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しっとりしたもの

しっとりとした食感の食べ物が好きである。パリパリとかサクサクとかそうした食感のものも嫌いだと云うわけではない。そうしたクリスピー系の良さもそこそこ承知しているつもりだ。その上で、しっとりしたものへの僕の気持ちを書いてみたい。しっとりと云ってもその世界観は広く、淑やかな口当たりの和菓子のような上品なものから、不本意な時間経過を経て湿気ってしまったと云う世間一般では好ましく思われないものまで含まれると考える。その湿気っているのも含めて僕はしっとりしたものが好きである。煎餅、ポテトチップス、ピーナッツ、クッキー、そうしたものを食べてパリッとした食感がないと「湿気っているじゃないか」と怒る人までいるが、僕は逆にそのくきゅっとした食感を「やった、湿気っている」と愛でてしまうニンゲンである。多分子供の頃からその傾向はあって、バリバリとした食感のものを食べるとそのバリバリとした音がうるさく感じられて硬い煎餅やフライなどを敬遠した記憶がある。そんなことを事細かに思い出したきっかけは友人から貰ったある食べ物が大変にしっとりしていたからに他ならない。

オートミールクッキー

鎌倉の菓子店製のオートミールクッキーである。これが大変にしっとりしていた。半分に割ろうと思ってクッキーの両側を持って折り曲げたところ、かなりの角度になるまで二つに割ることが出来ずに、180度近くになってようやく裂け目が出来たくらいであった。このぐんにゃりとした感覚はしっとりを通り越して湿気っているに近いかと思う。パリパリのパの字もない。ぐんにゃりである。僕の心が即座に躍ったことは云うまでもない。

オートミールクッキー

ウマウマウー。食べてみるとみっちりとしたクッキーの中に自分の前歯が抵
抗を感じながらくくっと入り込んで行く悦楽を感じ、しっかりと練られたオートミールがゆっくりと口の中に解けていく快感に浸った。素朴な甘さにシナモンの爽快な香りとレーズンやクランベリーなどの風味も加わって驚くほどに豊か。こんなにウマイモノがこの世にあるのかと驚いたほどにウマイ。あまりにもウマかったので一度に全部食べずに少しずつ大切に食べることにした。そうしたら驚くべき事態に直面したのだが、このオートミールクッキーは放置しておくと湿気るどころか逆に乾いてパリパリポソポソとしてくるのだった。大変に驚いた。それではしっとりの醍醐味が薄れてしまう。しっかり密封して大切に保存しなくてはならない。オートミールクッキー恐るべし。いや恐れずに前に進め。そして味はもちろんのこと、この食感から色々なことを連想した。

銚子鉄道ぬれ煎餅

その一番手がぬれ煎餅であった。千葉県銚子市の名産品。この銚子電鉄ぬれ煎餅と云うのが一番有名であろうか。元々は醤油が沁み込みすぎてしまった規格外品を商品化したとか、銚子電鉄の再度に渡る存続のピンチを救ったとか、様々なぬれ煎餅のエピソードがあるのだが、僕個人的にはぬれ煎餅の存在を知って初めて食べた時の衝撃を忘れない。ドンズバであった。ドンズバとはもう死語に近いが、この表現しか思い浮かばない。僕の好みのど真ん中ストライク剛速球なのであった。

銚子電鉄ぬれ煎餅

色々な味がある中で、やはりこの赤の濃い口味がバツグンでドンズバである。薄味にしてどうする(青のうす口味)。甘くする意図はどこにある(緑の甘口味)。ぬれ煎餅は濃い口だけあれば充分じゃないか。とは思うが世の中には色々な好みがあるので、バリエーションがあると云うのは良いことであると思う。そう思うことにする。

銚子電鉄ぬれ煎餅

ウマウマウー。たまんないねこれは。しっとりとか湿気ってるとかを超越して、濡れているんですもの。くにゅっとした食感と醤油の豊かな味と香りのコントラスト。こんなにウマイモノががこの世にあるのかと驚いたほどにウマイ。これは我慢が出来ない。僕から我慢と云う概念を完全にかき消してしまう秘密の成分が入っているに違いない。あるだけ食う。とにかく食う。何枚か食べて残りは後で食べようなんて悠長なことは云っていられない。赤も青も緑もとにかく食う。全部食う。だから大量に買ってはいけない。少しずつ少しずつ自分に与えなければならないのだ。自制が効くのは買う時まで。その後は自分に責任が持てない。ぬれ煎餅とはそう云う食べ物である。僕にとっては。そしてそこからまた思い付いてしまった。もっと怖ろしいものを。

磯辺巻き(磯辺焼きとも云う)

焼き網で切り餅を焼き始めてしまった。これをどうするか。決まっているではないか。磯辺巻き磯辺焼きとも云う)にするのだよ諸君。

磯辺巻き(磯辺焼きとも云う)

