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「樹影」 佐多稲子著

クレイジーケンバンドのニュウアルバム『樹影』が2022年8月3日に発売となった。前にも書いたが、アルバムタイトルの『樹影』は、剣さんが若い頃に勤務していた本牧のガソリンスタンドの近くにあった喫茶店の店名だったとのこと。そして「樹影」と云うタイトルの本はあるかと考えて検索してみたら「樹影」「樹影」「樹影譚」「燃ゆる樹影」とヒットしたので4冊全て古書で入手した。順次読んでその感想を書いてみたい。「樹影」の御縁に感謝する。

「樹影」 佐多稲子著

「樹影」 佐多稲子著

舞台は太平洋戦争敗戦後三年目の夏、長崎。戦後の荒廃がまだ残る長崎の街で、柳慶子は新たな喫茶店の開業を目指している。その店の内装を画家である麻田晋に依頼した。そこから十年に渡る二人の関係が始まる。

慶子は29才独身、華僑の娘である。開業した喫茶店の名は「茉莉花(まつりか)」。麻田には妻子があり、画家としては戦時中から東京で開催される展覧会に作品を出展し続け、入選を重ねている。二人とも原爆に被爆しており、後遺症の胸部疾患の治療のため病院通いをしているうちに麻田のアトリエで只ならぬ関係となった。周囲の人間から訝られたり咎められたりしながらも、その関係は長く深く続いた。

戦後の日本が立ち直りつつも混迷する中で、二人は愛し合い、意見を交わし、励まし合い、それでも身体は徐々に衰弱していった。出逢いから十年後に麻田は肝臓癌を発症し、慶子は病院で彼を看取る。麻田は「木立」と「樹骨」と云う遺作を残した。その画の色のない孤独と虚無に慶子は愕然とする。その後慶子は原水禁運動などに身を投じていたが七年後に突如くも膜下出血で生涯を閉じた。

ここからは僕の感想。特殊な状況下での特殊な関係性。重苦しい内容だが、登場人物が長崎の方言で話すのが、活き活きと、物悲しく、深刻で、真摯で、気持ち良く、軽妙に思えた。みんなとても普通で、特殊で、人それぞれだった。強い意志と、流される日常。僕はこの人達に会ったことがあるような気持ちになった。そしてそれぞれの人の中から別のそれぞれの人を見た。どの気持ちも、どの希望も、どの絶望も、はっきりと見えた気がする。

話の最後の方はもう僕が生まれていた時代だ。だから物語の後半は嗅いだ覚えのある匂いがした。それを昭和と雑に括って良いのか判らないけれど、そこから今の僕へと繋がっているものは確実にある。それを今、ちゃんと意識出来たことに感謝する。「樹影」の御縁だ。ありがたい。

話の内容と共に、文章の美しさと、表現の豊かさや意外性に、僕は心奪われた。読み始めて暫くした辺りから、文章のリズムに乗って一気に読み切ることが出来た。若い頃に自分の好きなタイプの文章に出会った時に感じた昂ぶりを思い出す。今またそれを感じられたことを大変に幸せに思う。

悲しいけど、辛いけど、どうにもならないけれど、気高き崇高な愛なんかじゃないけれど、無邪気に「どのくらい、愛してる?」「これくらい」なんて云い合えるなら、きっとそれでいいんだよ。

話のところどころに食べ物が出て来る。一番多く登場するのがチャーメンだ。慶子の喫茶店ではチャーメンは出しておらず、麻田にだけ作って食べさせる。羨ましい。僕としてはチャーメンがどうしても食べたくなった。

ラーメン隊 目黒三田店の長崎ちゃーめん

東京都目黒区三田の住宅街の中に一軒だけぽつんとある『ラーメン隊 目黒三田店』の長崎ちゃーめんチャーメンは揚げた細めの麺に具だくさんのあんかけをかけて戴く料理。焼きそばの果てしなき旅の新たなるジャンルの幕開けのようでもある。

ラーメン隊 目黒三田店の長崎ちゃーめん

ウマウマウー。まだブログには書いていない。そのうち書く。
追記:ブログ記事にしました。

元祖ニュータンタンメン本舗 上末吉店の長崎チャーメン

神奈川県横浜市鶴見区上末吉の『元祖ニュータンタンメン本舗 上末吉店』の長崎チャーメン。ニュータンタンでタンタンメンをオーダーしないのはなかなかに勇気の要ることである。

元祖ニュータンタンメン本舗 上末吉店の長崎チャーメン

ウマウマウー。これもブログ未掲載。ニュータンタンには長崎チャーメンをメニューに載せている店が数店舗ある。川崎の本店にもあるようだ。川崎や鶴見のソウルフード店であるニュータンタンに長崎チャーメンが置いてあるのはどう云う理由なのだろう。知りたいようなそうでもないような曖昧な気持ちになる。
追記:ブログ記事にしました。

元祖ニュータンタンメン本舗 上末吉店の長崎チャーメン

あまり関東では見かけないかまぼこも具に入っていた。これは長崎っぽいのであろうか。そう云えば、ここ最近で長崎在住の方達と御縁があった。そして「樹影」からまた長崎のことを知る機会を得た。これは僕に長崎に行くようにと導かれているように思えてならない。「樹影」に出て来る地名、名所、風景、それをそれぞれ照合してみたい。新たなる課題、ミッションが僕の人生に忽然と現れた。近いうちに叶えてみることにする。大きく脱線してしまったけれど、まあこれでいいか。

クレイジーケンバンド『樹影』

クレイジーケンバンドのニュウアルバム『樹影』。どうぞよろしくお願い致します。

追記
嫁菜めし、ってどんなんだろう。これも食べてみたい。

末永くがんばりますのでご支援よろしくお願い致します♫