見出し画像

ソジャーナ・トゥルース 29キリストの再臨

 ニューヨークを出たソジャーナはコネチカット州を抜けて、マサチューセッツ州にたどり着きます。

 当時ニューイングランドでは、エマーソンやソローなどが提唱した超越主義という運動が盛り上がっていました。超越主義はプロテスタントに根差した哲学でありながら、奴隷制廃止や社会改革も標榜し、各地で実験的な共同体が作られました。経済的には数年で破綻しますが思想が文学に与えた影響は大きく、ホイットマン、ホーソーン、メルビルなど、アメリカン・ルネサンスを代表する作家を輩出しています。

フルートランズはそうしたコミュニティの一つで自給自足・菜食主義を掲げ、『若草物語』のモデルとなったオルコット家族が数か月を過ごしました。

ノーザンプトン協会も、養蚕を基盤に平等な社会の実現を目指しました。賃金を撤廃し、女性や黒人に対する差別反対を訴える、きわめて先進的な共同体でした。

* 感謝祭の休暇で1週間ほどお休みします。残すところあと12ページあまり、必ず仕上げますので乞うご期待!(11/23/20)

__________________________________

 ハートフォードとその近辺で、ソジョーナは「再臨」の教義を信じる者数人に出会った。再臨とは、イエス・キリストその人が近々現われるという意味である。この考えを聞いたとき、イザベラはニューヨークでミラー氏の会合に出たときのことを思い出した。教会の壁には謎めいた絵がたくさんかかっていてイザベラには何のことかわからなかったので、理解が及ばないことの常で興味を抱かなかった。

 アメリカのこの地域で彼女は、再臨教義の信者たちが集まる野営集会(訳注:教会がない地域などで開かれた、屋外の伝道集会)に二回参加した。「再臨」ブームが最高潮に達していたときのことである。二回目の集会はウィンザーロックで開催された。参加者にとって再臨は最も重要な教義だったので、彼らは当然イザベラがそれについてどう思うか熱心に尋ねた。彼女は「まだよく分かりません」と答えた。「ひょっとしたら、自分に文字が読めたら違ったかもしれませんが」

 さらに質問がくり返されると、「神さまが来られないとでも考えているんですか?」と返事した。「わたしは神さまがすぐそこにおられると思いますけどね」

 こうした曖昧であたりさわりのない答え方をすることで、ソジャーナは再臨を信じていないことをぼかしつつ、彼らを興奮させずに意見を聞き出すことができた。再臨のように宇宙の根源をゆさぶるような大事件が、多くの人が信じているように本当に起こると信じるに足る根拠があるのかどうか、じっくりと確かめたかったのだ。信者たちの礼拝に招かれ、祈りを捧げ、独特のスタイルで話をした。歌を歌うと、魅せられた群衆が彼女のまわりを取り囲んだ。

 ソジャーナは自分が神とその教えを愛す者であると納得させて聴衆の信頼を得ると、スピーチもできるようになった。その内に「聴衆は妄想の中で苦しんでいる」と確信するようになり、自分が得た影響力を使って荒ぶる海に油を注ぐように人びとの恐れを沈めるようになった。

 ある野営集会の会場で、彼女は数人が興奮して集まっているところにでくわした。彼女は木の切り株に上ると叫んだ。

「みんな、聞きなさい!」彼らは新しい意見ならなんでも聞きたがったから、ソジャーナのまわりにすぐに集まった。ソジャーナは彼らを「子どもたち」と呼んで、なぜ彼らがそんな「空騒ぎ」をしているのか、自分たちは「目をさまして祈る」(訳注:マタイ伝26:41)ように命じられているのではないかと説いた。
「あなたたちは今、目を覚ましても祈ってもいない!」
そうして慈しみ深い母親のような口調で、テントに戻って騒いだり暴れたりすることなく「目をさまして祈る」ように諭した。
「神さまはこんな騒々しいところには来られない。神さまはひっそりと静かにおいでになったのだから(訳注:詩編に「神を静かに待つ」という一節がいくつかある)」
そうして聴衆に語りかけた。
「こんなバカ騒ぎをしていては、神さまが来てキャンプを通り過ぎて去ってしまっても、だれも気がつかないだろう」

 群衆は、取り乱したり落ち込んだりすることに疲れていた。彼らはイザベラの話を聞いて心を静め、騒ぐのを止めて自分のテントに戻り、「目をさまして祈る」ことにした。また、ほかの参加者にも「こちらの親切な姉さん」の言う通りにするよう勧めた。ソジャーナは自分が良いことをしたと思い、ほかの宣教師の話を聞きに行った。しかし彼らは、すでに狂乱状態にある人びとをさらに扇動し、興奮させることに全力を注いでいるように見えた。そうしてこれ以上耐えられないというところまで説教を聞くと、立ち上がって宣教師たちに挑戦した。

