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氷彫刻ができるまで【氷屋が解説】


明治神宮奉納全国氷彫刻展

先日1月9日は、成人の日でしたね。
さて、毎年1月に明治神宮参道にて開催される明治神宮奉納全国氷彫刻展」は、元々新成人たちを祝うための催しとして始まりました。

その始まりは昭和52年、岩下商事様が納めた一体の氷彫刻から始まりました。雪像とはまた違ったその透明な美しさと、職人が生み出す見事な迫力がたちまち評判となり、現在では全国から職人たちが集い、何十体もの氷彫刻が参道に並ぶ一大イベントとなりました。

昨年は2年ぶりに開催された大会に、かつての優勝者などによる2体の模範作品と、28体ものエントリー作品が出品され、その煌びやかな光景が多くの参拝者の目を奪いました。

今年も1月14日に開催が決まっており、昨年度以上の盛り上がりが期待されます。(ご来場の際は、日照による氷のコンディションの変化で、氷彫刻を観られる時間も変わりますので、お早めの来場をおすすめします。)

氷彫刻【アイスカービング】とは?

さて、融けていく時間と戦いながら、瞬く間に氷の塊を荘厳な芸術に変えてしまう氷彫刻はいったい、どのようにして作られているのでしょうか?

氷彫刻を製作することをアイスカービングとも言いますが、その技術を持つ方は調理師学校などで技を習得することも多いようです。

そもそもアイスカービングとは、ホテルの宴会会場におけるウェディングやパーティーなどの際に、食事と共に装飾品として置かれることが多いものです。
特にウェディングにおいては白鳥のモチーフが人気なようです。
これは、白鳥が一夫一妻制の生態を持つことに由来するそうです。

一般的にホテルで披露される場合は、そのホテルの調理部門が製作を担当することが多いです。
味や饗(もてな)しだけでなく、視覚的にもゲストを楽しませるホテルマンの腕の見せどころといえそうです。

帝国ホテルの結婚式会場に置かれた氷彫刻

また一方では、アイスカービングにおいて世界的に有名であり2003年には「Cool Carvings」というドキュメンタリー映画のテーマにもなった、アイルランドの彫刻家グループ「デュテイン・ディールブ(Duthain Dealbh)」は、もともと砂を使った彫刻、砂像で有名なアーティストでした。
(デュテイン・ディールブとはアイルランド語で、ひと時のかたち、の意)

近年においてはホテルマンなどの手作業によるものの他に、CNC(コンピューター数値制御)を用いた削り出しによる氷彫刻も展示されるようになっており、様々な業界の腕利きたちがアイスカービングに挑んでいます。

第46回明治神宮奉納全国氷彫刻展の出展作品。
間近で作品を見ることができるため、ケガキの痕跡などを観察することもでき、
アイスカービングの手法が伺えるのも本彫刻展の見どころです。

氷彫刻の完成まで

手順1:デザイン

では具体的な氷彫刻(アイスカービング)の作成手順について解説しましょう。

まずは、作成したい彫刻のイラストをデザイン画として書き起こします。
このデザイン画は、正確な寸法まで計算を書き込んだ、イメージ図というより設計図に近いものとなります。

石や木材を使った彫刻の場合は素材へのケガキから始めることもありますが、繊細で時間的にも制約がある素材の氷を用いる、アイスカービングではこのデザイン画の正確さがキーポイントです。

※「【匠の技】氷彫刻/日本最高レベルの技!」東京アイスアカデミーより抜粋

手順2:ケガキ(氷への下書き)

次に積み上げた氷柱にケガキを行います。

積み上げた氷柱は、石柱や丸太などの彫刻素材と違い平面的なので、いかに奥行を持たせたような演出ができるかが 職人の腕の見せ所の一つです。

また表面の氷の状態が良くなければケガキを行うのも困難であるため、氷の適切な管理を行うこともアイスカービングにおいて非常に重要なことです。

※「【匠の技】氷彫刻/日本最高レベルの技!」東京アイスアカデミーより抜粋

手順3:削り出し

ケガキを終えた氷はまず、チェンソーで余分な部分を大きく削り落とします。この作業は一見豪快なものですが、誤って必要な部分まで落としてしまえば取り返しがつかないので、ある意味もっとも神経を使う作業かもしれません。

