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死刑にいたる病 読書感想文

この作品は精神的に弱っている時に読むことをオススメできない。

なぜなら「誰も自分の良さを分かってくれない。」だとか、

「人生が上手くいかないのは、自分の才能に気づける人が周りにいないからだ。こんなに頑張っているのに、我慢しているのに、自分のことを誰も認めてくれない。」
なんて思っているそんな時、

いつも話を聞いてくれる人が居たら、会う度に元気づけてくれる人がいたら、精神的に寄りかかりたくなってしまうかもしれないから。

相手が連続殺人鬼だとしても。





『死刑にいたる病』、映画を鑑賞する予習で読んだんですが、かなり、とっても面白かったです。
これはかなり好きなタイプの作品のような気がする。


映画化をされた白石和彌監督が、この作品の出てくる連続殺人鬼のことを「榛村大和というキャラクターが圧倒的に面白くて、彼を見てみたかった」と言っているインタビューがあるのですが、小説を読んだ私も榛村の魅力に取り憑かれている一人でした。



文章で想像する彼に惹かれたからこそ、実際に喋って、動いている姿を映像で見てみたくて、今は仕方がありません!



ちなみにどんな話の作品か、文庫版のあらすじを引用すると

鬱屈とした日々を送る大学生、筧井雅也に届いた一通の手紙。それは稀代の連続殺人鬼・榛村大和からのものだった。「罪は認めるが、最後の一件だけは冤罪だ。それを証明してくれないか?」パン屋の元店主にして自分のよき理解者だった大和に頼まれ、事件を再調査する雅也。その人生に潜む負の連鎖を知るうち、雅也はなぜか大和に魅せられていく

という感じの物語です。



この作品、全体に流れる空気感がかなり暗くて重たいので、オチの納得度は人によって分かれそうですが私は好きなタイプでした。
そのほかにも、この作品の素敵だな!と思ったところがいくつかあるので、どんどん書いちゃうぞ!

ネタバレをなるべく避けて書くので、ふわっと書いている部分もあります。そのあたりはご了承ください。

読んでいるときケーキは合わないかなと思い、チョコにした。



①ミステリーとしてとにかく面白い。


話の目的としては「主人公の雅也くんが、榛村のために冤罪を証明する」というものなのだけど、その過程で事件当時のことや、雅也くん、榛村の過去もだんだん明らかになっていく。
その情報が少しづつ少しづつ出てくるので、わかっている部分と、まだわからないこと部分のバランスが絶妙で、ページを捲る手がどんどん早くなってしまう。
めちゃくちゃ先が気になって仕方がない!!

個人的にいちばん衝撃を受けたシーンが、雅也くんが、とあることを榛村に確かめるシーンがあって、そこでかなり動揺しちゃうんですよ。読んでる私もなんか同化して軽く目眩を覚えた。
「うわーーー!!今までそういうつもりだったの?!」ってなったのが妙に悔しいのに快感だった。笑

で、最後まで読んで「やっぱりそういうつもりだったのか……」ってもっかい思っちゃった。それが心地よかったな〜。



②実在した凄惨な殺人事件の引用がたくさん出てきて、リアリティがすごい

この作品の中心となる榛村は連続殺人鬼です。しかも、かなりこだわりのある殺人鬼で、拉致した後に散々拷問をしてから殺すタイプです。
そんな榛村の過去や手口を振り返る中、実在したシリアルキラーのことも参考にする場面があり、彼らのエピソードも何度か出てくるのですが、正直読むのがしんどい。かなりしんどい。相当しんどい。

榛村の拷問シーンも、かなりしんどかった。文章を目で追うのがめちゃくちゃ辛かった。このあたりだけは、読むと本当に落ち込んでしまう。

ただ、この描写があるからこそ現実にあるであろう「負の連鎖」に対して、目を背けることができなくなる。実際にこういうことがあったりするんだ、と思うと心底ゾッとする。人間って、こわくて恐ろしい。こころが重くなる。

小説だからこの物語はもちろん創作なんだけど、この中に出てくる人間の暴力性や残酷さに対して感じる恐怖は間違いなく本物だった。
実際に目の当たりにしたことがなくても、それを存在しないことにしてはいけないと思う。

存在しないことにしたら、暴力から生まれる「負の連鎖」は世の中にないことになってしまう。自分で受け止めきれなくても、それはなんだかしてはいけない気がする。



③「負の連鎖」は「家族の物語」でもある。

「親ガチャ」という言葉があるのでそれを使って表現したいんだけど、榛村はいわゆる「親ガチャ」に外れてしまったんだと思う。

で、その外れた要因は榛村の親にもあって、「親ガチャ」っていうのは本当は「ガチャ」という運ゲーではなく、代々積み重なっていったものなんじゃないかと思ってしまった。
その積み重ねは「家族」という血のつながりがあると、なかなか抜け出せないものになるのかもなーと思ってしまった。

「親ガチャ」に外れる、にもいろんな種類があると思うんだけど、榛村のは「両親から愛情を注がれなかった」ことだと思う。
なぜ「愛情を注がれなかった」かというと親自身もそうだったから。きっと方法が分からなかった。それが続いていくのが「負の連鎖」なのかな、と思う。



④榛村が魅力的なキャラクター


とにかく魅力的です。
なんというか、彼が普段持つ清潔感や上品さの空気感が伝わってくるような文章でした。一方でミステリアスでも不気味でもあり、最後まで読むと「彼の掌の上で踊らされていただけでは?」と思ってしまったな。人心掌握がうますぎる〜!

作者の櫛木さんはこのキャラクターを生み出すために実在したものも含めて、いろんなシリアルキラーを参考にされたんじゃないかなと思うのですが、二次元だと吉良吉影も参考にしているのでは………と勝手に思っています。全然違ったらすみません!(吉良吉影も好きなんです。)


映画の予習としてそんなにページ数も多くないし、気軽に読もうと思っていた作品でしたが、想像以上に素敵な読書体験ができました。


小説買った時、実は映画バージョンのカバーも付いてきていました。
本屋さんではこちらのカバーが上だった
映画バージョンのカバーは阿部さんとめちゃくちゃ目が合う


櫛木理宇さんの作品は初めて読んだけど、他の作品も気になるなあ。
映画を観たあと、気が向いたらこちらも感想書きます。
面白かった〜!!!