カフェ・オ・レが冷める前に(掌編/短編)

 およそ三〇〇年前、とっくに死んだ光だった。
 アマチュア天文家だった彼女の、美しい間違い探し。昨日の夜空にはなかった星を見つけて、すぐに爆発直後の超新星だと確信した。
 名前を「SN 2022 A」。今年初めて発見された証のAがつく。宇宙に関する話を聞くのは好きだったけれど、何も詳しくはない。命の終焉。強い光を放ちながら死ぬ星――爆発したものだから、正確に星、としては既に形を留めていないけれど――は、暫くの後に減光して、星雲状に変化するらしい。今はまだ、少なくとも星として僕の目に映る。もし、人が星になると言うなら、彼女は近くで見る事が出来ているだろうか。
 超新星は基本的に、固有の名前がつけられない。他の種類とは違って記号化される。でも僕たちは、それを「カフェ・オ・レ」と名づけて呼んだ。二人の好きなもの、例えあの星が星でなくなっても、綺麗な渦を描くカフェ・オ・レみたいになればいいよね、と。
 死んだ後でも、呼べる名前がいいよね、と。
 僕は夜空の見方を知らない。けれど、今は強い光を発するそれだけ、探すのが上手くなった。
 今日も観ている。君の名前を呼びながら、きっと明日もそうするだろう。そして、これからも。
 いつか光を見失ってしまう前に。あの「カフェ・オ・レ」が冷める前に。


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 さごし(青箭魚ナギ)さんのtwitter企画、「#同じタイトルで書かれた小説が読みたいコンテスト(#イチヨミ)」に乗っかったものです。久々ですね。リハビリですもん。