お餅の表面がパリッとしたところにお醤油をまぶして、お餅の内部にまでお醤油を行き渡らせる時の達成感たるや。膨らんだお餅にお醤油を沁ませた途端にしゅぅーっとしぼむのがもう好きで好きでたまらない。更にはお醤油に化学調味料を少量忍ばせてあるのは古くからの伝承しきたりに従ったまでのこと。問答無用。これに海苔を巻けば磯辺巻き磯辺焼きとも云う)の完成である。

磯辺巻き(磯辺焼きとも云う)

ウマウマウー。願わくばこの状態から更に数分放置して、海苔が充分に湿気ったくらいで戴くのがベストだと考える。それでこその磯辺巻き磯辺焼きとも云う)。お雑煮の中にあってとろとろととろけてゆくお餅も素晴らしいが、やはりこの磯辺巻き磯辺焼きとも云う)こそが最高峰であろうかと思う。こんなにもウマイモノが世の中にあるのだと全世界全宇宙にに申し上げたい。僕が若い頃のお正月は一升の(約2Kg)のし餅が三が日の間にアッと云う間に何枚も消えてしまうと云う超常現象に直面したものだ。小野瀬家男兄弟3名(僕は長男で身体のサイズが当時一番小さい)が誇るブラックホール並の食欲の前に黒い海苔を纏った切り餅が次々と消滅すると云う惨事に両親の心中を察するに余りあることで御座います。一人一度に8コとか10コとか食べていたんじゃなかったか。それもまた数時間経つと餅を焼け磯辺巻き磯辺焼きとも云う)を作れと熱烈なアンコール。そしてアンコールに次ぐアンコール。のし餅に青カビを生やす余裕を与えない。あの頃、僕たちの磯辺巻き磯辺焼きとも云う)は完全に別腹だった。

チーズ好きのためのポンデケージョ

そして方向性は変わるが、セブンイレブンのチーズ好きのためのポンデケージョもかなりしっとりとしている。これをもっちりとかもちもちとか形容する向きもあろうかと思うが、僕はこれをしっとりカテゴリーに参入させたいと思う。

チーズ好きのためのポンデケージョ

餅のようでもある。このポンデケージョと云うのがブラジル発祥のパンだと知っている人はどれだけいるのだろう。僕が知らなかっただけか。そうなのか。ポンデケージョ Pão de queijo とはブラジルのミナスジェイラス州が発祥のパンの一種。小麦粉でなくキャッサバの根茎から作られるタピオカ粉を使用。知らなかった。世の中は知らないことだらけだ。

チーズ好きのためのポンデケージョ

ウマウマウー。これも止まらないヤツだ。トースターで少し焼くとウマイ。3コ入りだが秒殺。ゆっくり楽しむ余裕はない。こんなにウマイモノがと驚いたりはもうしないけれど、やはり異次元空間に通じる特殊能力を持ち合わせているようだ。内部のしっとりさ加減は領域展開級。わかりにくいですかこう云う表現は。だって呪術廻戦好きなんですもの。まあいいか。それはともかくセブンイレブンのラインナップではバタースコッチ正統派しっとりカテゴリーの頂点ではないかとも考える。それはまた食べて検証する。

天一軒のヤキメシ

そして究極のしっとりは僕の魂が世界の中心で愛を叫ぶ(きゃーっ)神戸三宮『天一軒』のヤキメシへと及ぶことになる。高級中華料理店で出て来るようなパラパラ炒飯の対極。しっとり系なんてもんじゃない。ぺたぺたとしている。でも決してぐずぐずとかべとべとではない。ゲゲゲの鬼太郎に出て来る皿小僧の歌よろしく「ぺったら ぺたらこ ぺったっこ」そのものなのだ。あまりこの歌を引用すると隠れ里に連れ去られてしまうので注意されたい。ブログの方にも何度も書いているが、宇宙人が地球にやって来たならまずこの天一軒のヤキメシを食べさせてやりたい。地球を代表する味だと思うからだ。こんなくだらないことばかり書いていて信憑性がないと思われましょうがいや本当にウマイんですから一度食べてみてください。僕が云っていることが真実だときっと判ります。

天一軒のヤキメシ

ご飯の一粒一粒に旨味が満遍なくコーティングされている。奇跡的な味わいだと思うのだ。このヤキメシに出会ってもうすぐ10年。たった10年だけど、もっと昔から一緒だったような気もする。出逢いこそが生きていることの意味。あなたに出逢えて良かった。何だか尤もらしいことを云っているようだけど馬脚を現す前にやめます。

天一軒のヤキメシ

ウマウマウー大王全ウマウマウーの頂点であろうかと思う。アルプス連山のように頂点は幾つもあるけれど最高峰の一つ。その名は天一軒のヤキメシ。それにしてもウマイ。このままでもウマイのだけれど、卓上にあるウスターソースを回しかけると味わいが一変、洋食の味わいにまで到達するのである。どんな美辞麗句を並べても追い付かないくらいの逸品。しっとり万歳。それにしても今回の文章も全くまとまらず。まあいいか。しっとりしたもののことはこれからもまた考えて書くつもりです。それまで皆様、しっとりと元気にいてください。何のこっちゃ。


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