[日々鑑賞した映画の感想を書く]「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」(2021年 庵野秀明総監督)(2021/3/11記)ネタバレ注意

 公開3日目(3/9)に行ってきました。本当はi-Maxで見たかったんですが、いい席はすべて埋まっていたので、普通版で。i-Max版はいずれ見るつもり。

 多くの人が言う通り、これで本当にエヴァンゲリオンは終わったんだなと感じました。庵野監督が本気でエヴァを終わらせようとして、ちゃんと終わることができた。本当に素晴らしい。もちろん感想は人それぞれでしょうが、おそらく多くの人たちが内心に抱えていたモヤモヤを、なかなか決着がつけられなかった葛藤を、今作は見事に解きほぐして解消してくれた。本当に良かった。詳しい分析や考察は、私よりもはるかに詳しく熱心で愛情もあるみなさんにお任せするとして、ライトなおっさんファンのひとりとして、適当に感想を書きます。以下ネタバレ含む。

 農村共同体みたいな村でシンジやレイ、そしてアスカが過ごす物語の前半は、「震災後の世界」を思わせる復興と再生がテーマ。もっと言えば『シン・ゴジラ』でゴジラが破壊し尽くした東京の街のその後を描いていると思いました。『シン・ゴジラ』の最後で、凍結状態になったゴジラを前に長谷川博巳が「我々はこれからゴジラと共存していかねばならない」みたいなことを言ってました。この場合ゴジラとは原発のメタファーでもありますが、今作に於いて村の人びとは「エヴァと共存していかねばならない」わけです。エヴァと共存していくこと困難と危うさ(この場合のエヴァはいろんなもののメタファーです)。それを知ったシンジは、「エヴァに乗らなくていい世界」「エヴァのいない世界」を目指すべく立ち上がり、最終的に父ゲンドウと対決する。そしていつも恐れ反発し仰ぎ見ていたゲンドウが実は自分と同じような弱い人間であることを知り、シンジは大人になった。つまり物語の後半は「成長」がテーマです。電車の中でゲンドウがシンジに謝罪し、横にいるユイを見て「そうか、お前は最初からそこにいたんだな」と呟いて電車を降りていくシーンが、オッサンの私には一番グッときました。ゲンドウはシンジと初めて正面から対話し、弱みをさらけ出すことで、結果的に救われたわけです。「大人になったな、シンジ」いいセリフです。

 この場面、ゲンドウがペラペラと内心の葛藤や孤独を事細かに喋ることに違和感を覚えた人は多いと思います。確かにこの場面に限らず、今作はいつになく饒舌で説明的です。でもこれまでエヴァは、言いたいこと、表したいことを明示せず、観客の想像力に委ねるような曖昧な描き方をしてきた。あえて設定や世界観を明確に示さず説明もせずほのめかす程度で、謎は謎のまま残すことで、観客の側の誤解も含めた多様な解釈を許容してきた。誰が見てもすぐにわかるような、誰が見ても同じ感想を持つような単純な作品ではなかったからこそ、エヴァは社会現象になるようなブームとなり、その後26年にもわたって、リアルな「今の作品」として生き続けてきたのでしょう。でも監督にとっては、いつまでも過去になってくれないエヴァに対して複雑な思いもあったはず。彼にとっても観客にとってもエヴァは呪縛であり呪いでもあった。だから今度こそエヴァを終わらせるように、議論の余地のない、誤解のしようもないように、ゲンドウにハッキリと明確に物語の核心を語らせたわけです。たぶん最終的に監督が言いたいことはTV版や旧劇場版と変わってない。ただ言い方を変えている。そしてそれは見事に成功している。

 こうしてゲンドウは救われ、シンジも大人になってエヴァの呪縛から解かれた。レイもアスカもカヲルも救われた。28歳になったシンジとアスカが砂浜で対話するシーンは感動的でした。「あの時、君が好きだったんだ」とお互いに告白し、エヴァは過去のものとなった。エヴァは終わるんだな、と一番強烈に感じさせたシーンです。個人的にはアスカが幸せになってくれたことが一番嬉しいですね。

 最後にシンジが駅から駆けだしていくシーンは、もちろん監督から観客に向けた「現実に戻れ」というメッセージですが、そこでシンジと共に手を取って走り出す相手がなぜマリなのか。一説ではマリのモデルは庵野夫人の漫画家・安野モヨコで、これはつまり自分は妻に救われたという庵野監督の告白だというわけですが、そう単純な話でもない気がします。マリは「新劇場版」でいきなり出てきたキャラクターで、彼女のバックグラウンドや内面がほとんど(あるいはまったく)語られないこともあって、思い入れしにくい存在だったことは確かですが、たぶん彼女だけは「エヴァに呪縛された14歳」ではなかったということでしょう。ここらへんはもう一度鑑賞してじっくり考えてみたい。

 最後に蛇足。

 私がエヴァンゲリオンを初めて見たのが、忘れもしない1997年7月27日の日曜日の夕方でした。なぜ日付や時間まで明確に特定できるかと言うと、その日は第1回フジロック・フェスティヴァルの2日目だったからです。日本初の本格的な野外大型ロック・フェスティヴァルの開催ということで大きな注目と期待を集めていた第1回フジロックは、しかし予想もしなかった夏台風の襲来で会場が大混乱に陥り、観客の危険を危惧した主催者の判断で2日目が中止になるという最悪の事態になりました。当時私は取材で初日から会場に詰めていましたが、中止になった2日目の会場の荒れ果てた惨状を今でも生々しく思い出すことができます。


 為す術もなく東京の自宅に戻り、ぽっかりと空いてしまった時間を持てあました私は、呆然自失の状態でたまたま録画してあったTV版『新世紀エヴァンゲリオン』を見てしまったのです。ちょうどその時期は社会現象ともいうべきエヴァンゲリオン・ブームがピークを迎えていたころ。さまざまな雑誌で特集が組まれ、単行本も次々と出版されていました。めちゃくちゃ面白いアニメ作品があるという評判は、世間知らずの私にも届いていました。なのでテレビ東京で一挙再放送された同番組をまとめ録りしていたわけですが、自宅に戻り何もやる気が起きなかった私は、ほとんど現実逃避のような気分でそれを見始めたのです。たぶんフジロック2日目が中止にならず無事開催されていたら、見ないままだった可能性が高い。そうしたら案の定、あまりの面白さにドはまりして現在に至ります。

 それまでアニメには全く関心がなかった私が、エヴァをきっかけにして新しい世界を、新しい価値観を知ることができた。原稿に煮詰まり逃避したくなった時に「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ」と呪文のように呟くようになった(笑)。エヴァを知った時、私はもう中年のオッサンでしたから、自分とシンジを重ね合わせて思い入れすることはできなかったけど、確実にその後の人生は楽しいものになった。だから庵野監督やスタッフの方々、そしてエヴァまで導いてくれ、一緒に盛り上がってくれた無数のファンたちにも、心から感謝しています。フジロックが中止になって唯一良かったことかもね。

 


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