「あなたたちは『たちまち、一瞬のうちに変わる』(訳注:コリント人への手紙:15:52)ことを話しておいでです。でも神さまが今ここに来られたら、あなたたちの姿を一瞬のうちに消しておしまいになるでしょう! あなたたちはここにいる値打ちがないからです!」
「あなた方の話を聞いていると、これからどこかのお金持ちの家に行って、罪びとたちがすっかり燃えたら勝ち誇って戻り、彼らの灰の上を歩くかのようです。まるでここが新しいエルサレムにでもなるかのように! でもわたしには、罪びとの灰にまみれた世界に戻ってくるのがそれほど良いことのようには思えませんね! 第一、あなた方が言うようにもし神さまが来て火をつけられたら、わたしは逃げませんよ。ここに残って火に立ち向かうでしょうーーシャデラクとメシャクとアベデネゴのように!(訳注:旧約聖書ダニエル書に登場する三人のユダヤ人。バビロン王によって火の燃える炉に投げ込まれたが、神の御子に守られた) そうしたら、イエスさまが一緒に火の中を歩いて、わたしを守ってくださることでしょう!」

 牧師たちは突然現れた反論者に驚いた。そのうちの一人がソジャーナに質問し、聖書を引用しながらこれ以上はないというくらい親切な口調で議論を始めた。そうして最後に「彼女は集会の参加者が信じて疑わない再臨の偉大な教義のことは何も知らないが、だれにも教わらずに信仰について多くのことを学んでいる」と結論づけた。

 この集会で彼女はあちこちに住んでいる人たちから住所を渡され、ぜひ訪ねてくるようにと誘われた。カボットビルという町に行く約束をしたので、そこに行くべく出発した。ある日の夕方、六時ごろスプリングフィールドについたので、すぐ泊まる所を探した。六時から九時過ぎまで歩きまわったが、スプリングフィールドからカボットビルに向かう道に出ても、一夜の宿を貸してくれる家は見つからなかった。するとある男性が25セントを渡して、「これで宿屋に泊まるように」と言ってくれた。彼女はその通りにすると、翌朝男性の家を訪ねて、「確かに頂いたお金は宿代に使いました」と報告した。

 製造業で栄えるカボットビル(のちにチコピーと改名)に着くと、ウィンザーで会った友人が何人もそこに住んでいることを知った。一週間ほど彼らと楽しく過ごすと、エンフィールドのシェーカー村に行くために出発した。ここで彼女は、少なくと数か月間滞在してゆっくりできる場所を探し始めた。それまでほとんど、徒歩で長い旅を続けていたからだ。それにシェーカー教徒の生活にも興味があったから、そこの様子を見て、できれば彼らと生活を共にしてみたかった。

 スプリングフィールドに戻る途中、ソジャーナはある家に行ってパンを請うた。すると家の人はパンを気持ちよく出してくれただけでなく、泊まっていくようにと勧めてくれた。もう遅くなっていたし、これから宿を探すのもおっくうなので、彼女は喜んでその申し出を受けた。家の主人が入って来ると、ソジョーナとは野営集会で何度か会って話をしたことがあると言った。彼女も主人に見覚えがあった。主人は自宅で集会を開こうと言い、近所の家や友人に知らせに行った。間もなく集まった人たちに向かって、彼女はもう一度独自の主張を説きはじめた。

 この集会でソジャーナは近隣の住人何人かと知り合いになり、彼らの家に招かれた。招待を受けた彼女は、彼らの家で楽しいひと時を過ごした。
 その中の一人は、ソジャーナが町に来たときのことをこう書いている。

「私たちと仲間は再臨の教義を信奉するグループに属しているが、グループは表現と行動の自由も信じている。そこで私たちの集会には、この重要な教義に同意しない、変わった人たちも大勢やって来るので、新しい、風変りな意見を聞く機会がある」

「そこで私たちはソジャーナの言うことに熱心に耳を傾け、興味を持った。ソジャーナは人気者になり、彼女が集会で発言する時は、その堂々とした体格と威厳のあるたたずまいに会場は水を打ったように静かになった。話し方は風変りで無骨でさえあったが、その様子を笑う者はなく、聴衆全員が彼女の話に心を動かされて思わず涙した」

 また、その人はこうも語っている。
「ソジャーナの話から、英知と信仰についてそれは多くのことを学びました・・・彼女の祈りは感動的で、その上歌もじつに素晴らしいものでしたから、ソジャーナは私たちの集会で引っ張りだこでした。彼女の発言は常に的を射ていたし、独創的な比喩を用いて、それは雄弁なスピーチをしました」
「あるとき道を歩いていると、彼女は『みんなが正しくものを見るようになりさえすれば、世界はどんなに美しくなるだろう。今はなにもかも逆さまで、すっかりこんがらがっている』と言いました。光学について何一つ知らないというのに、実に驚くべき考察でした」

「私たちは、彼女の誠実で敬虔な姿勢に惹かれました。神に対する揺るがない信仰を持ち、いわゆる流行や、わたしたちが呼ぶところの物狂いによる騒ぎを軽蔑しているところも」

「彼女は旅で疲れた体をどこかでゆっくり休めたいと言っていました。フルートランズのことを聞いて、そこに行くつもりだったようです。でもソジャーナと親しくなった友人たちはノーザンプトンに行くのが一番だろうと考えました。私たちのところにいる間、彼女は必要とされれば働き、仕事が必要でなければ話をしていました」
「ソジャーナは、自分は神さまのために働いているからと言って給料を受け取りませんでした。生活に必要最低限のお金を受け取ることはありましたが、それは神さまが下さったものと考えていました」

「彼女は冬になってからもしばらくここにいましたが、私たちの勧めでノーザンプトン協会に移りました・・・そこから手紙が来て、『やっと安息の地に落ち着くことができた』とのことでした。以来、彼女はずっとノーザンプトンにいるのです」

29キリストの再臨 了 つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?