御物を賜る
「彦乃さん、よかったらこれ使いませんか?」
あこがれの方からの突然のメッセージ。
そのメッセージと添えられた写真を見た途端…、わたしはぼろぼろと泣いていた。
それは木製のローテーブルだった。
サイズは幅100cm・奥行55cm・高さ45cm。天板まわりと脚のさりげないデザインは、シンプルながらもヨーロッパの『宮殿』を想起させた。
「うちでは使っていないので、よかったら譲りますよ」とのことだった。
どうしようかと考えるよりも先になみだがあふれて、この状態を言葉に変換することがすぐにできなかった。
「うれしい」が湧きあがるたびになにかが込みあげてきて、そのあとで「こわい」がやってきて、「でもやっぱりうれしい」があふれて、こどもみたいにうえーん、としばらく泣いていた。
◇
これは御物だ、と思った。
御物(ぎょぶつ)とはここでは皇室で使われているもののことをいう。
みなの平安を願い、祈り、この地を統治してきた、誰もが敬愛しているあの天子さまから御物を賜る。
天皇や皇室への尊敬と熱烈な思慕とともに暮らしてきたとはとても言えないわたしだが、このときは大げさでなくそういう感覚だった。
『ありがとうございます…』
が、
自然と湧いてきた。
◇
あこがれの高貴な方の生活空間に存在しているものがこのわたしの生活空間にやってくる。(その方はわたしにとってそういう存在なのだな、とこのとき知った)
ローテーブルを介して、優美で清涼な宮殿とわたしの暮らすちいさな汚部屋の回路がひらく…???
この、気がつけばうごけなくなっていることの多いわたしの空間に、いつでも新鮮な風が吹きわたる…!!!
ありえない!
ありえないはずのことがわたしの返事ひとつで実現する…!
◇
しゃくりあげてのぼろぼろ泣きが落ちついてきたころ、
「ローテーブル」という言葉になじみがまったくないわたしは「ローテーブル…?そんなハイカラな単語があるのか、初めて聞いたぜ。まあつまりはつくえ、しかもこいつは文机やな」と思った。(水を差すようなべらんめえ口調だ…)
そこから、
「こういう雰囲気のものを好んで選んだこと、俺っちこれまで一度もない…ぜ…?」
「うちの雰囲気とはまったくもって異質なデザインだ」
「うん。これがわたしの暮らす家には似合わなくて調和しないことは明白だ」
「そもそも家のどの部屋もモノまみれな上にとんでもなく散らかっていて置く場所がないぜ…」
と続いた。
でも、それらのボヤキをものともしない、どっしりとした地熱のような静けさで「これはものすごい転機だ」「断る理由がない」という声がする。
わたしは「ぜひ使わせてください」と返事をした。
部屋にも家にも似合わなくても、受けとることはできる。これからこの「ローテーブル」とやらが似合う部屋と家にすればいいし、置く場所はこれから片づけてつくればいい。
準備は必要だけれど、それをやればいいだけ。なにも問題はない。
よっしゃ、
ロイヤルぶりりあんとローテーブルさま
おでむかえのまつりのしたくの
はじまりはじまりや!
◇
そしてその2日後、事態は急変した。
つづく☆