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地球のはなし 文化賞を受けて

 文化の日に、光栄にも大分合同新聞文化賞をいただいた。その翌日、宮城県の鳴子温泉に行った。遠いけれども、簡単に行けるだろうと高をくくっていたら、飛行機や列車の連絡が悪くて容易ではなく、仙台で1泊し、東北本線の小牛田経由で行くことになった。

 本線とは言いながら、今やローカル線である。窓外には、明るい日差しを受けて、収穫を終えた稲田が広がり、点在する農家の庭先には色づいた柿の実が光っている。鎮守の森らしい木立が所々にあり、遠くには山並みがかすんでいる。小春日和の豊かな農村風景を絵に描いたようで、非常な冷夏を過ごしたとはとても思えなかった。

 以上は余談。鳴子に行ったのは、今春発足したばかりの温泉地域学会の集会に出席するためである。9月末に別府で国際学会を開いたばかりだが、新学会は温泉地のあり方を探ろうとする、文系主体のもので、私が専門としてきた自然科学とはかなり違うようにみえて、興味をそそられたのである。はたして、温泉を核とした地域起しの活動例、湯治場の変遷、温泉に関わる法令の考察などが報告され、一口に温泉と言っても、さまざまな切り口があることを実感した。

 我われが楽しんでいる温泉は、もちろん自然現象である。しかし、日本各地にそれぞれの特徴を示して残る、今の温泉の姿を作り出したのは人間であって、まさしく文化である。このたびの文化賞に恥じぬよう、温泉をより幅広く理解できればと思う。
                          (2003.11.14)

別府温泉地球博物館理事長の由佐悠紀が執筆し、新聞・雑誌などに掲載されたものを順次ご紹介しています。


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