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心不全の前方障害?後方障害?

こんにちは。16年目の理学療法士です。
普段学生に指導をしたりしていると、心疾患は苦手という方がほとんどです。
理由は怖いというのが一番ですが、その背景には心疾患のイメージがわかないことが挙げられます。
要は心不全がどのように起こるのか、心不全では何故特有の症状が出るのかということがわからないので苦手としているようです。
今回は心不全の前方障害と後方障害に焦点を当てて説明していきます。


前方障害・後方障害

前方障害と後方障害ですが、この前方と後方というのは特定の位置からみて血液が流れていく方向を前方、一方特定の位置に流れてくる方向を後方とします。

https://medicalnote.jp/contents/170801-002-GE

この図を参考にしますが、仮に左心室を中心に考えてみます。
血液の流れる経路は①左心室 → ②大動脈 → ③全身 → ④大静脈 → ⑤右心房 → ⑥右心室 → ⑦肺動脈 → ⑧肺 → ⑨肺静脈 → ⑩左心房 → ①左心室 となります。

よって、左心室からすると前方には大動脈や、全身(脳や骨格筋、内臓)があり、後方には肺静脈や肺があるということになります。

前方障害

前述し通り、左心室を中心に見ると、前方には大動脈、脳や骨格筋、内臓等があります。
心不全になると、心臓の収縮力や心拍数が減少し、前方への血液循環量が低下します。
仮に脳への血液量が減少すると、大脳の血流不足による症状が起きやすく、症状が一過性に出現することがあります。 典型的には、手足の麻痺やしびれといったものですが、言葉が話せなくなったり、ろれつがまわらなくなるといった言語障害もしばしば見られます。
骨格筋には安静時はほとんど血液は流れていないので、その時には影響はありません。しかし、歩いたり、家事などの作業をすると骨格筋への血液量が著しく増えます。ところが心不全で血液の供給が追い付かなければ、筋肉がエネルギー不足で疲労を起こします。つまり、動作時の息切れや呼吸困難、筋肉の疲労が出現します。
内臓も同様です。特に腎臓への血液供給が不足すると、腎機能が低下し尿の濾過量が減少します。つまり本来排出するはずの尿(水分)が体内に留まるため、浮腫みという症状として現れます。

後方障害

一方、後方障害ですが、左心室を中心に見ると後方には左心房、肺静脈、肺があります。
心不全で収縮力や心拍数が低下すると、左室から全身への拍出量が減少します。
仮に本来1回の収縮で100mlの血液が左室から全身に流れるとします。しかし、心不全では収縮力が弱っているので50mlしか1回の収縮では拍出できなかったとします。
つまり、本来の半分しか拍出していないので、左心室には正常な心室に比べて血液の残存量が多くなっています。そしてその左室には左房から血液が流入するのですが、残存している血液があるため、左房から流入する血液量も正常な方に比べると少なくなります。そして、その影響は左房の後方にある肺静脈にも及びます。
左房から左室に本来の流入量がないため、左房にもある程度の残存血液が存在することになります。そして、肺静脈からは次々に血液が流入してきますが、左房に隙間があまりないのであまり流入できません。つまり左心室を基点として血液の渋滞が発生している状態になります。その渋滞は肺静脈から肺にまで延びてしまいます。
血液の流れが滞ると浮腫みにつながります。もし、肺にまで渋滞が延びたのなら、肺が浮腫んでしまいます。つまり肺水腫となるのです。
肺が浮腫んでいるということは、酸素が入る隙間が減ってしまいます。そのため十分な酸素の取り込みができないため、結果として酸素不足による息切れを生じることになります。
これが左室を中心とした後方障害になります。

右心ではどうなるの?

右心でも基本的な原理は全く一緒です。
仮に右心不全にて収縮能が低下したとします。駆出する血液量も減るため、右心への残存血液量が増加するため、ここを基点として後方(右心房、大静脈)に血液の渋滞が発生します。

https://tsuneeet.parallel.jp/entry/2016-04-22-010000/


この渋滞が仮に上肢や下肢にまで及んだとします。そうなると浮腫を認めます。
もし渋滞が肝臓にまで到達すれば肝腫大を起こし肝機能障害に至ります。
もし渋滞が頸静脈にまで及んだらとします。この場合は頸静脈の怒張が認められます。


心不全と聞くと、心臓が弱っており、苦しくなったり息切れを起こすという漠然としたイメージはあると思います。
ですが、身体の中で具体的にどのようなことが起こって、その症状が出ているのかを考えると心不全の勉強が楽しくなります。
心疾患を苦手とする学生や若手セラピストは多いですが、知らないことが多かったり、イメージがわかにくいから苦手という方が多数です。
基礎となる解剖生理学等を理解し、心不全の機序を理解することで見える世界が少しでも変わればと思います。

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