森鴎外『舞姫』考察: 豊太郎はなぜ免官となったのか?

※この記事は検討の方向性がおかしいので同じテーマで新たに記事を書きました→ 森鴎外『舞姫』考察: 【改訂版】豊太郎はなぜ免官となったのか?

(【閲覧注意】女性の人権問題にかかわる事柄に触れています。そういう時代があったということで考察する上で必要なためであり、ご容赦願います)

豊太郎が女を漁っているという告げ口がきっかけで免官となるというのはあまりに説得力に欠けると思いませんか?女遊びをしたということなら、ベルリンにいる他の同郷人らもしていること。

この記事では、なぜ豊太郎が免官にまでなったのかを、既存の解釈に左右されずに色眼鏡なしで作品を見て考察します。

⬛考察を始める前の注意(前回記事と同じ)
この作品を理解する上で注意すべきことがあります。それは、作品の内容は主人公である豊太郎の書いた手記だということです(一部を除く)。そのため、思い出補正がかかって脚色されていたり、意図的に何かを隠して書かなかったりする可能性があるということです。
書いてあることを手がかりにして、深読みする必要があります。

⬛同郷人のしたこと
手記には同郷人が遊ぶ相手として珈琲店で誘惑する女つまり娼婦が書かれています。このような娼婦との関係はその場かぎりでしかありません。遊びたいときにお金を払って遊ぶだけです。個人的な交遊費の範囲内だったと考えられます。

⬛豊太郎のしたこと
以前の記事(※)で考察したように、豊太郎はエリスのパトロンとなっていたと考えられます。亡くなったエリスの父に代わり、エリスらの生計を立てるためのお金を豊太郎が提供していたということです。となれば、その場かぎりの遊びで払う額とはまるで違う高額な金が定期的に必要となったと推測できます。

※ 森鴎外『舞姫』考察:二人はどのようにして付き合い始めたのか?

⬛豊太郎は、お金をどうしたか
異国の地にいる豊太郎は国から支給される金で生計を立てています。西洋化を推し進め近代国家へ発展させようという明治という時代における海外で使えるお金ですからから貴重なお金だったことでしょう。一方で、エリスのパトロンであり続けるためには、高額なお金を出し続けなければなりません。この両者をどうやったら両立できるでしょう?

まず、支出を減らすことが考えられます。例えば、大学で受ける講義を減らす、書籍代を減らす、など。
さらに、収入が増えるようにしていたかもしれません。豊太郎はただの学生ではなく、ある省の仕事としてベルリンにいることを忘れてはなりません。業務遂行上、必要な経費として何かしらの虚偽申告をしたかもしれません。

⬛結論
どちらにしろ豊太郎は、日本の国の大事なお金をエリスたちのために使ったということです。このような横領行為が国家に対する重大な問題と見なされ免官となったと考えられます。

豊太郎は手記にそんなことを書いていません。しかし、豊太郎としては、そんな自分の不名誉なことをあえて思い出したくはないし隠しておきたいと思ったことでしょう。品行方正でずっと生きてきた彼の人生において恥ずべきことだからです。
女を漁ったという理由しか手記にかいていないのは本質から目をそらすためのごまかしだといえます。