実録 銭湯ヌシの生態
2020.09.29
ヌシの生態って。ムシじゃないよ。
ヌシとはなんぞや。私自身もホーム銭湯の調布市・神代湯で勉強中なのだけれど、この半年ばかりで100軒超の銭湯を回った経験から、ヌシの生態について述べていきたい。
ヌシの定義は、まずはその銭湯における常連であることが絶対条件となる。鶯谷・萩の湯のヌシのように、上野駅判型5kmの広域を牛耳るヌシもいるにはいるが、基本的には週二以上同じ銭湯に通う常連を指すと理解されたい。しかしながら、ただ通っていればヌシとなるかというと、潔く否である。常連の頂点を極め、店主からも一目置かれるひとかどの人物、それがヌシである。追って事例を挙げていくが、常連には良い人と悪い人がいるように、ヌシにも良いヌシと悪いヌシとがいる。
「ヌシ」というと、悪い常連をイメージしがちであるが、ここでは良いヌシも含めたトップ・オブ・常連の意であると理解いただきたい。
ヌシは、私自身は一目見てだいたいわかるようになった。常連かどうかは月極めの貸しロッカーを使用しているかどうかで大方わかるし、持ち物でも見分けがつく。持ち物での見分け方を除けば、正直、フロントや脱衣所だとなかなか見抜けないものだけれど、浴場やサウナに一歩足を踏み入れた途端、つまり、裸一貫になった途端にそれは、わかる。
浴場でのヌシの見つけ方は、人の群がりだ。やいのやいのいっている軍団の中で、存在感を示している存在、それがヌシに他ならない。静かに身体を洗っていても、もしくは湯船に浸かっていても、はたまた、身体を拭いていても、舎弟のようなオンナコドモらが挨拶する存在、それがヌシ。初心者の方は、浴場での挨拶風景を眺めると、その場を支配しているヌシが誰なのかわかりやすいのではないかと思う。
一方、サウナー諸兄、諸姉におかれましては、静謐なサウニングを脅かす存在、恐怖のヌシがサ室には蔓延っているイメージをお持ちなのではないだろうか。
サ室でのヌシは、言わずもがなであるが、同じくおしゃべりの中心にいるケースが挙げられよう。テレビのあるサ室であろうと、テレビの音量は声量に敵わず、悲しいかな耳栓フックを要する場合もある。
私の経験でも、池尻大橋・文化浴泉と西東京市・庚申湯にて耳栓を発動したが、音を遮断しても声が聞こえてしまうし、なにしろ落ち着かないので、人を憎んで施設を憎まずでお願いしたい。
こんな状況下では出直すに限る、哀しいかな。正義感を発揮して注意するなど、返って自身のダメージが大きくなることは目に見えているので、諦念し、早く退店することを強くお勧めする。
ちなみに、汗をかけるのをやめてほしい、席を詰めてほしい、などのお困りごとは直接加害者に伝えるのはやむを得ないが、サ室の扉の開けっ放しをやめてほしい、おしゃべりをやめてほしいなどは、ご法度だ。あなたがその店の新たなヌシとしてやっていく覚悟がお有りならとめないが、一見さんの場合は近くの別の店に向かうべしだ。
さて、ヌシはおしゃべりしている軍団の中にのみ存在するとも限らない。部屋の特等席、大抵は最上段で、かつ、入り口から遠めの席に座っている。体勢でいえば、膝を立てて座っているケースが多いと見ている。
特等席のケースは、おしゃべりしていることも多い。加えていえば、痩せ型のケースもこれまで多く目にしてきた。ガンジーさんのような修行層のようなスタイルで、高齢で小タオルを腰に巻いている、なんなら細身なのでタオルを一周半くらいに巻き上げいるだろうから、外見から一目瞭然だ。上野・白水湯、鶯谷・萩の湯のヌシは特等席かつガンジータイプに当てはまる。
そして、孤高のヌシというのもいる。これは私が目指すヌシのタイプに他ならず、サ室の空気を支配している。静寂を好むこのタイプは、新宿・大星湯のカサイさんが唯一のサンプルである。話しかけるなよオーラを放つその姿は、たとえば、テレビのないサ室で見かけることがあるのではないだろうか。
孤高ヌシには、入退室時など、タイミングさえ許せば話しかけてみてはいかがだろうか。ヌシ全般に言えることだが、その銭湯の歴史、混み具合、オススメのお湯、店主やほかの常連さんたちの噂、近場の飲食店などを把握しているので、ご新規銭湯だったり、銭湯お遍路をしていたりすると、有難い情報の宝庫でもある。私自身もカサイさんに美味しいお店を教えてもらい、次回は一緒に行く約束までさせてもらった。
良いヌシに出会い、楽しい銭湯ライフを送りたいものだ。