[映像作品評] 「世界サブカルチャー史 欲望の系譜」

 録りだめていたものをようやく消化。シーズン1の全8回のうちアメリカ編の7回を見た。1エピソードあたり90分ぐらいあるので、長いです。

 NHKお得意の豊富な映像ライブラリーを使った歴史ドキュメンタリー。NHK的解釈ではサブカルチャー=若者文化で、第二次大戦後のベビーブーマーの誕生で「大人」と「子供」しかいなかったアメリカ社会に10代の「若者」が登場し、彼らを主役にしたユース・カルチャー=サブカルチャーが1950年代に生まれた、というのがNHKの見立て。その象徴がエルヴィス・プレスリー=ロックンロールというわけです。「若者の大人社会への反抗」として生まれたサブカルチャーが60年代にはカウンターカルチャーという形で公民権運動やベトナム反戦運動など政府など既存の保守や権威や旧弊な制度や思想に対抗するリベラルな変革の意思〜ムーヴメントに繋がっていったが、2010年代には若者の反抗の対象がポリコレなどリベラルの規範に対抗するものとなり、若者全体が右傾化した、というまでを描く。

 「サブカルチャーを通して見る1950年代〜2010年代のアメリカ史」というのがうたい文句だが、音楽ファンから見ると音楽の話題が少なすぎてタイトルに偽りありと思った。ネタにされるのはほとんどが映画で、音楽ネタでちゃんと取り上げられるのは50年代のエルヴィス・プレスリーの登場まで。あとはマイケル・ジャクソンとマドンナに少し触れるぐらいで、ビートルズのアメリカ進出も、サイケデリックも、オルタモントの悲劇も、ニュー・ソウルの誕生も、ロックのビッグビジネス化も、パンクも、ヒップホップも、オルタナティヴも、カート・コベインの死も、ロクに出てこない。「サタデイナイトフィーバー」絡みでディスコ文化については触れられるが、クラブカルチャーや、それとは切り離せないエイズの話題も全く出てこない。背景に当時のヒットソングなど音楽は流れますが、それは単なる時代風俗を表すBGM以上のものではなく的確な意味づけもされない。時には全然違う年代の曲が流れたりもする。2010代になっていきなりビヨンセやチャイルディッシュ・ガンビーノについて触れられるが、それまでが執拗に音楽の話題を回避しているので、かえって不自然に映るほど。たぶん1950年代、2010年代と、それ以外の年代の制作チームが違っていて、後者は音楽について無知蒙昧な人が担当したんじゃないかと思うぐらい。

 映画についての考察は、一部我田引水すぎじゃないかとか、扱ってるのがスピルバーグとかメジャーなものばかりで、とてもサブカルカルチャーとは言えないとか、いろいろ文句はあるが、面白かったし勉強にもなったけど、少なくとも「世界サブカルチャー史」とは看板に偽りありで、「映画を通して見るアメリカ史」ぐらいが内容に合っている。

 それでもシリーズ全体としてはよく出来たドキュメンタリーと思いましたが、なかでも面白かったのはサブカルチャーの成立について触れた1950年代で、エルヴィス=ロックンロールの登場に驚き反発する大人たちの反応が興味深い。

 私など「間違っとらんがな!さすがシナトラさん!」と思わずFacebookに書いてしまったんですが、本当にロックンロールがインチキな音楽で非行の原因になっているかどうかはともかく、こうした過剰とも思える感情的な反発が当時の大人達の間で起こったのは、ロックンロールに代表される若者文化の可視化=若者の登場を、彼らがなにより恐れていたという証拠でもあるでしょう。いわば若者文化の台頭で、大人たちは自分が築き上げてきた社会の仕組みや規範や道徳や伝統や価値観や美意識などが根こそぎひっくり返されてしまうのでないかと本能的に察知し、恐れたのではないか。それは同性婚だの夫婦別姓だのに反発する現在の日本の保守層のふるまいと極めて似ていますね。つまりそれこそがサブカルチャーの原点であり存在価値なのだ、ということです。

 シーズン1はおまけみたいに「フランス60年代編」が残ってるので、それはあとで見ます。もうすぐ「シーズン2 ヨーロッパ編」が始まるが、そこではさすがにビートルズやパンクや(フランスが震源地となった)ワールドミュージックやレイヴ〜テクノを大きく取り上げざるをえないだろうと思うが、どうだろう。

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