大が知るシーンです。この時点まで陽大は、楼良に弓道部をやめさせる気など一切なかったのに、これを聞いて急に弓道部をやめることを要求したのはなぜか?ここは解釈が分かれるでしょうが、私は単に陽大は雛の邪魔をしたかったんだろうと解釈しています。
雛の強い三人立ちの希望が自分の妨害で叶えられなくなるとしたら、つまり運命の神を味方につけている雛に勝利したなら、もう雛をことさら避けなくても花染神社の宮司になるという陽向の願いを達成することが出来て、そうなれば雛との仲を元通りにして、懸案だった花乃の「自分が兄を助けられなかったせいで、雛と陽大の仲がこじれた」という罪悪感を解消することができるからです(すみません、私、これ、一応正気で書いてます)。つまり、一言で言うと、楼良に弓道部をやめさせたのは花乃のため。陽大が花乃に「近いうち元に戻るから」と言っているのも、雛との仲が「元に戻る」という意味だと思います。
しかし、何といっても、雛は運命の神に味方された強敵ですから、この「聖戦」を乗り切るためには細心の注意を払わなければなりません。そのためには楼良を雛からできる限り遠ざけておくに越したことはない、ということで楼良を陽大の部屋に泊め、スケジュールも管理して細かく監視することにします。
雛は11月末の試合で弓道部引退を決めているから、それ以後は三人立ちする危険性もなく、楼良とのお付き合いも「今月いっぱい」で良いということになります。陽大、とことん、考えることがショボいです。

ところが楼良はそんなセコい陽大とは比較にならない気高い行動を見せるわけです。
彼女は陽大が激怒する可能性も、一生彼と会えなくなる可能性もうすうす理解しながら、陽大の倭舞の友人たのじにドアを開きます。陽大の幸せだけを願って…。倭舞を拒絶している陽大は、当然烈火のごとく怒り、楼良を部屋から追い出すわけですが、同時に彼は楼良が自分を失う危険性を承知であえて自分のために自己犠牲的行動に出たことも悟ります。楼良にとって自分がどれほどかけがえのない存在であるか理解していた陽大にとってはこれは何より衝撃的な出来事でした。なぜなら、彼は生前の陽向のために同じことが出来なかった、つまり最後まで自分の大切なもの(比々羅木神社)を諦められなかったことにずっと苦しんできたからです。
そして、ここからは想像なのですが、陽大が基本、誰かの願いを叶える行動ばかりとってきたのは、実は心の奥底でずっと自分のためにこれほどの行動をとってくれる誰かを待ち望んでいたからではないかと。他者への行動は自己の欲望の裏返しなのではないかと。
あの花乃ですら、「これからずっとハルトガイナイセカイ」を目の前に突き付けられた時、陽大の射を今一度見たいという自分の想いを優先したほどですし。
そんなわけで、この瞬間、陽大は楼良との恋に落ちたのだと思います。とは言え、陽大はこの物語の中で「眠り姫」の役割を振られているから、王子役の楼良が姫の元へ再び会いにいくまで、まだしばらく眠っているのですが…。
陽大はいつ楼良の元へ愛の告白に行くのだろう?などと彼に主体性を求めてはいけなかったのでした。

『花に染む』6巻のレビューより

ネタバレ注意

7巻でやはり圧巻なのは楼良が陽大に会いに行くシーンです。作者はこの物語の中でこのシーンを一番描きたかったんじゃないかと思えてしまうほど。ドアを開いてから抱擁に至るまで、何一つ二人の会話がかみ合ってないのが実にイイんですよね。
楼良にすべては花乃のためのお膳立てだと言い当てられ、陽大は雛と運命の神をめぐる聖戦のことがバレたのかと焦るわけですが、さすがにそんな馬鹿馬鹿しいことは楼良にだって想像もつきません。
そして、陽大が花乃を恋していると誤解しつつも、陽大の頼みを「無償で引き受ける」と言い切る楼良に、たのじ来訪時の彼女の自己犠牲を重ね合わせて、思わず抱きしめてしまうわけです。その後、車内での一回目のキスの後、一瞬で楼良は陽大が自分に恋していることを悟り、二人の恋物語はこれで完結。残る諸問題は8巻に入りますが…。

まず、雛と陽大の和解、和解と言っていいのかどうか…。
陽大は運命の神が雛に味方しようがしまいがもうそんなことはどうでもいいという心境になってます。楼良がいてくれるなら運命の神が自分を味方してくれなくても構わないということなのでしょうか。
雛の方はなんと、陽大が自分への嫌がらせで自分の一番大切な花染神社を乗っ取る気でいたとずっと思っていたようで…。私は雛がそんなことを考えていたとは思いも寄らなかったのですが、考えてみれば当然ですよね、陽大が比々羅木神社を深く愛してることを雛は十分承知してたのだから、陽大が花染神社に固執する理由は他には考えられないわけです。そこで花乃が「陽大は雛のために水野に弓を教えていた」と一言、もちろんこれも完全な勘違いなのですが、雛はそれを信じ、今まで陽大に嫌われているとばかり思っていた誤解が解け、顔つきまで優しそうに変わります。客観的には、ずっと抱いていた誤解が別の誤解に変わっただけなのですが、本人たちが幸せならそれでいいってことなのでしょう。それに私も、陽大が実際に雛を憎んだことは一度もないと思いますし、今もひょっとして多少の恋心は抱いているのではないかとすら疑っています。

