いちごつみ60(はたえり・橋爪志保)

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去年にはたえりさんと発表したネットプリント「いちごつみ60」を公開します。


以下、テキストです。

ストップと言われなくって牛乳をコップの外へこぼしてしまう
道路へとすぐにとびだす心だよドクターストップさえきかなくて
紙吹雪散らせることの難しさ 心のままに春は傾く
メロンパンくわえたままで寝てしまう春の星座もわすれてしまう
でたらめな星座と思う明け方のシャワーヘッドを滴る水は
明け方にきみが小さくする咳の 狂えばかなしみもなくなるの?
だからこそ茹ですぎたラーメンのよろこび/かなしみを知ってるつもり
知ってる、とそっぽを向いてでも照れてポニーテールをかすかに揺らす
てらてらと水面を揺らす鯉の群れ 死は眸(ひとみ)から人を焼くのか
セックスの途中お腹に汗が降る 炎が炎を焼くところ 見て
うすく、低く、降る雨のなかミュージック・ビデオの恋人とすれ違う
恋人が好きでお金をあげたいとみんなに言えば笑われるけど
お金は大事と言い切るまでを3D映像めいて変わる信号
ゆうぐれの無菌室にてきみの手の平にモールス信号を打つ
一脚の椅子あり誰も座らせることなく無菌室の片隅に
背もたれのない椅子にずっと腰かけたままで季節をふたつ跨いだ
暮らすこと認めたくない地下鉄と阪急電車を濡れずに乗り継ぐ
地下鉄は風が吹くけど飛ばされるものをあいにく持っていなくて
マフラーを風のかたちに遊ばせて横断歩道を渡りきる
いつまでも編み終わらないマフラーが夜を命を支え続けた
ほろほろと椿が首を落とす夜の公園へあなたに会いにいく
公園を横切ってゆくチューリップの和名をきみに教わりながら
叱られてうれしくなった 球根の多分チューリップのプランター
叱られているのにきみは上の空 雨は上から空から降るね
きれぎれに書く小説の夕暮れに怒りのような雨を降らせた
もがいてるほうがいつでも主人公だから愛してるんだ小説
愛をしずかな湖へ浮かべる舟を漕ぐのは下手くそだけど
湖は神がその手を洗うため汲んだ大きな桶だとおもう
叱られることのもうない日暮れには犬の手綱をつよく引っ張る
引っ張ると紐がちぎれて笑われてくす玉よりもそれがうれしい
笑われて俯くさきに咲いている唾の花弁は鼻血まじりに
言い訳をしながら俯くきみのこと小学生みたいでなつかしい
小学生を殺した夢のカフェラテは熱ければ熱いほどおいしい
カフェラテをふくふく飲んで思い出のあなただけでも元気でいてね
元気でね 見送るためのスカートにあの日の川を刺繍しながら
その丘にあるたてものは無理矢理にスカート履かせようとする場所
おさなごの背たけほどある菜の花がいちどに揺れる無風の丘で
遠い日の背たけを比べあう仕草うかべればまぶたに熱い水
先週も通ったけれど懐かしい夕日に染まる沿線の町
沿線をぽてぽて歩く 恋愛の手前のような気持ちに迷う
金魚草 朽ちるのならば温かな手の感触をおぼえていたい
温かな言葉をいくらもらっても透明人間の透明な耳
行き過ぎた夏の余韻に揺れる葉の 私は私としてステージ(ここ)に立つ
自転車の車輪からから回るのを君との余韻に喩えたくない
自転車をどこまでも押すたんぽぽの綿毛みたいな人とふたりで
綿毛吹く口のかたちでさよならを言えば会えるかもねまた街で
窓越しの信用金庫 特別になるかなこの街を手放せば
特別でいたいと思うこころさえめずらしくない飴色の夜
こころから綻ぶ 絹の糸みたい 裸足で向かうから待っていて
かんたんになくなる身体が砂浜を見つけて裸足になって駆け出す
なにもない部屋にあなたは横たわる薄い身体に布遊ばせて
足元の働き蟻を遊ばせてやりたいくらいには疲れてる
脆い瓦礫をたくさん重ねて立っているみたいに足元を抜ける風
踏んだのは瓦礫ではなく人なのか 100円入れて戦うゲーム
生きると決めたから生きている日々に100円を拾えばうつくしい
雑草という名の草がないことを教わる日々のすきまには愛
そこにいるのね納戸の裏のすきまからポニーテールをゆらゆら見せて
コンタクトレンズゆらゆら剥がれたらどこへも行ける青い鱗に
船がいい プラスチックの帆をあげて大きな川をゆく青い船
きみの小さな川を思うよ いま朝の光がコップのふちに差し込む

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