【偏愛】河童ちゃん

僕は河童ちゃんが好きです。ただの河童ではない。河童ちゃんなのだ。それをこれからちゃんと明文化する。間違いのないように慎重に進める。まずは水中からの挑戦を受ける。

水中からの挑戦

1968年7月14日に初放映された、ウルトラセブン第41話「水中からの挑戦」。河童に姿形が似たテペト星人が地球に飛来、伊集湖の魚を全部獲ってしまい、近隣の養鶏場からニワトリを根こそぎ盗むなど、悪さをする。「河童を見た」などの目撃情報が増え、その噂を聞きつけて日本カッパクラブ会員（男性3人女性1人）が伊集湖にやって来る。夜にカッパクラブ会員は二手に分かれて、夜の森の中を捜索。

漫画家の川中さんと小料理屋かっぱを経営する竹村さんのコンビは森の中で茂みがガサガサ揺れるのに驚き、木と木の間を駆け抜ける河童（テペト星人）を見る。川中さんが竹村さんにキュウリを出せと云うが、探索中に竹村さんがキュウリを食べてしまった。河童のエサのキュウリがないのなら、お前が河童を呼んでみろと川中さんが竹村さんの背中を押す。竹村さんはどう呼ぼうか逡巡した後に、絞り出すように河童を呼ぶ。「かっぱちゃーんよー」。

僕にとって、この第41話はここまででいい。この後で竹村さんはテペト星人に殺害され、ウルトラ警備隊とテペト星人、そしてウルトラセブンと怪獣テペトの戦いへと続くのだが、それはもういいのだ。竹村さん役の梅津栄さんが、「かっぱちゃーんよー」と河童を呼ぶその時の何とも云えない引き攣った表情が最高なのだ。梅津さんはウルトラマンでも完璧なヨッパライの港湾労働者を演じているが、それも最高なのだ。そして特筆すべき点は、梅津さんの前歯が1本ない。それこそが素晴らしいのだ。

余談だがクレイジーケンバンドがスタートした当時、僕の前歯も1本なかった。ひびの入った前歯が割れてしまったのを、そのままにしていたのだ。2年くらい放っておいたと思う。ご想像通り、梅津栄さんのことを思い出して、悦に入っていた僕なのだった。後に差し歯を入れた時に「何で歯を入れちゃったんですか」と数名の方からお叱りを受けた。しょうがないでしょ、その横の歯も割れちゃったんだから。

それはそうと、ウルトラセブンの視聴率がスタートからずっと30%辺りだったのが凋落傾向になり、20%を切るようになって、この41話の視聴率は16.7%と全49話中最低となった。それでも16.7%とは凄いけれども。セブンがガッツ星人に捕らえられて十字架に貼り付けになる第39話と40話、そして地球先住民族の謎とジレンマに対峙する第42話、後世まで名作と讃えられる作品の狭間にあって、河童ちゃんの第41話は飛び抜けて呑気な感じがする。

しかし僕にとっては第41話こそがベストワンなのだ。エレキングの第3話も、メトロン星人の第10話も、ギエロン星獣の第26話も素晴らしいけれど、やはり第41話なのだ。それも5′50″に川中さんと竹村さんの森の中での探索が始まり、「かっぱちゃーんよー」と呼び終える6'49"までの1分間、この1分間を僕は偏愛しているのだ。セブンもウルトラ警備隊もまだ出て来ないこの1分間。これを覚えて、復唱して、再現を試みている僕がいる。それ程までに愛しちゃったのだ。

河童ちゃん

2016年、僕のバンド小野瀬雅生ショウが発表したアルバム『カモンレッツゴー』の2曲目に「河童ちゃん」と云う曲を収録した。2015年の夏、自宅でギターのチューニングをあれこれいじって、たまたま編み出した風変わりな変則チューニング。6弦からC、G、D、G、A、Dとなる。レッド・ツェッペリンの「レイン・ソング」の変則チューニングを探っていたのか真似していたのか、多分スタートラインはその辺りだ。

このチューニングで曲を作って、バンドでレコーディングして、さあ歌詞を乗せるぞと云う時に頭に浮かんだのが河童。河童と云えば芥川龍之介でもなく、妹尾河童でもなく、火野葦平でもなく、河童の三平でも、黄桜でもなく、ウルトラセブンの第41話が最初に思い出されて、河童が河童ちゃんとなった。自分が生まれ育ったテリトリー内にある新横浜駅周辺の昔の風景（新幹線開通が1964年、昭和39年）を箱庭にして、その中に河童を住まわせて、一緒に遊んでみた。

このレコーディングに心残りがある。レコーディングで何故か僕は「よー」を入れ忘れたのだ。これはライブでこの曲を演奏しているうちに気が付いた。「かっぱちゃーん」と4回繰り返すサビの部分、最期の1回は「よー」を付けなければ竹村さんに申し訳が立たないではないか。川中さんにもテペト星人にも、そして冒頭に出演してこの第41話の中で一番河童に似ている大村千吉さんにも申し訳が全く立たない。深く反省している。いつかちゃんと「よー」の付いたバージョンを発表せねばならない。必ずやります。

小野瀬雅生ショウ『カモンレッツゴー』、通販サイトのみで販売しております。【https://omshow.thebase.in】よろしければ是非。

「よー」の入っている歌はこちらで歌っております。多分この歌はこれからもずっと歌い続けるレパートリーとなりそう。「河童ちゃんを生で聴いてみたい」との声から、北は北海道（札幌、小樽、中標津）、南は石垣島までアコースティックギターと河童ちゃんと共に伺うことが叶いました。河童ちゃんは僕の背中を押してくれた。河童ちゃんは僕の愛に応えてくれた。コロナ禍が落ち着いて、全国にまた足を運べることになったら、またあちこちで河童ちゃんと出会いたいと思います。かっぱちゃーんよー。

追記
小野瀬雅生ショウ「河童ちゃん」に「よー」が入った「河童ちゃん よ直しバージョンが配信されております。
詳しくはこちらからどうぞよろしくお願い致します。