[映画評] 『GOLDFISH』(2023年 藤沼伸一監督)

 アナーキーの藤沼伸一の初監督作品。バンド名や人物名は変えているが、アナーキーを思わせる架空のバンドの物語である。期待感いっぱいというよりは、あの時代を知る者として、半ば義務感のような気持ちで見に行ったが、いやいやいや、素晴らしい映画でした。パンクとかアナーキーとかあの時代の空気を全く知らない人が見てどう思うかはわからないが、少なくともロック・ミュージシャンの余技とは言わせない、そんなことを言い訳にさせない作品だったと思う。個人的にはアナーキーの大ファンというわけではないけど、でもかなりグッときました。

 物語の主人公は、「イチ」と呼ばれるギタリスト(藤沼自身がモデル=永瀬正敏)。かつて一世を風靡したパンク・バンド「ガンズ」が30年ぶりに再結成、すっかりおっさんになったメンバーが集結しておこるさまざまな出来事や葛藤を、過去の彼らの記憶と共に描く。頑張る中年の話としていくらでも前向きでポジティヴな話にできそうだが、終始重苦しくヒリヒリしたトーンで話は進む。キーとなるのは「ハル」と呼ばれるメンバー(北村有起哉)の存在。初期はスポークスマンとしてインタビューなどでも中心になってバンドを引っ張るような存在だったのに、ほかのメンバーが音楽的に成長していく中で徐々に取り残され孤立していき、挙げ句は傷害事件を起こしてしまう……つまり逸見泰成(マリ)をモデルにしたと思われ、いろんなエピソードやその人物像は私が以前メンバーにインタビューしたときに聞いた話と一致する。だから劇中に描かれたハルは実際に藤沼監督が見たマリ像なのだろう。30年がたち、再結成ライヴに向けて動き出したバンドの中でも、やはりひとり取り残されていくハルが痛々しくて痛々しくて、見ていていたたまれなくなる。いつだって歴史は敗者に残酷だ。このあたりの描写はN.W.A.を描いた名作「ストレイト・アウタ・コンプトン」を思わせて、いろいろ刺さりましたね。北村有起哉はこれで助演男優賞をとっていいぐらい。イチとハル、アニマル(=仲野茂)が語り合う歩道橋のシーンは名場面でしょう。最後のアニマル(渋川清彦)の大演説もグッときた。監督の言いたいことはあそこに凝縮していたと思う。仲野茂にインタビューした時の印象的だった言葉「年取って、ただ衰えてくだけなら死んだ方がマシ。年取ったら逆にパワーアップしなきゃ意味ない」を思いだした。

 映画全体のトーンは、70年代前半ぐらいの古い日本映画を思わせるようなレトロな雰囲気がある。なんというか、神代辰巳とか深作欣二とか、ああいう時代の監督がもしロックにめちゃくちゃ詳しくて愛情があったら、こんな映画を撮ったかもしれない、と思わせるのだ。敗者や弱者や負け犬やはみ出し者たちからの視線がそこにある。いろんな描写やエピソード、人物設定、演出など、どこかで見たような手法も多いが、それが映画のテーマや雰囲気にあっている。全体の古めかしいトーンは、もしかしたら2023年の音楽/カルチャー状況に於けるアナーキーのようなロック・バンドのありようと重なるかもしれない。(途中までは)かなり暗くウエットなお話でもあるので、そういうところが肌に合わないという人はいるでしょう。でもその湿った陰影の深さこそがこの作品のリアリティなのだ。

 もちろん監督がバリバリのロック・ミュージシャンだから、細部のちょっとした描写や空気感はロックの現場のリアルをしっかり映しだしている。俳優は全員芸達者な人たちばかりだし、演技にも熱が感じられる。町田町蔵の使い方も上手い。強いていえば主人公の娘役は、演技も人物設定も中途半端だろうか。

 良い映画です。シネマート新宿という映画館の雰囲気ともよく合っていたと思う。劇場公開してる間にぜひ。パンフ買っときゃ良かったな…



よろしければサポートをしていただければ、今後の励みになります。よろしくお願いします。