私訳『Le Petit Prince(星の王子さま)』【前書き、献辞】大人向け和訳

最初の前書きと献辞の箇所だけ和訳しました。注釈も入れてあります。この箇所は私が訳文で読んだときにさっぱり理解できなかった箇所です。自分が欲しかった大人の読者向け(あまり意訳せずに原文にできるだけ忠実かつ注釈付き)という形にしました(したつもりです)。ちなみに、著者は執筆時には40才にはなっていたはずなので、この箇所を子どもっぽい文体とするのはふさわしくないと思います。(斜体が使えないので代わりに太字にしてあります)

第1章

献辞と前書き

レオン・ヴェルト[*1]ささ

 この本をおとな[*2]にささげることを、子どもたちに許してもらいたい。大事な理由があります。それは、そのおとなが私にとってこの世で最高の友人だということです。もう1つ理由があります。そのおとなは、どんなものでも、子ども向けの本でさえも[*3]、理解できるということです。3つ目の理由があります。そのおとなは、フランスに住んでいて[*4]、腹を減らし、寒さに凍えているということです。彼はなぐさめを本当に必要としています。これでもまだ理由が足りないのなら、そのおとなの子ども時代に、この本を捧げることにします。おとなは誰でも、はじめは子どもでした(ほとんどの人は忘れてしまいますが)。それでは、けんを書き直します。

小さな少年だったころの
  レオン・ヴェルトに捧ぐ

第1章

訳注
*1 Léon Werth、実在する著者の友人。姓は濁らず ウェルト とする表記もある。
*2 「おとな」と訳した箇所は原文では grande personne。直訳は「大きな人」だが「大人の人」を指す口語的表現であり、子どもが大人を指すときに使われる。英語 grown-up に相当する。grande はタイトルで使われている petit の反対の言葉(grande は女性形であり男性形なら grand)。
*3 語り手が「おとな」をどのように認識しているかが第1章で語られている。読み手も同様の認識であるとの前提で書かれていると思われる。
*4 著者は本作を書く数年前にフランスからアメリカに亡命している。本作はアメリカで書かかれた。