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すき焼き丼

突然すき焼きのことで頭がいっぱいになった。だからすき焼きのことを書こうと思う。僕は若い頃に吃驚するような高級店ですき焼きを食べたことがある。こんな機会は滅多にないのだと云うことで高級な牛肉をお代わりまでしてこれでもかと食べた。関西風の作り方かと思うが、熱した鉄鍋に牛脂を滑らせ、砂糖をそこにどっさりと置く。その砂糖の上で牛肉を焼いて、割り下なのか醤油なのかを少量かけて、焼いた牛肉にまぶして、まずはその牛肉だけを戴く。それを溶き卵に付けて食べるのだが、当時の僕は生卵が苦手でどうにか肉を溶き卵につけるのを回避しようと色々と考えた。色々考えても埒があかず、高級店の個室の雰囲気にも押されて生卵が苦手だとは云い出せずに、成り行きで肉を溶き卵にまぶした。それがあまりにも美味しかったので今まで生卵が嫌いだと思い込んでいた自分を別の自分が舌を出しながら長年騙されていてご苦労様と嘲笑ったような気がした。

僕が若かった頃の小野瀬家の食卓にもよくすき焼きが並んだ。すき焼き単体で御馳走と云うのでもなく、大量の天ぷらやトンカツやから揚げ、大量の野菜炒めやサラダ、大量の麻婆豆腐や青椒肉絲と共に鍋物のバリエーションの一つとしてローテーションが組まれていたようだった。すき焼きの肉は火を通すとアッと云う間にバラバラにちぎれてしまうような牛小間切れ肉のこともあったし、そこそこ奮発した良い牛肉(バラバラにならないだけだったろうが)が食べられたこともあったし、豚肉が大量投入されることもあった。豚肉のすき焼きもなかなか美味しかった記憶があるので、いつかそれは改めて検証する。すき焼きを食べ終えた鉄鍋の中に割り下の濃い色が沁みた白滝や焼き豆腐が廃墟のように残っているのを見て、何か云い様のない寂寥感めいたものを感じたこともあった。

すき焼きのことを考えていたらすき焼きが食べたくなった。外食する気もなく、物凄く贅沢をする気もない。ただすき焼きのあの甘辛い味が恋しくなったのであった。ここで余計なことを考えるのが僕の習性だが、すき焼きはどこまで簡素化出来るのであろうか。味付けはともかく具材のことを考える。牛肉はなくてはならない。他に僕が必須だと考えるのが長葱である。余計なお世話だとは思うが、長葱を読めない人が少なからずいるのでナガネギと読むのだと申し添えて置く。冒頭に書いたすき焼き高級店でも肉を焼いた後には長葱を投入して焼き、肉汁や脂の混じった割り下を吸わせていた。極論を申し上げれば牛肉と長葱の焼かれたのを食べればすき焼きはほぼ成立すると思う。白滝や焼き豆腐の立場はどうなるのだと異論もありそうだが今回は触れずに置く。オプションのことを考えると日本は広く、定番の麩や春菊にとどまらず、白菜や大根、ジャガイモをすき焼きに投入する地域もあると云う話も聞いたことがある。すき焼きのダイバシティである。それはさて置いて僕にはすき焼きにどうしても入れたい具材がある。タケノコである。茹でタケノコで構わない。白滝や焼き豆腐の立場はどうなるのだとさっきも書いたが、自分勝手な僕をお許し願いたい。牛肉と長葱と茹でタケノコ。この3種の具材ですき焼きを作って、ご飯に載せて丼にした。

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毎度お馴染みの小丼にすき焼きを載せた。これは牛丼ではないのかと云う意見もあるだろうが、僕はこれで長葱でなくタマネギを使ったのなら牛丼であるかも知れないと迷うに違いない。長葱を使ったのですき焼き丼である。世の中にはタマネギを入れたすき焼きも存在すると思うが(食べたことがあるかも知れない。段々そんな気がしてきた)ここは我を通させて戴きたい。あと生卵も昔の僕に敬意を表して今回は出場なし。今後の研究課題とさせて戴きたい。普段あまり断言しない僕がこれぞすき焼き丼だと云うのだから余程のことだと考えて御納得戴きたい。好きなんだよ、ではなくて、すき焼きなんだよ。お後がよろしいようで。終わりませんが。

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牛肉は近所のスーパーマーケットで買った安い輸入牛肉の小間切れでよろしい。長葱も茹でタケノコも同じくスーパーで購入。味付けは市販のすき焼きのタレを使用でも良かったが、自分なりに工夫してみたくなり、醤油・砂糖・みりん・昆布出汁(の素を使用)を適当に配合してみた。昨年以降の僕は台所に立つ機会が増えて焼きそばの研究もかなりの頻度で行っていたので、味付けの勘と云うかスキルと云うかそうしたものが何となく身についたようで、目分量で雑に味付けしてもそうそう調子外れにならないようになった。今回も大体こんなもんかとテキトーにやってみたところちゃんと自分の好みの味になった。イイじゃないか自分。褒めて遣わすぞ自分。褒められて伸びるタイプですから自分で褒めたら木にも登るし海も渡るし火星探索にも乗り出すだからもっと褒めて。

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ネギはくたくたになるまで火を通した方が好み。くたくたにしてください。心からのお願いです。

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ウマウマウーである。ヒジョーにウマイ。すき焼きの歓びがちゃんとある。牛丼とはまた違った歓びだ。自分で再現出来たことを愛でたいと思う。ただ一つ、茹でタケノコは価格と味わいが完全に正比例する。今回使ったのはとても安いタイプ(でも国産品だったけど)。味わいに引っ掛かりが何もなかった。ここは割り引いてはいけないポイントだったか。まさかの茹でタケノコでの減点とは。次回はその辺りを補強して完全優勝を目指したいと思う。もし補強ポイントが茹でタケノコでないとしたら、やはり白滝なのだろうか。ふと考えたらキノコの可能性も浮上した。キノコまで出るともう絶対に終わらないので今回はここまで。すき焼きブラボー。また食べよう。

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