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エドワード・ヴァン・ヘイレン

ロックギターの世界に革命をもたらしたギタリスト、エドワード・ヴァン・ヘイレンが2020年10月6日に喉頭ガンのために逝去されました。享年65歳。心からのご冥福をお祈りします。

エディーのことを書こう書こうと思っていたら随分と時間が経ってしまった。頭の中を整理するのが意外と大変だったのだ。意外と思われるかも知れないが、僕はエディーにかなり影響を受けている。リアルタイムでドンズバだったのもあるけれど、エディーのギターが大好きだった。他の人とは好きの在り方がきっと違うのだろうと思うけれど、僕の中には今でもエディーがいる。エディーがインスピレーションを与えてくれる。これからもずっと。だからがんばって書いてみる。

ヴァン・ヘイレン(バンド名)のデビューは1978年。僕が高校に入学した年だ。デビューシングル「ユー・リアリー・ガット・ミー You Really Got Me」(モチロン7インチのドーナツ盤よ)はすぐさま入手した。何度も何度も繰り返し聴いた。一緒にギターを弾いた。ジャケットに記載されていたファンクラブの住所が横浜市鶴見区だったのを良く覚えている(当時僕の通っていた高校も同じ鶴見区)。この年と翌年1979年にヴァン・ヘイレンは来日してコンサートを行っている。僕は残念ながら観に行けなかった。

この「ユー・リアリー・ガット・ミー」のイントロのギターが半拍(8分音符分)ずれて聞こえるのは初歩的なトリック。僕も最初はこう聞こえた。

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これだとドラムとベースが半拍遅れて入ってしまう。正解はこちら。

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これでちゃんとベースもドラムもピッタリ入る。僕はこのトリックに随分と騙されてずっと上の譜面のように聞こえてしょうがなかった。AC/DCの「地獄のハイウェイ Highway to Hell」などはもっとトリッキーで手強かった。僕は思った。僕は騙されやすい人間だ。すぐに相手の思うツボにハマってしまう。気を付けて生きないといけない。心しよう。僕がヴァン・ヘイレンやAC/DCから大きく学んだことはそれだ。心から感謝している。

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デビューアルバム『炎の導火線』は衝撃的だった。僕だけでなく全世界的に衝撃的であった。西暦のB.C.とA.D.があるようにこのアルバムの前後でロックの世界は変わってしまったと云っても過言ではないと思う。特にエレクトリックギターの世界は激変した。それまでにも超人的なテクニックでバリバリ弾いているギタリストはいっぱいいた。だけどこの突き抜け感は圧倒的だった。フランク・マリノやジョニー・ウインターと云った超高速ブルースフレーズで突破するタイプのギタリストに傾倒していた僕も、ヴァン・ヘイレンの新しい奏法は最重要練習課題となった。その一つはライトハンド奏法。今ではタッピングと云う(んですよね)。ネックの指板上に左手の指だけでなく右手の指も参加させて、抑えたり放したり叩いたりしながら音を出す(雑な説明ですみません)のがライトハンド奏法、タッピングであります。当時の高校のクラスメイトや先輩も後輩も、ギターを練習しているヤツは皆こぞってこの奏法を練習していたのを覚えている。僕は皆がやると自分はやりたくなくなる天の邪鬼な性格なので、人前で自分の練習成果を披露するなんてことはなかったが、実は家ではずっと練習していた。そこそこ上手く出来るようになった。今でもやってやれないことはない。スピードは遅いけどね。

でもエディーはライトハンド奏法だけじゃないんだ。このアルバムの1曲目「悪魔のハイウェイ Runnin' with the Devil」(地獄じゃないの、ややこしや)のギターコードのサウンドがもう完璧だったのだ。C/E - D/Eのじゃっじゃーの重厚な鳴りはツェッペリンやサバスですら凌駕し、そしてEsus4 - Eで3度(ドレミのミ)の明快な提示はプロデューサーのテッド・テンプルマンがドゥービー・ブラザースでの成功体験を新たな次元に昇華したように感じた。ロックがロンドンの暗い曇り空(イメージです)から、あっけらかんとしたカリフォルニアの青い空になって、それが大音量で押し寄せて来たんだ。時代は変わったのだ。そして2曲目「暗闇の爆撃 Eruption」でいきなりギターソロだけをピックアップして度肝を抜いて、3曲目の「ユー・リアリー・ガット・ミー」に突入。そして4曲目の「叶わぬ賭け Ain't Talkin' 'bout Love」では付点8分音符ディレイとフランジャー(フェイザー?)の取り合わせがこれまた革命的で、5曲目の「アイム・ザ・ワン I'm the One」に至ってはロックギター新時代はかくあるべきの完全無欠のパーフェクトなプレイなのだ。ピッキング・ハーモニクス、ライトハンド、アーミング、ヴィブラート、全てを複合してソロもバッキングも分け隔てることなく連続技複合技ウルトラCDE連発の10点満点中15点も20点も叩き出す。そう、ほぼパーフェクトな形でヴァン・ヘイレン、そしてエドワード・ヴァン・ヘイレンは僕たちの眼前に現れたんだ、ユー・アー・ザ・ワン。大してマニアでもない僕がこれだけのことを書けるくらいエディーはスゴイんだ。

