侵略者を撃て【バルタン星人】

1966年7月17日に初放映されたウルトラマン第2話「侵略者を撃て」。今（2020年）の子供にも名前が知られているバルタン星人が登場します。母星が爆発してしまって行き場をなくしたバルタン星人ご一行様（ミクロサイズになって円盤の中に20億3000万人）が偶然地球に飛来し、地球を気に入って侵略の意向を示し（示したのは多分ノーマルサイズの一名だけ）、ウルトラマンと対決して倒され、円盤も一網打尽でハイそれまでよ（全滅はせずに生き残りが後に何度も地球やウルトラマンに挑戦するが）と云ったお話。前話でウルトラマンが地球に来ていなければ地球はバルタン星人に乗っ取られていたのだと考えると、子供心にも本当にラッキーだったと思ったものでした。でも円盤の中の20億だかのバルタン星人は、ウルトラマンのいる地球にさえ来なければ生き延びられたのではと考えると、何だかそこには僕たちには預かり知れない宇宙の掟でもあるのかとちょっとおっかないような気もした。母星がなくなったのは自分たちのせい（バルタン星人の科学者が爆破してしまった）とは云え、難民の末路としてはあまりにも悲惨ではないかとも考えた。それでも劇中で一度ハヤタ隊員がバルタン星人との交渉時に地球への受け入れの意思も示している。それを反故にした一人が侵略に転じたことで、全員がほぼ全滅と云う憂き目に遭うこととなった。これは人災とも考えられる。リーダーとは本当に大切なのだなと今の世の中に照らし合わせてみても深く感じ入るものがある。

劇中に「核」と云う言葉が何度か出て来る。バルタン星が爆発したのも核実験の失敗で、バルタン星人（巨大化後）に向けて発射されたのも「はげたか」と云う核ミサイル。僕たちの子供の頃にはそうやって「核」と云う怖ろしい存在が身近に感じられた。僕が生まれた1962年の後半にキューバ危機が勃発した。主役はキューバに配備されたソ連の核ミサイル。紙一重で戦争は回避されたが、もしかしたら今日と云う日は来なかったかも知れない。当時は現在のような迅速な報道や過剰なほどの情報が溢れるような状況とは程遠かったので、隠すことは見事に隠され、後でそうだったのかと魂消るようなちょっと考えられないくらいに鷹揚な時代だったけれど、確実に人類滅亡が起こり得た時代でもあった。原子力には未来があって核には破滅の響きがあった。「核」と云う言葉を聞くとドキッとした。それが同じ原理のものであると知るのは、もっとずっと後のことです。

僕がギャンブルを一切やらないのは、父親がやはりギャンブルをしなかった影響が大きい。それでも競馬はごく一般的な世間の関心事だった。このウルトラマン第2話の中でも、矢継ぎ早にされる無線の連絡に「競馬の中継じゃないんだから」と云う場面があって、そこが当時の笑いのポイントになっている。隔世の感あり。隔世の感と云えば煙草。50年くらい前は煙草なんて駅どころか新幹線車内でも中距離電車（東海道線とか）の車内でも吸えたんだから。東急東横線は吸えなかったけど駅なんかは煙草の煙でモクモクだった。パチンコ店の店内も凄かった。まだまだいっぱいあるけれど煙草の話はまたの機会に。

僕がこの第2話で今でも気に入っているシーンは、バルタン星人との宇宙語での交渉役を仰せつかったイデ隊員が、バルタン星人が占領している科学センターの入口に、あれこれ理由を付けてなかなか入ろうとせず、ハヤタ隊員に「（交渉が）こじれたらお願いしますよ」と援助を懇願したところで「こじれるほど通じたら大したもんだ」とハヤタ隊員が返すところ。このやりとりが何ともウィットに富んでいて大人っぽくて感心したのを覚えている。今でもこのシーンは大好きだ。こう云う本筋から逸れたところに僕の好みのポイントがある。ウルトラマンでも、音楽でも、野球でも、実生活でも、何でもそう。これは子供の頃からずっとそう。これからもきっと、最期までそうだと思う。

そして最後に。この第2話だけ、イデ隊員もフジ隊員もテレビの視聴者である僕たちに語りかけるシーンがある。冒頭と、エンディング。君と僕だけのナイショ。あまりこうした手法は好きではないのだけれど、この後のウルトラマンでもウルトラシリーズでもこの語りかけは、僕の記憶にある限りではこの回のみだと思う。この一瞬だけ僕の世界とウルトラの世界が確かに繋がったのだ。でも僕たちが知っているのはイデ隊員の目の周りの痣の原因が何であったかで、イデ隊員もフジ隊員もウルトラマンが誰なのか最後まで知らない。僕たちは全部知っている。そして僕たちからはイデ隊員に教えてあげることは出来ない。傍観者としての自分を意識すると、やはり孤独を感じることとなる。そんな寂しいことを書くつもりではなかったのだけれど、後に出て来る怪獣墓場の話が妙に腑に落ちて心安らぐ子供時代の僕だったので、それでいいのかなとも思う。

※ワタシの持っているバルタン星人のTシャツです。カッコイイ。