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日記1〜買い物をたくさんした日〜

8時ごろ、重たい身体をどうにか持ち上げる。歯磨きをしたはずの口にはニンニクの臭いがこびりついており、喉や胸の毛穴はアルコールが張り付いているような感覚があった。昨日は友人と打ちっぱなしの後に牛角の食べ放題に行って酒盛りまでした。胃袋はまだ重たい。

フラフラと浴室に向かって蛇口を捻り湯を溜める。洗面所の室温計は10.7℃を示していた。待つ間にマグカップに水道水を入れてレンジで温め、ぬるい白湯を作る。すすると荒れた食道から全身にゆっくりと熱が広がる。昨夜は寝つけず、『リング』と『天久鷹央の事件カルテⅣ』を読んだ後、スマホを3時ごろまでいじっていた。まぶたの裏で猫のGIFが踊っている。錆びついていた脳みそと身体を白湯で内側から温め、風呂に浸かって外側からも熱を与えると体温が湯温と平らかになり、膿んだ疲れが溶けていった。

午前は堺市で2時間ほど仕事だった。セブンイレブンで買ったおにぎりを往路でパクつく。南海電車から見える空は青い。終えた後、なんばへと向かう。BOOKOFFで天久鷹央シリーズの抜けを買い、北上する。心斎橋の長﨑堂で手土産を求める。雑誌を読んで気になっていたクリスタルボンボンと何かもう一つ……と悩んだ挙句、カステラにする。真田紐までついている木箱入りと紙箱入りと迷ったが、張り切りすぎると先方も恐縮すると思い、紙箱のにする。店員さんは商品の違いについて丁寧に説明してくれて親切だった。紙袋を渡され「クリスタルボンボンは割れやすいので気をつけてください」と言われる。パッケージだけでなく、脆いところも子どもの夢のような菓子だ。洋酒が使われているのも憧れめいている。

すぐ隣の路地の明治軒で昼食をとる。名物のオムライスと、コロッケのセット。付け合わせは串カツとエビフライとコロッケで迷ったが、エビは昨日食べたし、せっかくの洋食屋なのでコロッケにした。米が好きなので大盛りにもした。コロッケのタネはなめらかで舌触りが良く、衣もザクザクとしていて食感の対比が良い。ライスを包む玉子もクラシックな薄焼きながら内側ほど半熟で柔らかいのが不思議だ。ソースはケチャップよりのデミグラスという感じで、酸味も丸くコクがあるのにさっぱりしていて旨味が濃い。大盛りにして良かった。そういえばリナ・サワヤマが銀座の喫茶youのオムライスに感動していたそうだ。あちらは未体験なのでいつか食べてみたい。オムライスは人をワクワクさせる食べものだ。

愛想のいいおばちゃんの「ありがとうございましたー」という声を背に店を後にする。長﨑堂も明治軒も創業して100年近い老舗だ。これまで数えきれない人間が訪れただろう。自分がその1人になったことがなんとなく嬉しい。自分は歴史のある店が好きだ。現世でも来世でもあの世でもいいが、あの店に行きましたよ、といつか口にできるような気がする。長く紡がれた糸に自分という糸の端を絡めたような気持ちになる。

御堂筋線で梅田に向かい、アートマーケットに赴く。SNSで知って気になったイベントだ。グランフロント北館の会場をぐるり一周し、久保沙絵子さんや振本聖一さん、前田大介さんの作品が気になる。特に前田さんとは「今はもう存在しない土地や雑誌の特集をモチーフにして、人間が記憶を思い出すというプログラムを作品にしている」とコンセプトを聞かされる。彼の作品は遠目には具象的な風景画だが近景では抽象画だった。濃淡を持ってカンバスに表現された絵の具のまとまりは、悪意は無いが今に思うと吐瀉物を想起させる。記憶や思い出は消化機能と同じく、取り入れる前は形を伴っても個人に吸収される過程で色や形を混ぜこぜに消化されるのかもしれない。前田さんは「人間が何かを思い出すというプログラムを作品を通じて表現したい」と言っていた。作品を見ると自分の腑のどこかと通ずる感覚がある。その表現に出会えるのも良い体験だったが、何故そのような表現に至ったか聞きたかったと省みた。

帰宅した後は「葬送のフリーレン」の配信を見つつ、グランフロントの無印良品で買ったスコーンやパスタを紅茶と共に食べながらゆっくり過ごした。途中、妻に頼まれたルームウェアを買いに行き、同時に立ち寄った本屋で『東京同情塔』を見つけて買う。入荷を待っていたので嬉しかった。帰って焼酎を飲んだ。飲みつつアニメ鑑賞する途中、カッターシャツの襟口をウタマロ石鹸でつけ置き洗いし、作品もひと息ついたら洗濯モノをコインランドリーの乾燥機にぶち込むべく外界に出る。凍えそうな外気に歯がガチガチ音を立てる。乾燥が終わった洗濯モノを袋に詰めてサンタクロースのように家に持ち帰り、もう少し焼酎を煽って眠るとする。明日も仕事だ。
では、おやすみなさい。

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