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一日一絵:鹿島槍ヶ岳から下山中に、滑落。あわや、この世とおさらばか・・・。

鹿島槍ヶ岳2020_04_06

後立山連峰に鹿島槍ヶ岳という名山がある。
南峰と北峰を有する双耳峰である。

あれはもう何十年も前の夏のことだった。
冷池山荘を早朝出発して、鹿島槍ケ岳を越え、八峰キレットから五竜岳の方へ抜ける計画だった。
目覚めた時はすでに小雨であった。
八峰キレットの難所を考えると、この天気では無理だとわかっていたが、せめて鹿島槍ヶ岳まで登ってみようと出発した。
風が強くなり、雨粒がまるで石つぶてのように頬に当たり、痛い。
雨具を深くかぶるが、雨粒は容赦なく全身に音を立てて打ちこんでくる。
風に飛ばされぬよう、身体を前かがみにして、ただ地面を見ながら歩いた。
もちろん尾根道には風よけの樹木もない岩と石の道だ。
視界もゼロに近い。引き返そう!との一声にだれも逆らう者はなかった。

 出発した小屋で小休止したのち、急坂だけど近道の赤岩尾根を下ることにした。
登山道は小川のように泥水が流れ、ガレバやぬかるみで足をとられぬよう慎重に進む。
靴の中も、下着さえも雨が侵入し、気持ちのいいものではない。
クサリやハシゴを細心の注意で一歩一歩と下りて行った。
その時、後から「しまった!」という声が聞こえたので、振り向くと先輩がまるで滑り台を滑るように、我が方に向かってずるずると落ちてきた。
さえぎるものはない。
私はとっさに、ぬかるんだ地面にストックを差し込み、腰を低くして受け止めようとした。
大の大人が飛び込んでくるのだ、子供を受け取るようなわけにはいかない。
二人はもつれ合って、4~5mほど流され、テラス状の岩棚で止まった。

山ではほんの小さなことでも、命にかかわる。
その時は死ななかったけど、その先輩は、5年ほど前、ガンで亡くなった。
なのに、私はまだ生きている。

58 夕方tの剣 新越山荘食堂から8.15

剣岳が、幻のように佇んでいた。ガスがどこからともなく生まれ、そして消えていった。

種池山荘と裏剣岳2

種池山荘の向こうに立山、剣岳と、その巨大な容姿に圧倒された。

95 針の木雪渓2000年7月①

雄大な針ノ木雪渓に連なる人たち、何を想って一歩一歩踏み込んでいるのだろうか。