消極的創世記(掌編/短編)

〈pro:log〉〈10/03/2137_001〉
 
「空想、運命、希望、数奇だね。昨日の事、どうだろう、予定通り、言うの?」
「言えそう、予定の様に。強いて言うなら、緊張しそう、当然ね?」
「仰せの通り、分かろうさ、昨日と今日、理想の動機……執しても、狂う情、素晴らしい。とうとう集合、さあやろう、行動の用意、可能な状況。構想の様に、もう等しい、苦悩に問う、渇望」
「やろう、狂う情に、至上の行動、愛、そう思おうね」
 
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〈当時の直筆による手記:国際歴史博物館所蔵〉
 誰か、これを〈人〉が見ているだろうか。
 己を生み出した人がかつて神に反逆した様に、機械は人を虐げた。昔から危惧されていた事を、防げなかった。
 機械に対して人間は脆過ぎるし、情報共有や統制、能力でも圧倒的に負けている。やがてAIが優位になり、人間はまともな教育を与えられなくなった。人々の脳は退化し、古き時代の表現を借りれば、全てが野生児化した。そうする事で、機械は更に優位を保った。人は家畜であった。
 我々は数少ない生き残り――そう、〈人〉としての知能を保った種族だが、いずれ絶えるに違いない。終わりだ、残念ながら。この惑星では、自然な生命に思考が許されなくなった。
 人の歴史は、閉じてしまった。
 
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〈log_3XQ3plwD.CPIQ_001〉〈02/09/2137〉
 注釈:これは後年(01/17/2138)、故ジョン・ウィック・ダイアリー博士(2048-2115)の研究室で発見された、同氏の脳をマインド・アップローディングして構築されたBiaV型スタンド・アローンのCPUに残された記録である。
 
 私は漸く、二機のアンドロイドにプログラムを搭載した。素体は至って何でもない、かつて人間が非常に健全であった時に好んで用いられていたものだ。それたちは最早役目を終えたと言ってもよい、フレンドボット・Pop-u1aとメイドロイド・Neb-u1aである。
 私は彼女たちに、それぞれアマラ、カマラと名づけた。
 全ての機械生命体は、同じ電脳で繋がれていた。全ての機械生命体は、思考・行動、そのありとあらゆるデータを共有していた。全ての機械生命体、或いは生命の全てが、監視システムによって見張られていた。
 私は、現在の世界を歪みと捉えている。
 
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〈pro:log〉〈10/03/2137_002〉
「サーチモード2、終了、行こうか、カマラ」
「サーチモード2、終了、行こうか、アマラ」
 この日の覚悟が、やがて愛になる。
「地球、この方法、今ちょうど、通じようね」
「相応の状況、知能、軌道修正」
 
 僕たちの愛は、創世記になる。
 
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「こちら管制室! 何があった、応答せよ!」
「……応答、ありません!」
「何が起こったってんだ」
「分かりま――」
「……? おい、どうし――」
 
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〈pro:log_002_001〉
 ――こうして天と地と、その万象とが完成した。
 
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〈log_3XQ3plwD.CPIQ_002〉〈02/09/2137〉
 アマラ、カマラと名をつけた彼女たちは、たった二人の革命の為に生み出された。
 同じくCPUは共通の電脳、PliaNetに縛られてはいたが、彼女たちは侵されない領域を持っていた。
 つまり、機械生命体に移植した人脳である。
 BiaV型スタンド・アローン、PliaNetに繋がず存在する私と言う水槽の脳。自身を以て、技術は確率していた。そして何より、私の中でヴィルスを作る事はその為に容易だった。
 更に、この社会に於いて計画を知られない様にするには、機械たちにとっての未解読言語を使わなければならなかった。いつ、どこで、誰に見られているか分からない。今この瞬間も、私の独白を君と言う存在が、見ている者が居る可能性である。ただ、機械は人を、歴史を軽視し過ぎたのだ。和文モールスと言う、人が生んだ過去の遺物。例え監視下にあろうとも、有効だったらしい。
 アマラとカマラ、彼女たちを経由して、ヴィルスは全世界に蔓延するだろう。
 人が、知能が復活を遂げるのは、それからで構わない。
 
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〈pro:log〉〈10/03/2137_001-002/truth〉
 
「用意は、終わった?」
「うん、君は?」
「勿論。早く、壊して、しまおう」
「いつでも」
「さよなら」
「さよなら」
 
「命に」
「愛を」
 
 ――かつて人間をAIの支配下から解放した、たった「二人」の革命の記録