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クレイジーケンバンド『Ivory ep』について書く

2020年6月24日にリリースされた、クレイジーケンバンド久しぶりのシングル『Ivory ep』について書いてみる。リードトラックの「IVORY」はとても素晴らしい曲だと思う。僕はクレイジーケンバンドのメンバーとしてこの曲でギターを弾いているので関係者ではあるけれど、一人のリスナーとしてもこの曲を楽しんでいる。この誰にも立ちようのない特殊な場所で感じた何かをお伝え出来たらと思う。

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剣さん(クレイジーケンバンド横山剣)の歌詞は特殊だ。特殊なポイントは幾つかあるのだけれど、今回は突然話が変わると云うところをピックアップする。剣さんの書く曲の歌詞の中には、一見(一聴)するとテーマから外れているように思える箇所を見つけることが多い。今回の「IVORY」では歌詞3番の車間距離と割り込みの辺りがそれに相当する。でもそこから突然「丁寧に生きよう」と自らに云い聞かせるような一節が現れる。このハッとする感じは、箱根に行って山を登り切ったところからふと芦ノ湖を眼下に見下ろした時の感覚に似ている。箱根芦ノ湖から海へ流れる川はない。箱根の火山活動によって形成された堰止湖である。湖はどれも同じように見えてそれぞれの成り立ちの特殊さがある。「丁寧に生きよう」は穏やかな悟りではなく、その昔芦ノ湖に住んでいたと云われる九頭竜を調伏したような強い気持ちから発せられた言葉だと思う。箱根山は活火山であることを忘れてはいけない。現役なのだ。想い出ではなく、現在のことだ。

いつも自分の云い間違いや説明不足を自分で評して「雑!」と云っている剣さんが放つ「丁寧に生きよう」。でも「雑!」が悪いのではなく「丁寧に生きよう」も全てではない。2008年リリース「湾岸線」の歌詞に出て来る「清濁併せ飲んでこそ」なのである。どちらもアリで、同時進行。30年一緒に活動している剣さんの傍らで剣さんの走行する道路状況を見ていると、アメリカの道路のように道幅が広かったり、急に林道のように舗装もされていない細い道になったり、サーキットになったり、国道16号線(旧道)になったり、突然横道に入ってラーメン店を目指したり、その途中でUFOに遭遇したり、ありとあらゆる有り得ない道を選択し、そして何故かちゃんとその時目指した目的地に着いている。でも僕が感じた「IVORY」の目的地は「丁寧に生きよう」ではない。もう少し先にある。

その後のサビ2段目に「しろくま」が登場する。アイボリーのテディーベアが北極圏ではなしに「しろくま」として灼けた砂浜にいる。「しろくま」の映像イメージよりも、その語感がそこに嵌まったことが僕にとってはショッキングであって素晴らしい美しいと思った世界の中心だ。そこを通ればどこにでも行ける。楽しくにも哀しくにも、希望にも絶望にも、あらゆるルートを選択してあらゆる目的地を登録することが出来る。そしてリプライズの「白砂(しろすな)」がこぼれ落ちる。どこにでもありそうな情景の中に不条理が必ず紛れ込んでいる。芦ノ湖には元々生息していなかったニジマスやブラックバスがいる。人間が放流してそれを釣って楽しむようにしてある。剣さんの中の芦ノ湖に九頭竜とブラックバスが不思議な整合性をもって泳いでいる。水上スキーをしている女もいる。そして必ずそこは夏なのだ。剣さんの歌詞の多くは夏への扉なのだ。

IVORY」歌詞の最初の方に戻ると「夏はイヤだよ」の一説がある。これは深沢七郎先生の小説『楢山節考』にある「楢山節」(ギタリストである深沢先生のオリジナル曲)へのオマージュだと即座に判った。剣さんは夏が大好きだ。剣さんの夏への思い入れは尋常ではない。それをイヤと云うのは好きのうち。大事なことだから倒置してでも繰り返す。夏には身も心も活性化してワイルドになってクレイジーになってふと我に返って哲学者になる。見てはいけないものを見る。古くは1995年の「サマー・ピープル」「本牧ビーチ・フィールド」から「太陽のプレイメイト」「GT」「777」「タオル」「ガールフレンド」「もうすっかりあれなんだよね」から「IVORY」にずっと繋がっている夏の通奏低音が僕には聞こえる。心地好く、物哀しく、懐かしく、新しい。

もう一度云っておく。「雑!」と「丁寧に生きよう」は相反しない。同じ暑い夏を仲良く過ごしている。道は悪くても「しろくま」も一緒だから大丈夫。

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ちょっとだけギターの話も。「IVORY」のレコーディングで使用したのは、RS Guitarworks製 “Old Soul”と云う名前のギター。昨年(2019年)のクレイジーケンバンドのツアー中、神戸三宮の楽器店リードマンで出逢った。その日は台風の影響で神戸公演が延期となった日。宿泊先から暴風吹き荒れる中、びしょ濡れになりながらリードマンに行って偶然試奏して、一発で気に入って購入の予約をした。試奏時に使ったギターアンプFender Deluxeも根こそぎ入手。自分用の“Old Soul”は今年1月にアメリカから到着し、神戸まで日帰りで受け取りに行ってきた。

音の粒立ちが衝撃的に思えた。強く弾いても弱く弾いても自分のアクションに全て追随して来てくれる。音楽の自由がそのままギターの形になっているようだった。その実力は「IVORY」で早速実証されたように思う。

IVORY」エンディングの1′20″に渡る長尺のギターソロは、実はベースやキーボードのOKテイクが出る前に、テスト時に弾いたテイクを採用している。特に何も考えずに雰囲気だけに乗っかって、“Old Soul”から発せられる音に導かれるままにサッと一発で弾いてしまったテイク。あれ、今のイイんじゃない。僕も剣さんも納得のワンテイクだった。正確には僕は納得していない。本当に納得するためにはこれから100年くらいかけて10億テイクくらいレコーディングしないといけないだろう。そしてその末にやっぱり一番最初のテイクが一番イイと真に納得するのだ。なのでなるべく最初の方のテイクでピタッとソロは決めたいと考えている。

それにしても「IVORY」のソロは我ながらウマく弾けていると思う。自画自賛。レコーディングしたのは3月の初旬。お父ちゃんが亡くなってからまだ一ヶ月も経っていない頃。だからお父ちゃんと一緒に弾いたソロかも知れない。お父ちゃんありがとう。これからもギターがんばって弾くよ。

他の曲のことも、コード進行や、そう云った他の特殊なことはまたの機会に。この夏は登山も海水浴も何も出来なさそうだけど、「Ivory ep」をお供にステキな夏にしてください。いつも一緒にいます。

末永くがんばりますのでご支援よろしくお願い致します♫