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「嫌いになる理由なんて、見つからないですね。」 この町の大人は、かっこいい。

キラキラとした目でお祭りと地域について語る若者。

やりたいことを躊躇せずに口にする思い切りの良さと、誠実さが眩しい。

こんな若者を生み出す入谷の町は、やはりすごいのだと感じされられる。

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<Profile>
加藤有貴(かとう・ゆうき)さん。
入谷で生まれ育つ。保育園で働く料理人。子どもたちに食べ物のことや食べ方などを教えている。
氏子青年会では最年少のメンバーとして様々な行事で活躍。お神輿には特に力を入れている。

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ーー料理人だと伺っていたので、勝手に風貌を想像していたのですが…。

あ〜、きっと違う風貌ですよね。「料理人」って無骨な感じだと思うんですけど、子どもと一緒にご飯を食べて、食べ方を教えるっていう、ちょっと違ったタイプの料理人ですね。

ーー何かスポーツをされているんですか?

以前は野球や剣道、相撲などをやっていましたが、社会人になってからは特にしていません。今はトレーニングジムに通っています。お神輿を担ぐために。

ーーお神輿のために?

はい。頑張ろうかなと思って。
お神輿は一年に一度しかないんで、そこにかけてます。オリンピックじゃないですけど、「そこに向けて」みたいな気持ちで。アスリートになっちゃってるかもしれないですね(笑)。

ーーお神輿ってどこの筋肉を使うんですか?

全身痛くなりますね。先輩たちは「足だ」って言うんですけど、僕はお腹が結構きます。
お神輿を上げる瞬間って大変なんですが、「ヨイ・ヨイ・ヨイヤサ」みたいな感じでワッて上がるその瞬間がかっこいいんですよ。先輩たちの担ぎ方を見てきて、「いいなあ、ああいう風になりたいな」ってずっと思っていて、気付けばひたむきにやってきた感じです。

でも、これだけ鍛えてもお神輿を担いだ次の日は全然体が動かないです。まだまだです。今すでにその疲労感すらも気持ちいいみたいな感覚なので、完全にハマっちゃってますね。

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父の猿田彦に憧れて

ーー生まれも育ちもずっとここで。

そうですね。子どもの頃からずっとお囃子の音を聞いているので、気付いた時にはもうお祭りに参加していました。

昔から家族みんなで神社の行事に参加していたので、自然と生活の中に神社の存在がありました。父親が「猿田彦」をやっていた時の写真や、それを見る兄と僕と妹の写真を見せてもらって、「何かいいな」と感じた思い出があります。

ーー「猿田彦」ってどんな役割をされるんですか?

高い一本歯下駄を履いた天狗様の姿になって、本社神輿を先導する役割です。見た目はちょっと怖いんですよ。僕も子どもの頃は見てよく泣いたんですけど、本当はいい神様で。大人になって素敵な神様だと理解できました。父が猿田彦をやっていて誇りに思いますし、すごいなと思います。
お祭りの中で大役をやるのは憧れなので、私もいずれできたらいいなって考えるようになりました。

ーー5月の大祭が近づくとどんな気持ちになりますか。

楽しみであったり、またこの季節が来るなっていう独特な緊張感みたいなのもあります。

前日は早めに寝て本番に備えるというのはありつつ、前夜みんなで集まって楽しくてつい夜更かししてしまって、ちょっとこの辺(ほっぺ)が浮腫んじゃうみたいなのもあります。それもお祭りの一つなのかなと思いながら楽しんでいます。
なので、前日も楽しんで、当日も楽しんで、って感じです。

ーーお祭りの当日はどんなことを考えていますか。

揉め事なく怪我なくっていうのを意識しています。何か一つでもトラブルがあると楽しくなくなってしまうので。せっかく同じ時間を共有するからこそ、楽しんでその日が終われたらいいなっていう気持ちでいます。

ーーお祭りで一番楽しい瞬間は。

お神輿を担いでいる時よりも、お神輿を担ぎ終えた時ですかね。「終わっちゃったんだな」というしみじみとした気持ちの中、その日の道中でやってきた色々な出来事を振り返って、達成感を感じられます。

お神輿を担いでいる瞬間はワッと盛り上がっているのであんまり覚えていなくて。一日が終わってひと息ついた瞬間に、達成感がじわっと広がってくるんです。先輩たちと「やったな今日は」って言葉を交わす時間が、一番楽しいですね。

仕事とも友達とも違う、大切な繋がり。

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ーーお祭りや行事はご自身にどう影響していますか。

とても自分の日常生活に影響を受けています。土地で巡り会えた出会いを大切に、お祭りで出会った人たちの意見や発言を自分のプライベートや仕事に落とし込むようにしています。

お神輿で辛くても頑張ってきた自負があるからこそ、仕事のちょっとしたことでも耐えられるメンタルの強さが身についたと思います。お祭りのことを「それはそれで」にしないで、普段の生活に結びつけるように意識していますね。

