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一日一絵:上高地梓川。小梨平テント村の渡辺画伯は、まだ生きているのだろうか?

梓川の岸辺に腰を下して、白い波をたてて流れる川面を眺めた。
流れる水音だけが、私の身体を包んだ。
小鳥の声さえ聞こえなかった。

あの頃は数字のノルマで厳しかった。
ライバル会社が売り上げを伸ばしているのに、わが社はなぜ伸びん。
役員のわめき声を聞きながら、長野の代理店訪問に出張。

どの地区にも山好きな人はいるもの、夜の会議は居酒屋で山談義だった。
どのようにしたら数値があげられるか、それには山に行って山の精気に当たり、やる気を充分に養うことだ。
そこで上高地に出かけた。

その時上高地で出会ったのが、山のホームレス画家渡部勝夫氏である。
彼は塗装業を息子にまかせ、1年のうち100日間も上高地のテント村に居住。
河童橋のたもとで、雄大な穂高連峰を油絵に描いていた。
フト考えた。
彼のような生き方が、人間にとって最高の生き方ではないだろうか。

あの時からもう何十年もたった。
ところが5年ほど前、上高地に行ったとき、まだ渡部氏は健在だった。
ずいぶんと歳はとっていたが、それはお互い様だ。
人それぞれの生き方があるにしても、それでもやはりうらやましい。

コロナ自粛で、絵を描きながら回想した。

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穂高連峰
見上げる峰々は、3000m級の穂高連峰。
明治の時代、西洋の宣教師がヨーロッパアルプスにも匹敵すると賞賛した。その山々の威厳に満ちた雄姿が、眼前に広がっている。
しかし、雲や霧にかくれることなく全山をさらけ出す日は、そんなに多くはない。
なぜって、山は本来恥ずかしがり屋なんだ。
ガスというベールで顔を隠すことが多い。

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河童橋
その昔、河童が住むという淵があったそうな。
芥川龍之介の小説「河童」の主人公は、この近辺で河童を見つけ、あとをついていくうちに河童国に迷い込んだという話だ。
ここには非日常の世界が満ちあふれている。

IMG_0673田代池

田代池
霞沢岳、六百山の雪解け水が何十年も地下で育まれ、伏流水となって田代池をつくった。
大地でろ過された水には、色はない。
ゆっくりと流れる水面の、青い色は空の映り、緑の色は若葉が映り込んだ色。
手にすくってみればよくわかる。
完全なる無色透明だ。