次に伊勢志摩ライナーで、陽大は陽向が雛を愛していたからではなく、伯母にお願いされたから婚約を望んだのではないかとの結論に思い至ります。であるなら、キスを見せたことは陽向を絶望させたわけじゃなかった、と。これはかなり微妙な問題ですが、他人の願いを叶えることに邁進してきた陽大にとっては、兄も同様の行動を取ると考えるのは至極自然な推測なのかもしれません。なんだかんだ言って、二人は似たもの兄弟みたいですし。そもそもキスくらいで絶望したと決めつけるのも行き過ぎだったわけですし、陽大の気持ちが楽になるなら、ぶっちゃけ真実なんてどうでもいいとも思います。
ここでようやく、陽向絶望問題から解放され、陽大は花染神社ではなく比々羅木神社へ心を向けられるようになりました。

そして大会当日、楼良は禁断の「運命の神」の話を陽大に向けるわけですが、この時陽大は穴があったら入りたいくらい心の中で「やめてくれー」と恥ずかしさに身悶えしてたんじゃないかと思うんですよ。
雛の願いに沿って行動したのは、最後の最後、楼良を弓道部に戻したことだけですから、楼良が指摘したことは勘違いなわけですが、でも真実を知られるよりはずっとマシだと耐えていたと思います。楼良にとってもそのほうが良いでしょう。

一方、唐突なまでの「陽向の鎮魂の儀式」説を思いつく花乃ですが、もちろん、雛はそんなこと全く考えてなかったと思います。鎮魂の儀式を心の奥で望んでいたのは、陽向を助けられなかった罪悪感を心に秘めてきた花乃ただ一人。陽大も、楼良が自分そっくりの動きをすることで、花乃が過去の三人立ちを再体験することまでは予想外だったと思います。せいぜい、運命の神が味方する雛が望んだ三人立ちだから、過去の三人立ち同様に花乃にとっても素晴らしいものになるだろう、程度じゃないでしょうか。それでも、花乃は陽大が自分を驚かせようと演出してくれたと勘違いしたみたいですが、幸運な誤解を解くこともないのでしょう。
ここで、花乃はそれまで抱えてきた、陽大に対する二つの問題を同時に昇華することになります。一つは陽大の弓を追いかけて陽大そっくりの弓を自身で実現すること。これは楼良に完敗という結果で終わり。もう一つの陽大を守りたいという強迫観念も、陽向を助けられなかった罪悪感が鎮魂の儀式を終えて解消されたため、消えてしまったはずです。この二つを三人立ちで同時に体験したからこそ「うれしいけどくやしい」のでしょう。そして、その結果、花乃の過剰ともとれる陽大への執着も薄らいでゆくと思われます。

こうして陽大の強力な思い込みに振り回された登場人物たちは、それぞれがそれぞれにとって幸せになれる勘違いを経て、皆ハッピーになってめでたしめでたしというのが『花に染む』という物語だったわけですが、よくこんな複雑で込み入った難解な話を描いてくれたもんだと脱帽です、ホント。

『花に染む』7巻のAmazonレビューより

ふぅ~、コピペは楽でいいですね
「花に染む」はその後、手塚治虫文化賞の第21回マンガ大賞を受賞することになるのですが、審査員の方々は、おそらく「花に染む」が読解パズルだということをわかって、大賞に決めたと思うんですよ。そうでなければ、あの作品を大賞にしようとは考えないでしょうから

ただ、くらもちさんは「花に染む」が読解パズルだとはあまりアピールしたくなかったようです。それは5ちゃんねるで、花乃派と楼良派の対立があまりに酷かったからでしょう(まあ楼良派はほとんど私一人のようなものでしたけど)。読解パズルなんて主張してたのは私だけなので、自動的に陽大の恋の相手は楼良ということになってしまいますから。
私はべつに陽大が誰と恋しようがどうでも良かったし、パズルを解いた結果が楼良ってだけのことだし、むしろ、陽大と恋人同士になるなんて罰ゲームでしかないとすら思っていたのですが、花乃派の一部の勢いはすさまじかったですね。
そういった心情がほとんど理解できない私は、知人に「マクロスF」の対立の話を聞いて、へえ、そういうものなのかーと驚いたことを覚えてます

でも、「花に染む」の真価が多くの人に伝わらないのはとても残念なことなので、こんな風にnoteにも書いちゃってるわけですが、私は「花に染む」をくらもちさんのマンガで「おすすめ」には挙げません。だって、あまりに規格外ですから(笑)



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