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Good job!だけでなくGood try!も

5月6日の朝日新聞の記事『特派員メモ』は、胸に響いて思わず切り取った。
ワシントンの特派員、榊原謙記者の『グッド・トライ 次こそは』というタイトルの記事だ。

地元のバスケットボールチームに入って半年になる8歳の息子さんが、試合でヘマをしたり、なかなか上達が見られない様子にイライラを募らせていたところ、コーチに伝わったのか「子どものプレーに不満はあっても、口に出さないでね」と忠告を受け、反省しきりだったというエピソード。

そして、観客席の様子がつづられる。
米国人の親たちは応援の仕方も大らかだと。
得点をすれば "Good job!(よくやった)" と騒ぎ、ミスしても "Good try!"と拍手を送る。

日本では幼少期から一つのスポーツに打ち込む子が少なくないが、米国では多くの競技を経験し、その中から時間をかけて取り組むべきスポーツを探すとのこと。
なので、見守る親たちには「まずはスポーツに親しもう」という緩やかな雰囲気がある気がする。でもそこに、世界最大のスポーツ大国の基礎があるようにも感じる、というのが榊原記者の実感として述べられていた。

あぁ、やっぱり。。と腑に落ちた。
大谷選手はじめ、大リーグ移籍した野球選手たちが、なーんかいつも楽しそうに笑っていて、チームメートとワチャワチャ少年のようにたわむれている『陽』な空気感は、少年スポーツ時代の環境と、とりまく親たちの大らかな思想によって育まれたものだった。

"Good job!"に関しては、私も普段、教室の子どもたちに連発しているが、失敗した時の"Good try!"は足りていなかったなぁ~、と反省。

特に中学生の指導では、学校の定期試験の『重箱の隅をつつく』方式の採点を打破すべく、つい間違った回答、できていないことをクローズアップしてネガな指摘をしてしまう。
「えっ!? 中1の2学期で習ったヤツだよ~。大丈夫?受験生~」などと、ネチネチ、ネチネチ。。
学校英語を意識して、自分もいつの間にか『重箱のふたのご飯粒をチマチマつまみ取る』アプローチが習慣化してしまっていた。

そんな私でも一つだけ意識していることがある。
送迎の車の保護者と会話する際など、生徒が立ち合う場では、あえて生徒を褒める、ということだ。どんな小さなエピソードでも、ポジティブな報告として保護者に伝える。
傍らで報告を耳にする生徒が、ちょっと照れたように、でもふんわり誇らしげな表情を浮かべる瞬間がたまらなく好きだ。

これは、映画 『デンジャラス・マインド』で映像化もされた、高校教師 ルアン・ジョンソンの自伝、映画の原作 "Dangerous Minds"の影響が大きい。

元海兵隊のルアンは、生活費を稼ぐためのバイト感覚で教師の求人広告に応募、しかし受け持ったアカデミークラスは、ヒスパニック系の問題児ぞろいのとんでもない荒廃したクラスだった。

貧しい移民のスラム街で育った生徒たちは、落ちこぼれのレッテルをはられ、学ぶことにも生きることにも希望を見出せずにいた。
大人を全く信用していない、とがった態度で反抗する生徒たちに、型破りなあの手この手で学びの意味を悟らせていく過程は映画でも詳しく描かれていたが、実はそれらは原作ではほんの一部に過ぎない。

私的にはその後、ペーパーバックで読破した、ルアン自身が著者の原作"Dangerous Minds"と、続編 "The Girls in the Back of the Class"の方が、何倍も胸に刻まれ心のバイブルとなった。

映画ではミッシェル・ファイファーが演じた主役の教師、LouAnne Johnsonは、自身の経験から、家庭訪問の必要が生じた際、保護者の前で必ず生徒を褒めるようにしていたという。

「彼を自分の生徒としてクラスに迎え入れることができて、どんなに幸運か」「こんな息子さんを育ててくれて感謝している」「あなたたちも誇りに思うべき」などなど。。。
同席していた生徒が、思いもしなかったセリフに呆然として (stood staring)、口あんぐり (openmouthed)で固まっている様子は笑えたが。
そして、親の面前で褒められた生徒たちは、例外なく授業態度に翌日から変化が現れた、という記述にはしっかりアンダーラインが引かれている。

また、受け持ちのアカデミークラスで、授業中、決まって、わざと大あくびを連発する女子生徒がいた。ルアンの目を見ながら、正面を向いての長あくび。
さらに授業終了10分前には、テキスト類をおもむろに騒々しく閉じて重ねて、時計とルアンを交互に見て、終礼のベルが鳴るのをひたすら待つ。
当然、周囲の生徒たちも気が散って、その10分間は上の空。ルアンにとって、失われた10分間だったと振り返る。
彼女の嫌がらせは、いわば新人教師を試す儀式みたいなものだったらしい。

ついに我慢の尾が切れて、保護者を巻き込むことに決めたルアン。
ここで渡した手紙が秀悦だった。
あえて、悪態には触れず、彼女がどんなに明るくてチャーミングでユーモアあふれる生徒か。。。クラスにいてくれてよかった、
などプラスの言葉を列記して、近況報告の手紙として女子生徒に手渡したのだ。
封はもちろんしないまま、授業態度に負い目がある彼女が中を盗み読みすることは計算済みだ。
翌日には授業中の彼女の大あくびがピタリと止まったというから、ポジティブワード、恐るべし。。。!

"Good job!" と "Good try!"と。。。    
両方の言葉かけでもっと教室を満たしたい、と小さな記事に思いを新たにした。

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