大学受験をする娘氏へ

今年は娘氏がいよいよ高3。大学受験をすることになるわけだが、ご多分に漏れずオヤジの言うことなど聞いてはくれそうにない。そうはいっても知識も準備もなく大学受験に臨むのは、武器も情報もないまま死地に送り込むようなもので、親としても忍びない。ここは適切な心構えと考え方をオヤジ氏のnoteから読み解いてもらって、(おそらく)人生一度きりの大学受験という挑戦に臨んでもらいたい。あわよくばこの挑戦から何かを学び、人生の糧にしてもらいたいという気持ちでこれを書いている。

心構え
1. 実現可能な目標を掲げる
2.長期計画をたてる
3.日々の計画に落とし込む
4.効率を上げる
5.気持ちを保つ

1. 実現可能な目標を掲げる

目標は絶対に必要だが、目標の立て方にもコツがある。1年前のこの時点では「達成可能だが、いまのままでは実現できない」というギリギリのラインが良い。今受かりそうな(この時点でA判定が出るようなところ)ではモチベーションが保てず、受かるはずのところも受からなくなってしまう。逆に今の時点でD判定のところは、率直にこれまでの相対的な努力不足を認めるしかない(あなたが3年生になる前に、他の人はそれだけの勉強をしてきたということ)。そう考えると、今の時点でB-C判定くらいの「ギリギリのところ」が目標としてはベストだ。達成可能な目標は目標ではないし、達成不可能な目標は空想でしかない。グレーゾーンにある目標を立てることが全てのスタートラインである。

2. 長期計画を立てる

目標を立てたら、次は長期計画である。まず志望校の受験までに何日あるのか。そして1日平均で何時間勉強できるのかを計算して、自分が勉強に使える総時間数を計算しよう。そこから、自分がどの科目にどれだけ時間を配分するのかを決めるのだ。何も考えずに均等に割り振るなど愚かしいことだと忘れずに。自分の時間は有限で、時間をどこに配分するのかが、本質的に自分という人間を決めていくのだ(どこに何を配分するのか、という考え方をポートフォリオマネジメントと呼ぶ)。
志望校によっては英語の配分が高いところもあるだろう。そういうところを受けるのであれば当然英語に時間を多く割り振った方が良いし、歴史の配点が高ければ時間に比重も増やす。志望校の配点と、自分の得意・不得意に応じて適切な時間配分を決める。これが受験日当日の自分の学力を規定することになる。
こうして自分で決めた時間の割り振りを、1ヶ月ごとの計画に落とし込んでいこう。歴史ならどの範囲を、英語なら単語何個や参考書の範囲などを決めていく。こうしてできた長期計画が、これから1年間を戦うあなたの道標になるだろう。

長期計画を策定するときには他にも注意すべきポイントがあるので、それも付記しておこう。

・テストは勉強ではない
長期計画を立てるときに、模試や受験日などの日数は勉強の日にカウントできない。こういう日は実際には何もできないからだ。特に受験シーズンは何校か併願することになると思うが、その日は勉強できないことをお忘れなく。

・バッファを取っておく
長期計画は1ヶ月単位で立てるのが良いと言ったが、毎月数時間分の余裕(バッファ)を残しておいて欲しい。バッファの総量はだいたい5%くらいが適切だろう。実際には思ったようにいかない何かが突発的に発生するので、計画とは悲観的に立てるものだ。風邪を引いたり、家が火事になったり、とにかく今の時点では思いもよらないことが必ず起きる。厄介なことに、人生とは「何が起こるかはわからないが、何かは必ず起きる」ものなのだ。それを「余裕」として見ておくことで、計画の達成確率が上がる。

3. 日々の計画に落とし込む

勉強の成果は「時間×効率」である。当たり前だが、他の人よりもよい結果を出そうと思ったら「時間をかける」ことと「効率を上げる」ことを両立するしかない。ところが、この「時間を確保する」というのは意外と難しい。自分の時間は思ったよりも効率的に使えず、かなり意識して「まとまった時間を確保する」ようにしないと勉強ははかどらない(10分の枠×6と、まとまった60分とでは、勉強に関して言うと後者しか役に立たない)。
そのためには、まず「自分が1日をどのように過ごしているのか」を補足して一度見える化してみることをオススメする。

