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春の粉

暖かい日だった。
春と言えば春だけれど。
春にしてはいつもより暑いような。

春の粉みたいなものがあるんじゃないだろうか。
花粉や黄砂ではない、何か春にだけ漂っているような粉。
なんだか夕方ごろ、酷く疲労感を感じた。
おかしな眠気のようなものが頭の中に沸く。
春の粉だ。

まだ肉体が冬から目覚めていないのだろう。
この暖かさにじわじわと何かが削られていく。
それとも、きな臭い厭な空気が僕を削るのか。
国連が、世界中が、周辺国がやめろと言っている。
言えば言うほど、やつらがやろうとしているのがわかる。
あいつらにこそ、春の粉を振りかけてやりたい。

歩み寄って理解し合うべきだ。
別にそれは戦争の事だけじゃない。
社会のありようとはそうあるべきだって話だ。
結果生まれる決定的な違いをなくすことは出来ない。
ある一定の部分からは許容するほかに共生する道はない。
その違いがあるからこそ、面白いんじゃないか。

目には見えないような。
春の粉が漂っていやがる。
皮膚に張り付き、粘膜に沁み込む。
澄んだ空気も、透明な水も、よくよく見れば微かに濁る。
春だなぁなんて能天気に笑えて来てしまう。
肉体がびりびりと痺れている。
いつもの春なら、疲労ではなくて浮遊なのかな。

足を引きづるように。
粉を振り払うように。
帰路につく。
おかしな眠気がとれない。

ふざけんなよ。
重くなった足に小さくつぶやく。

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