優しい人 file2.ユリ
「私高校時代パン子って噂されとってん!放っとってくれよな!笑笑笑」
なんとも明るく言うもんだから、これが都会か。とビックリしたのを今でも覚えてる。
友達ファイルno.2 ユリ
大学1年の春。親元を離れて一人暮らしを始めて初めての生活。田舎から大阪に出てきて、今まで出会ったことのない「女」と知り合った。
「ユキちゃん、、やんなぁ?可愛いなぁ思ってずっと見ててん🖤」
関西の女子大に進学した私は、右を向いても左を向いても、毎日、目をまん丸にさせてビビっていた。
周りはみんな、洗練された洋服、バッチリのメイク、1人残らずブランド物のバックを手にして「男と美容」の話をしている。
そんな環境に、ビビりまくっていた。
だけど、ユリはそんな私が感じる壁をいとも簡単に乗り越えて声をかけてきた。
(都会の友達の作り方ってこんな感じなん?段階踏まずして、平気で話しかけてくる。怖っ。)
内心バクバクしながら、返事をした。
そこからどうやって、毎日同じ講義を一緒に受けるようになったかは覚えていない。
でも、私はひたすら彼女に着いてまわっていた。
今思えば、お酒の飲み方も、タバコも、海外旅行も、泥酔も散財も、授業のサボり方も、全部彼女が教えてくれた。
もちろん、不良とかいうわけではない。
20歳らしいイキッた「遊び方」が出来たのは彼女のおかげ。
実際に、見たことない景色、食べたことのない美味しい食事、少し背伸びしたお洋服と靴は、私の世界を広げてくれた。
彼女と私の付き合い方はいたってシンプル。悩み相談やガールズトークなんてしない。
干渉し過ぎないから否定も肯定もお互いしない。
会話も、ほかの友達とは比べものにならないくらい少ないんだけど。
でも、ずっと一緒だっだ。
大学時代に彼女とは10カ国も旅をした。
国内を合わせれば数えられない。
ずっと一緒、でも、1度も嫌にならなかった。
なんでこんなに楽なんだろう。なんでも話す訳じゃないのに、なんでこんなに心地がいいんだろう。
ずっと疑問だった。
その理由を、10年後、海の中で気づくことになる。
お互い就職して、住む場所も離れていたけど、久しぶりに旅行に行くことになった。
宮古島へのスキューバダイビング。
離れている間、ライセンスを取って、1人で潜りにいっていたらしい。
もちろん、私は、また、彼女についていった。
海の中は、また、見たことない世界だった。
言葉が通じないから、目で会話する。呼吸をすることを忘れてはいけない。
また、、、
また、、、私は彼女に世界を広げてもらった。
私は初心者で不器用で、最初は怖くて上手く泳げなかった。
どうしても遅れをとる。
その度に、先方を泳ぐ彼女が後ろを振り返って私を確認してくれる。目があってニコッとしたら、また前を向いて泳いで行く。
自由に泳げる彼女は、どんどん自分の興味のある方を散策したいはずなのに。
いつだって私を置いていきぼりにしないんだ。
あぁ、めちゃくちゃ優しい人だ。
豪快で、あっけらかんとして、サボり癖もある酒好き。相談に乗ってくれるようなタイプじゃないけど、、言葉で癒してくれるタイプじゃないけど、、、すごく優しい。
そっか。お酒のペースも合わせてくれてたんだ。
そっか。私の好きそうな洋服屋さんに連れて行ってくれてたんだ。
ナチュラルに私を引っ張って、私が楽しめるように気を配ってくれていたんだ。
いつも。
いつも。
だから私、彼女といると心地良くて、安心して冒険できていたんだな。
気づかなかった私の方が、浅い奴だ。
10年後、水深20mで、やっと気づいた。
私、彼女がいなかったら、きっと今の私は存在しない。
出逢えて、よかった。
心底思う。