ーー会社の人との関わり方とは違いますか。

そうですね。職場の人より距離感が近い感じもしつつ、でも厳しい先輩や細やかな指導をしてくれる先輩もいるので。素敵な人ばかりでいい刺激になっています。特に、氏子青年会を引っ張ってくださるリーダーの方々は本当にすごいなって心の底から思っています

皆さん仕事をしながらお祭りのこともしていて、同時進行の中で一生懸命なんです。社会人ペーペーの僕ですら両立が難しいのに、会社である程度の地位がある人がお祭りなどの行事にも手を抜かずに活躍されているのはとても尊敬します。

ーー大変な活動も多いと思うのですが、嫌になったことはありませんか。

嫌になったことは無いです。全ての活動が楽しくて、自分にとっての趣味みたいになっているので。嫌いになる理由なんて見つからないですね。他の方も同じで、大変なこともみんなで楽しんでやっている雰囲気があります。

皆さん「息子さんなんだ」と言って家族のようにとても可愛がってくださって。様々な人と関わる中で、自分の悩みをを全く違う価値観の先輩に相談できます。プライベートのこともそうですし、お祭りのこともそうですし、仕事のこともそうですし。色んなタイミングで人生経験豊富な方たちに相談できるのは、ここにしかないメリットなのかなって思います。すごくそれは自分の為になっていますし、ありがたいです。

今度は、自分たちの番。

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ーー友達からは地域で頑張っていることをどう言われますか?

結構色々な意見があります。「すごいね」とか「羨ましい」って言われることもありつつ、お祭りのために体を鍛えるなんて「ちょっと変わってる」とか「やり過ぎじゃない」と言われることもありますね。
「やってみたい」と言われた時は純粋に嬉しいですし、断られた時はしょうがない。でもそういう積み重ねでやっていけば、いずれは良さに気づいてくれるのかなって思っています。

それに、否定的な意見を言われたとしても、それって逆に羨ましさから来る考えなんだろうとポジティブに捉えて、ちょっと自慢げに「いいっしょ」みたいな感じで受け応えをしています。全般的にはみんな興味を持ってくれるので、同世代には「お神輿だけでも来てね」って声を掛けています。

僕は正直、父親との繋がりがあってこそみんなに良くして貰ったと考えています。なので、今度は僕が輪を広げていく番だと思っています。最近は「一緒にやっていきませんか」「盛り上げていきませんか」ってお祭りの良さを伝えていく立場になってきたと自覚しています。

だから積極的に自分から発信して、友達や仕事場の先輩後輩も巻き込んで、横の繋がりを増やしていきたいですね。

ーー同世代にどんなことを伝えていきたいですか。

お祭りや行事が根強い地域なので、せっかくそういう土地にいるからこそ、もっと色んな関係性を広げて一体感を出して、この町にしかない雰囲気のお祭りにしていけたらと思います。

この町は「古き良きものがある場所」なんです。時代が進んでいく中でも昔ながらのいいものをちゃんと守って、伝統ある町・土地だと言われたら嬉しいですし、僕自身誇りに思っています。

ーー氏子青年会としての目標はありますか。

まだ同年代が少ないので、それこそ横の繋がりを増やしたいと考えています。今まで先輩から学んできたものを広げていきたいです。

そして伝統ある会をこれからも絶えず長く続けていけるように、下の世代にもどんどん受け継いでいけたらと考えています。氏子青年会は昔からの人の繋がりで成り立っているので、その感謝の気持ちを忘れずに受け継いでいきたいですね。

ーーこれからもずっとここに住み続けたいですか。

そうですね、この町が許してくれる限りは。住んで、この町のために何かやれたらと思います。

ーーきっと、許してくれると思います。

そうですか、嬉しいです。ありがとうございます。

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地域の方の思い、いかがでしたでしょうか。
この記事は、「明日を始める夏に。」小野照崎神社 令和2年 大祭特別企画 でのインタビュー記事です。

みんなでお神輿を担ぐことができない夏。
この機会に、会えないからこそ、お祭りを通じた繋がりや地域の和を今一度感じることができたらと、「お祭りのスペシャルコンテンツ」を制作しました。

こちらの特設サイトから、ドキュメンタリー映像やその他の特集記事もご覧いただけます!

小野照崎神社(おのてるさきじんじゃ)

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東京の下町 入谷にある学問・芸能・仕事の神様をお祀りする神社です。
御祭神は、平安時代有数のマルチアーティストである 小野篁(たかむら)公。文鳥を愛する絵画の神様で、百人一首にも登場したり朝は朝廷に夜は冥界に出勤される多動な神様です。852年⛩創建 、境内には重要文化財の富士塚も🗻

東京メトロ日比谷線 入谷駅 4番出口 より徒歩3分
JR山手線 鶯谷駅 南口 より徒歩7分

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「明日を始める夏に。」小野照崎神社 令和2年 大祭特別企画
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