そしてそれが分かってきたら、それをもとに1週間のおおよその時間配分(何曜日に何をどのくらいやるのか)を決めよう。

そして、圧倒的に大切なことが必ず毎日、計画を立ててから勉強する習慣をつけること。

これには2つの意味があるのだが、一つは「毎日の活動と長期の計画との整合性を取る」ということと、もう一つは「充実感を継続させる」ということ。
前者は、どんなに沢山勉強しても「それが長期の計画に合致していなければ、意味が薄れてしまう」ということ。目の前のことだけに集中していると、どうしても「自分が何にどのくらいの時間を使ってきて、達成度がどのくらいなのか」という長期の視点が抜け落ちてしまう。でも、毎日長期の計画を確認してから「今日はこうだ」と決めて取りかかれば、長期の計画を実現できる確率が圧倒的に上がる。計画を実現するには、このように「長期と短期(1日)の計画をいったりきたりしながら、1日1日を大切に使う」ことが重要になる。
後者の「充実感」は、最後の 5.気持ちを保つ にも通じる話だが、どうしても勉強というのは充実感が得にくい。そういう状況が続くと、だんだん気持ちが落ちてきてしまうので、達成の報酬を自分で用意する必要がある。その一つが「充実感」なのだ。毎日立てた計画を着実にこなしていく。「今日はやれた」「今日は頑張った」「今日も予定通り進んだ」こういう、小さくても確実な「勝ち」を続けることが、長い受験勉強シーズンを充実して過ごすために欠かせない。

ぜひ「毎日(長期計画を元に)、一日の計画をつくって、寝る前に見直して充実感を感じてから寝る」クセをつけて欲しい。

4. 効率を上げる

さて時間のコントロールがうまくいくようにあったら、後は効率を上げる、つまり「勉強の質をあげる」ことだ。

・時間帯によって内容を変える
脳にはよく働く時間とそうでない時間がある。特に起きてから2−4時間の間は一番パフォーマンスが発揮できる時間と言われているので、この時間に「自分が最も集中して勉強をしたい科目(苦手な科目)」に当てるのが良い。逆に寝起き、食後すぐはあまりはかどらないので、積極的に休憩や自由時間などにして、「脳が働かない時間に無理矢理勉強をする計画を立てない」方が効率が良くなると言える。小さなことだが、こういう正しい知識を基に計画を立てることで、計画の達成可能性が上がることは覚えておいて損はしないと思う。

・場所を変える
勉強の大敵は「集中を途切れさせる全てのもの」だ。場合によっては、それは家族かもしれない。そういう外敵から逃れるために、場所を変えて勉強することも効果的だ。
ただし、場所を変える場合は「移動時間だけで無く、外出するためにかかる時間」にも留意のこと。それだけの時間を使っても集中できる環境に移動する価値がある場合は、積極的に場所を変えた方がよいと思う。

・復習が一番大切!
勉強の効率を考えたときに、何が一番効率的と言えるだろうか?それは「自分ができないと分かっているところを補強する」ことだ。できることを再度やっても時間の無駄だし、出来ていないことばかりをやってもそれが結果になるかどうか分からない。「試験に出てきて、かつ自分ができないと分かっていること」を集中的に学ぶことが、学習効率という意味では最も効率がいい。
これから沢山の模試などを受けることになると思うが、その時に圧倒的に大切なことは「結果に一喜一憂するのではなく、とにかくできなかった問題を徹底的に復習し、次に同じテストをやったときに100点が取れるようにすること」だ。そのくらい復習(テストの見直し)には価値がある。模試の計画はある程度分かっているはずなので、見直しの時間は計画に織り込んでおくべきである。

・朝型にする
夜型のあなたには一番辛いことかもしれないが、上記の通り「脳のパフォーマンスは起きてから2-4時間後」がベストの状態になる。つまり、試験開始が10時であれば7時に起きるのがベストということである。自分の生活スタイルを変えることは難しいかもしれないが、だいたい本番の4−6ヶ月前くらいにはこのスタイルに変えて、本番で最高のパフォーマンスを発揮できるようにした方が得策だろう。

・受験しすぎは注意・・
最後に、効率という点で盲点を一つ。受験直前になると不安に駆られてどうしても沢山併願をしがちになってしまう。だがこれは大きなワナだ。
前述したが「試験は勉強ではない」のである。試験を受けるための準備、移動時間、試験を受けている時間、これらは全て何のインプットにもなっていない。勉強という観点からは完全に時間のムダなのである。ところが、同じ時間であっても1年前の1時間と本番1日前の1時間とでは全く価値が違い、後者の方がより重要だ。試験ギリギリはちゃんと最後の詰め込み、追い込みをやっておいた方が明らかに効率が良いわけである。
何校かの併願はもちろん致し方ないが、沢山受けすぎてしまうことはかえって本命の受験にとってマイナスだということは承知して、計画的に時間を使うクセをつけておこう。

