したくないのかできないのか、それが問題だ
隣で美女が上海蟹をほじくりながら「なんかあ、もう仕事も成功しちゃったし、残りあと結婚ぐらいしか、人生ですることがないんですよね」と言う。我々の頭上にはずっしりと重たくふさぐシャンデリア、女優とみまごう美女の肌を、この上なく艶めかしく美しく照らす幾千億の光、どんな「まる」より「まる」らしい中華卓の向こうには女性起業家とマーケターがいて互いのビジネスの話をしている。結婚なんかしなくたって生きて行けそうな女しかいないこの場所で、それでも「結婚」が話題に上がるこの不思議。
「小野さんは結婚されてますか?」と聞かれて「してないです」と答えると、「”まだ”されてないんですね!」と言い直され、ああ、さすがのビジネス的気遣い、できる女はこう返すのかと感心する。この種の気遣いを最近、同世代女性から受ける事が多くなった。しかし残念ながら「寿司好きですか?」「いえ好きじゃないです」「”まだ”好きじゃないんですね!」と言われてる気分にしかならないので、有難いのか有難くないのかわからない。訂正しようかとも思ったが、そっちの方がかえって気にしているみたいで嫌だなあ、と結局沈黙。
結婚したい、と思ったことが一度もない。
本当に、誇張もなく、一度も、ない。
母がシングルマザーだったことも理由の一つだろうか、生活の基本単位が「一人」であることに慣れすぎている。その反動でか恋人を切らしたことはないけれど、彼らと私はどうやったって別々の人間、制度によって自分たちを固く、固く縛り上げている状態を、どう頑張っても想像することができない。
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