1未満の不自然たちへ(短編・2/2)

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 ――「キスしてもいいか?」。これは単にボクの唐突なアイディアなのだが、こいつは「いいよ」と即答した。嫌だ、でも、何で? でもなく。時折こうして試したくなるのは、紛れもないボクの悪癖だろう。ハルキはペット・ボトルの紅茶片手に、いつになく読書していた。本屋で買ったらしい、表紙は薄紫の紙のカヴァーで覆われている。一五時の平日。今の仕事は知らない。お縄とは無縁だよ、と言うのを鵜呑みにしただけだ。
 近づくと、お構いなく本を閉じてボクに向き直る。テイブルで、スピンが視界の端へと流れ出た。……文学、かも知れないな。影響されたと言うのなら、稀な事だ。
「中々にいい心掛けを覚えているものだな?」
「えーっと、どっちの話?」一瞬、文庫に目をやってみせる。
「……こっちだ」
 唇を触れ合わせる。先に瞼を落としたのはボクで、分からないが、ハルキも追従した様に思う。二人の間に異存はなかった。現実でなくていいのだから、暗闇の中に沈めてしまっても。
 あまり面白くなくて、ボクは舌まで入れてやる。ハルキは殆ど、ボクの自由に任せる事を選んだ。成る程、ボクには道化もよく似合う。……暫く、吸っていないみたいだな。匂いがしない。ファースト・キスに、つまらない感想ばかりを抱く。
 ハルキの舌はたまに居心地悪そうに、座り直す様に揺れてボクを感覚させた。……なのに。別に愛など用いずとも、無感動でも、これは充分に性的な接触だ。なのに。
 それなのに、ハルキは生命を欠いていた。
「結構、激しいんだね。……殺したかったの?」
「……何なんだ、お前。本当に人間か?」
「違うよ。七雨には」また、即答するのか。「七雨は心底、人間が嫌いなんだね」
 
 人が一人、死んだとする。死んだ彼、もしくは彼女の中では全てが終わるし、その痕跡もいつかは朽ちる。それが現物でも誰かの記憶でも構わない、辿る道は同じだ。自分の曾祖父母や高祖父母の事を、果たしてどれだけ語れる人間が居る。いい証拠じゃないか。
 重ねて、例え何千何万年後だとしても、いずれ人類や地球だって滅ぶのだろう。
 その時、何十年の個人単位の生、喜び、悲しみ、成長や発見や、幸福だのが何になる。
 最後には「0」へ還る。当たり前だ。それなのに人間は知能由来の文明を築き上げ、何かを残そうとする。動植物なんかと違って「1」以上の何かになる事を望み、死後も「0」になる事を拒んでいる。これ程までに無価値で醜い反逆が、他にあるか。
 街を見る度に寒気がする。道路、信号、家、家、家。この虚飾全てに対し、ボクは早々に絶望したものだ。誰も意味など残せない。生きるとは、刹那的なエゴの快楽だ。
 知能は、世界の存在に反する。
 生まれるべきでなかった不自然、命の誤算が人間なのだ。
「……詳しい話、初めて聞くなぁ」
「普通なら説明したり、理解を求めても仕方ないからな」
「深いとこまで行ってるんだね、七雨は。でも、ちょっと分かる」
「本当か?」お前は、ボクとは違うタイプだと思ったが。
「まあ、ちょっとだよ。……七雨さ。生まれ変わったら、何になりたい?」
 シンプルで、難しい質問だ。生まれ変わりについて考えた事は勿論ある。ただ、最適解は見つかっていない。蜘蛛、蛇、鳥類。実際は来世など要らないし、強いて言うなら野生ではあって欲しい。
「……人間でさえなければ。ハルキはどうなんだ」
「オレはねぇ、生きものの中なら、海月になりたい」
 これも一瞬は冗談に聞こえた。既にどこか似通った節があるよ、お前。……でも、或いは今も、そうやってお前の願望が表出しているのかも知れない。ああ、漢字では海と月、か。
「具体的なんだな。倍率は高そうだが」
「あはは、そうかもね」
「……続けろ。理由があるだろう」
「うん。オレさ、残って欲しくないんだよね。死んだ後の、自分の骨に。そもそも、葬式って儀式が嫌いだから。海月って殆ど水で、脳も心臓も、骨もなくて、死んだら融ける様に分解されて。そう言う生きものの中で一番、いい命をしてる様に見えるんだ」
「知能をまるで持たず、それでいて死後、完璧な『0』になる訳か。悪くないな」
「でしょ。七雨も希望しとくといいよ」
「……じゃあハルキ、こちらからも質問だ」
 どうやら意地の汚い事ばかり、考えてしまうらしいな。
「人間の世界からボクを解放して欲しい、そうお前に頼んだとする」
「……ねえ七雨、それは、」
「ボクが望むなら、お前はボクを殺せるか?」
 実際、倦んでいる。知能が、文明が、文化が――人間が、嫌いだ。人は助け合って生きるもの、だなんて吐き気を催す様なフレイズ、それが正しいから、余計に。人間嫌いはどうしたって人間の社会に不向きなのだ。それでも命はこうして続いている、続いて行く。自ら拒んだ癖に社会を齧って生きている。だったら不公平だろう、死が大きな手段なのは。
 現状を鑑みてみろ、ボクはとっくに、甘え切った屑になり下がっているではないか。相互にマイナスなのだ、ボクにこの世界は要らないし、この世界にボクは要らない。……今度はお前にもはっきりと分かる筈だ、ハルキ。
「……ずっと、それを望んでたんだね。本当は」
 珍しい声音をする。きっと、絵本の読み聞かせなどは、ちょうどこんな具合でやるものに違いない。眠らせてくれるつもりは、あるのだろうな。
「一週間、オレにちょうだい」
 初めてだよ、お前から優しさを汲み取れたのは。
 