5. 気持ちを保つ

心構えの最後は、「気持ちを保つ」こと。
「やる気」に頼るようでは1年間という長い時間は戦えない。勉強とは本質的に習慣なので、やる気のあるなしに関わらずやるようになっているかどうかが決定的に大切なのだ。
それでもどうしてもノらない時もあるかもしれない。そんな状況に備えて、勉強を始める前の「アップ」を準備しておくことを強くオススメする。運動でもアップ(準備体操)があるように、脳にも準備体操が必要だ。あなたにも経験があると思うが、「やる気」はよく「スイッチ」と称されるが、そんなものは存在しない。やる気とはスイッチの様にOn/Offできるものではなく、やっているウチになんとなく乗ってくるものなのだ。そのために何か定型的なアップがあると良い。できるだけ簡単で、かつあまり考えずに始められるものが良いだろう。例えば英単語を50個書くとか、漢字ドリル1ページとか、何でも良いが「勉強になって、かつあまり深く考えずにさっさと始められるもの」が良い。これを常に机の上に準備しておこう。これだけで取りかかりが全然違うはずだ。

そうは言っても、人間にはリズムがあってどうしても具合が悪かったり勉強どころではないこともあるだろう。そんなときの為の「バッファ」である。2の「計画を立てる」のところで「バッファを残しておくように」と言ったが、それはこういう事態の為である。100%の計画は、どこか1つが崩れた時点で完全に崩壊するが、途中でバッファを残しておけば衝撃を吸収してリカバーできる。バッファの範囲内であれば適切に休んだり、想定外の出来事に対処することもできるので、バッファを持っておくことで気持ちの余裕を常に持っておこう。日々バッファの管理を忘れずに。もちろん、バッファがあまった月はその分勉強に回せば、計画よりも早く勉強を進めることだってできる!

最後に、日記はよい考えだと思う。1年間ものあいだ大きなプロジェクトに取りかかるのだから、途中で落ち込んだりネガティブな気持ちになったりすることは当然だろう。そうした事態に対処する大切な考え方は「resilience(レジリエンス。弾力、回復力)」だ。嫌な気持ちを引きずるのが一番良くない。引きずっても何も起きないし、その間あなたのライバルは勉強してあなたに差をつけるだけだ。ネガティブな気持ちを引きずらないようにする一番の方法は「そのネガティブな気持ちを吐き出してしまう」ことだ。本当は紙に書くのが良いらしいが、別に気持ちを吐き出すだけならスマホの日記でもいいだろう。声に出してスマホに録音しておいても良いかもしれない。今時親に知られずに録音する場所なんていくらでもある。とにかく闇に落ちそうになったらその闇を吐き出すこと。闇の先は闇しかない。闇は吐き出して、すっきりさせて、寝る。そうして次の日にまたリセットしてやり直せばよい。

最後に

大学受験は水物だ。
仮にうまく行かなかったとしても、それであなたの人生がダメになるわけでも不幸せになるわけでもない。大学受験に失敗しても人生で成功している人は山ほどいるし、受験にうまくいってもその後の人生がうまくいく保証は何もない。ただし、この1年間は「これからの人生という航海を楽しむための準備」ではあると思うので、きちんと準備をして、前向きな心構えを持って臨んで欲しいとは強く願っている。

残念なことに、オヤジが勉強を教えてあげることはできない。一緒に受験に臨むこともできない。これはあなたが大人になるための通過儀礼であり、あなたが1人で挑まなくてはいけない。でも幸いなことに完全に1人で戦うのでは無く、オフクロもオヤジもサポートしてあげられる(そしてそれがとても恵まれた環境だということは、もう少し年を取ってから理解するだろう)。
オヤジ氏が伝えてあげられることは、受験という通過儀礼に臨む心構えと、勝率をほんの少し(おそらく10-20%くらい)上げることができるプロジェクトマネジメントのやり方だけだ。でも、もしこの考え方をうまく使いこなしてくれれば、受験だけで無く、その後の人生においても必ず役に立ち、あなたの人生をより豊かなものにする手助けをしてくれるだろう。
あなたの幸せを、毎日、手放しで、心の底から望んでくれる人は残念ながら後にも先にも親しかいない。このnoteは、そんなあなたの一番のサポーターが心から送っているエールだと思って、これからの一年の役に立てて欲しい。

オヤジより

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