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ニートが家に住むことになった。#12

どうも、この度ニートが家に住むことになりました。
※更新が随分遅くなってしまいました。申し訳ございません…

(ミ)BLUE NOTEと東京タワー


音信不通状態から目を背けて3日ほど経ったその日は、以前約束したブルーノートの日だった。普段は在宅勤務が主なのであるが、たまたま出社日だったためとりあえず脳死で化粧をし、家を出た。お昼前になってもなんの音沙汰もない&(悔しいがな当然ながら)チケットは私が一括で支払っている。行かないのであれば別の人を誘いたい。流石に限界だなと思いお昼休みビルの外に出て電話をかける。「生きてる?今日行く?」と言うと「行くよ。じゃあ19時半に表参道待ち合わせで!」とのこと。行くよ、じゃねえよてめえ私の家に大半の荷物を置いたまま音信不通でてめえが行きたいと言い出した約束もこっちから連絡してやってるんだよまず「ごめんなさい」だろうが、と一息で言ってしまいそうになるところをグッと抑えて、「わかった」とだけ言うつもりが、ついつい「てか結局今後のことどうするのか決まったの?」と聞くと「来週から京都に行くことになったよ」と言われた。やっぱりな、という感情が50%、来週からって急じゃね?というのが30%、家族とどういう話をしたんだろう、というのが20%だったが、昼休みももうすぐ終わりそうだったので「そうなんだ」と言い終話した。その日、仕事が忙しかったのが不幸中の幸いだった。午後の間一瞬もニートのことを考えることはなかった。
とにかく19時半表参道に間に合うように仕事を淡々とこなし、無事帰り際の上司からのお咎めもなくスッと会社を出ることができた。寅女、いつものことだが仕事終わりの電車の中というのはあまりにも色々なことを考えてしまう。おそらく仕事中にまるでプライベートのことを考える暇もないことの反動が、一気に、電車の中で押し寄せるのだろう。この日も表参道にまた向かうまでの銀座線の中で「京都に行く話、もう確定事項なのかな…」とボヤボヤ考えてしまった。無事待ち合わせ場所に着き、久しぶりに顔を合わせるも思うように話せない。感情の整理がつかなかった。ニートもどことなく気まずい感じで、かつてないほどのよそよそしい雰囲気でブルーノートまでの道のりを歩いた。手続きを済まし席に着いてから開演まで30分ほどあったが、内装の話やドリンクメニューの話などの他愛もない以外の何物でもない話をし続けて、公演が始まった。
上原ひろみさんのその魂のこもった演奏を聞きながら、ニートが来週から京都に行くというその事実について、ぼんやりと考え始めた。なんとなく、その素晴らしいジャズに後押しされている気がして、最初は「突然だな〜嫌だな〜」という感情しか持ち合わせていなかったところから、「家族と何を話したのかは聞いてみないとわからないけど、どんな話をしていたにせよ家族の間できちんと話し合われたことなのであれば、部外者の私が首を突っ込んでとやかくいうことではないんじゃないだろうか」という考えに変化した。
そこまでの感情の変化で自分の気持ちに整理がついたところで、その公演も終了した。

外に出て、「すごかったね!!」と興奮を隠しきれないまま赴くままに夜の麻布を歩いて、気がつけば六本木ヒルズだった。するとニートが「めっちゃ良い景色のところがあるから行こう」と言い歩き出した。ヒルズを上がり、少し歩くと東京タワーを一望できるあのスペースに着いた。カップルだらけのその場所でいろんな感情とともに感傷的になりながら東京タワーを眺めた。少し経ってなんやかんや六本木の居酒屋に腰を据えた。
そこでは大枠家族と「京都に行って親元を離れて自立した生活を送る」ということで着地したことをすごく晴れ晴れとした顔で聞かされた。こちらとしては「いやいや、」である。首を突っ込むのは違うと思いながらも、家族に事実を話していないままこの結論になる方が違う気がした。「家族は、私の家に今住んでることとか、友達にお金借りてることとか、もう営業の仕事してないこととか、知ってるの?」と聞くと黙るニート。「家族に全部話してから、行くか行かないか決まるべきだと思う」と言う私の主張と、「とにかく京都に行きたい」ニートの主張が激しくぶつかり合った深夜1時頃、とりあえずタクシーで久しぶりに2人で家に帰った。

その次の日、「母親と今後のスケジュールについて具体的な話をしないといけないから、また実家に帰るね」と言い午前中には家を出て行った。


(ム)お台場


それからと言うもの、再び音信不通の日々が続いた。そして約3日間経ったくらいの時に電話がかかってきて「明日の午前中、荷物を取りに行きたいんだけど家にいる?」と言われた。翌日の土曜日、シャワーを浴び終わったと同時に家のドアが開いた。そうだ、こいつ私の家の鍵持ってたんだった…と思い出し、髪の毛をターバン巻きにしながら「そこに全部荷物まとめてあるから持っていって」と指を差しながら言った。「あ、あと鍵返して」とも言った。ニートは「え、荷物まとめておいてくれたの?ありがとう!!」と言いながら、「てかなんで寅女ちゃんこんな時間にお風呂入ってるの?仕事は?」ときかれたので「今日土曜日だから仕事ない」と言うと「あ、そうか今日土曜日だったんだ!寅女ちゃん今日予定ある?せっかく俺車で来てるし、ドライブ行こうよ」と言ってきたので最後だし行くことにした。

色々な感情があったが、もう家を出ていってからは私はこの人とは一切関わらないと決意していた。車に乗り込むといつも通り無計画なニートはとりあえず車を走らせた。お台場に到着して、喉が渇いたのでカフェでコーヒーを買おう、というと、「今まで色々払ってくれたし、今日は俺が出すよ」といいながらコーヒーを奢られた。財布の中を見ると今までにみたことのないくらいの大金が入っていた。京都に行くための資金として借り入れたお金らしい。頭が痛くなりそうだったのでそこからは目を離して遠くの景色を見るとレインボーブリッジの手前に満開一歩手前くらいの桜が咲き乱れていた。

「夕方から予定があるのでもう行かないと」と切り出すと「え、そうなんだじゃあ行こうか」と言って次の予定があった新大久保まで送ってもらっている最中、「人に嘘つくことと、お金を借りることはもうしないで、元気でね」と言った。「うん、分かった、ありがとう」と言われて、ここで降りるねと言って車を降り、振り向かずに次の目的地まで歩き続けた。


それから早1年が経とうとしているが、その後彼とは一度も連絡すら取っていない。元気にやっているのだろうか。


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