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1981年発表の4枚目『戒厳令 Fair Warning』は僕がヴァン・ヘイレンで一番ハマったアルバムだ。カリフォルニアの青い空がどんよりと曇天になっている。ジャケットからしてちょっと病んでいる。ヴァン・ヘイレンのキャリアの中で一番売上の低いアルバムではあるけれど、僕はこれが一番好きだ。エディーが亡くなったニュースを聞いた時、即座に頭の中に流れたのはこのアルバムのB面1曲目「アンチェインド Unchained」のイントロのギターだった。1音半下げのC#チューニング。6弦のずんずんずんずんずんにフランジャーをかけたりかけなかったりのその低い姿勢があまりにも好き。A面4曲目「ヒア・アバウト・イット・レイター Hear About It Later」でソロ前にドラムとベースだけになってカウベルがコンコンと鳴り響き、そこからギターソロに入るのが本当に好き。とにかくこのアルバムに入っているギターソロの全てが好きだけれど、B面4曲目のドラムとシンセベースだけの謎曲からの5曲目「一歩踏み出せ One Foot Out the Door」のギターソロは一歩どころかエディーのギターが異次元にまで入り込んでもう解析不可能(そう云うフレーズがあるの)で本当に好きで好きで降参です。この文章を書く前に何度も何度も聴いたけれど、あまりにも悔しくてピンク・フロイドを聴いて心を落ち着かせました。デヴィッド・ギルモアのギターは本当にイイなぁ。そうじゃないか。

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1984年に発売された6枚目のアルバム『1984』。シングルの「ジャンプ Jump」が大ヒットしたのでご存じの方も多いと思う。そしてあまりにも有名なB面1曲目「ホット・フォー・ティーチャー Hot for Teacher」のライトハンドによるイントロ。これ弾けます。当時ちゃんとコピーしました。今でも弾けます。その後のバッキングもちゃんとやってます。キモはバッキングのフレーズに潜む細かい3連フレーズ。ここまでちゃんとコピーしているヤツはそうそういないぞと自負。しかし告白すると僕はピッキングスクラッチが苦手と云うかヘタなんです。なのでそこは大目に見てやってください。

エディーはマイケル・ジャクソン「今夜はビート・イット Beat It」にギターソロで参加(バッキングはスティーヴ・ルカサー)したのが有名だけれど、1978年発表のニコレット・ラーソンのアルバム『愛しのニコレット』収録の「あなたのとりこ Can't Get Away from You」でもギターを弾いている(クレジットはされておらず「?」の表記)。そしてエディーが敬愛するギタリスト、アラン・ホールズワースのアルバム『ロード・ゲームス Road Games』(1983年)のサポートをするなどしている。エディーのギターのそこかしこに実はアラン・ホールズワースが潜んでいる。クリアトーンでコードをボリューム奏法でふわーっと広げたり、高速フレーズをドラムとユニゾンしたり、そこに愛が伺える。今頃天国でアランとエディーが再会して「あのフレーズはどうやって弾いていたんだい?」「そんなに指が開かないよ、無理だよ」とか話しているかと思うとちょっと天国も覗いてみたくなる。まあそれはまだまだ先になると思うので、それは楽しみに取っておくことにする。

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僕にとってのヴァン・ヘイレンのベスト3アルバムは以上の3枚。サミー・ヘイガー時代(ヴァン・ヘイレン2代目ヴォーカリスト)はあまりちゃんと聴いてないのだけれど、『1984』発表後の「ファーム・エイド」と云うフェス(1985年開催)でサミー・ヘイガーのバンドにエディーが登場なんてシーンもあったので(これ何と日本のテレビで放送があったのよフジテレビだったかな)、ヴァン・ヘイレンにサミー参加の報もさもありなんと思ったのを良く覚えている。そう云えばサミーのデビューはロニー・モントローズ率いるモントローズで、プロデューサーがやはりテッド・テンプルマンだったと云うの縁は異なもの味なものと思います。

ヴァン・ヘイレンが売れた理由として大きいのが美しい高音域のコーラスで、それがベースのマイケル・アンソニー担当だった(そんな声が出るようなルックスじゃないと思ったの、ご無礼をお許しください)とか、デヴィッド・リー・ロス脱退後のアルバム『イート・エム・アンド・スマイル Eat 'em and Smile』は通常版よりスペイン語版の『Sonrisa Salvaje』の方がべらんめえ調でサイコーだとか、もう頭の中が爆発して来ました。最後に本当にエディーがスゴイと思ったのは、あのおっかないぎゅおんぎゅおんのギターをずっと笑顔で弾いていたことなんだ。そんなヤツそれまでいなかっただろ。エディーがそれをやったんだ。エディーありがとう。安らかに。

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