丸太を使ったチェンソーアートなどではチェンソーだけで最後まで作品を仕上げることもありますが、繊細な素材である氷を使ったアイスカービングにおいては、この後さらに細かい道具を使った削り出しを行います。

※「【匠の技】氷彫刻/日本最高レベルの技!」東京アイスアカデミーより抜粋

手順4:細かい仕上げ

細かいドリル等の器具で、細部を仕上げていきます。
この作業こそまさに「画竜点睛」と呼べるもので、一気に氷塊が作品の姿へと変わっていきます。

特に野外で作業する場合には氷の状態が氷柱を積み上げた段階の時とは変化している場合もあるので、繊細な模様等を壊してしまわないように、その時の氷のステータスを見極め、適切に作業していくことが必要となります。

※「【匠の技】氷彫刻/日本最高レベルの技!」東京アイスアカデミーより抜粋

氷彫刻の完成

こうして見事な氷彫刻が完成します。
氷彫刻のデザインは、もちろん優美さやディテールの繊細さなども重要ですが、氷という素材上の制約も多く、あまりバランス的に無理のある構造にしてしまうとすぐに倒壊してしまいます。

そのため、様々なことを考慮して職人の腕を振るい完成する氷彫刻ですが、真冬で条件が良くても2日ほどしか持ちません。

しかし、ガラス細工等では表現ができない、独特な屈折率を持つ自然な輝きと、その儚さも相まって多くの感動を与えてくれます。

※「【匠の技】氷彫刻/日本最高レベルの技!」東京アイスアカデミーより抜粋

日本ではホテルでの結婚式やパーティーなどの時にこれらをオーダーすることができます。

定期開催する氷彫刻のイベントとしては、前述の明治神宮奉納全国氷彫刻展はもちろんですが、さっぽろ雪祭りの一環として、ススキノメインストリート(札幌駅前通りの、南4条から南7条間の車道)にて行われている「すすきのアイスワールド」も見ものです。

1981年から始まったこのイベントは、ネオン街と氷彫刻のコラボが醸し出す、幻想的な雰囲気が魅力です。

今年2023年には、3年ぶりとなるリアルイベントとしての「第73回さっぽろ雪まつり」が2月4日から2月11日にかけて開催されるため、あらためて注目が集まっています。

第68回さっぽろ雪まつりにて、すすきのアイスワールドの氷彫刻展示

日本だけでなく、世界的な大会も!

(アメリカのアラスカ州、フェアバンクスに位置する世界アイスアート選手権会場)

我が国ではこのような形で親しまれている氷彫刻(アイスカービング)ですが、世界中でもアイスカービングが行われています。
中でも1981年よりアメリカ合衆国アラスカ州フェアバンクスにて、NPO団体のIce Alaska主催にて行われる、世界アイスアート選手権は世界最大の氷彫刻の祭典です。

(アラスカの池からは、厳しい環境で時間をかけてできた「アークティック・ダイアモンド」という良質な天然氷が採取される)

この大会では、アラスカの極域環境にて結氷した池の深さ80フィートから切り出される「アークティック・ダイアモンド」と呼ばれる超良質な天然氷を大会で使われる作品の素材としており、毎年30か国もの国から100人以上の職人やアーティストたちが参加します。

このイベントにも日本からの大会参加者が出場し、度々優勝を収めています。

このようなイベントは、常日頃より手堅い技術にて見事な仕事を続けている達人たちにとっての、まさに「晴れ舞台」の場所と言えます。

第46回明治神宮奉納全国氷彫刻展の全作品をご覧になりたい方はこちらから!

参考及び出典
東京アイスアカデミー
 : 明治神宮歴史データベース
Icealaska(NPO)




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