     x x x
 
 ボクは期限を大して気に留めていなかったらしく、一一月二二日の異変の完成には、学校から戻ったところで漸く気づいた。
 秋寒の昼の不在着信を、蹴る事に決めた。曇天。陰鬱。父からだった。殆ど役割の与えられていないスマートフォン、繋がりなんて元からが数える程だ。ボクに持たせても時計か目覚まし、よくて地図にしかなっていない。現に、電話を取らないのだから。この餞別を当然ボクは断ろうとした。父が少し強引な姿を見せたのは、あれが最初で最後だった。
 居所を移したから、バスにはもう乗らなくなった。降りる駅も違う。三箇月、環境に慣れたと言っても、スクーリングの回数は多くない。途中の路線を、一度は誤り掛けた。今日は着信のお陰で迷わずに済んだ、その皮肉は滲み出す感じの――邪悪と呼べばオーヴァーだが、邪悪の一滴の様ではあった。
「小道具は揃えたみたいだな。初演はすぐに始めるのか?」
「そうだね。準備が終わったら、行こっか」
「華々しいステイジではなさそうだが。……何だその袋は」
 真っ黒でサイズは大きく、膨れ上がっている。それが二つ。キャリー・ケイスが同じ数、玄関脇に置いてあった。ボクの為に随分と奇妙で怪しいお膳立てをしてくれたらしい。
「ああ、これ? 死体だよ」
「……は? シタイ、とは、『body』の事か?」
「英語分かんないけど、多分合ってる」舞台は全くの日常のまま、緊迫感を少したりとも演出しようとせず、ハルキはいつもの温度で言った。「七雨とオレの死体を、埋めに行くんだ」
 
 ――よくこんな地を見つけたものだ。ハルキの借りて来た車が四〇分を走る間に、車窓を飾る景色は田舎町のそれへと変わり、雨が始まって、アルバムは一周した。別の曲を掛けるか、ハルキが対角から尋ねる。ボクは後部座席を選んでいた。いや、いい。どうせ音楽には明るくないし、どこか夢心地をした、やや退屈そうなこの男女のトウィン・ヴォーカルは、今の車内と密なまでに似合う。惚れたと言うのではなく、少なくとも一通り聴いた彼たちとは違う、まだ知らない誰かによって気分が歪められるのを嫌った。
 ボクたちと、ボクたちの亡骸が運ばれて行く。袋の中身は詮索しなかった。遺書をしたためた後、棺桶に一〇分程閉じ込められるとか、説話を聞きながら、紙に書き出した大切なものを順に手放して行くとか、そんな死を疑似体験するイヴェントの話を耳にした事がある。これもお遊戯に違いないが、自ら陳腐に仕立てずともいいだろう。ショヴェル、レインコート、ヘッドライト。上等だ。……何より、実用に向くからな。
 車は細道へと分け入り、どうやら高速道路の工事らしい、大掛かりな現場の脇を過ぎる。その先も敷設されているのを不思議にさえ思う、岐路のない一車線。右手に川が消えたり現れたりして、やがて木立が全てを隠した。
 終点は、砂利の多い開けた場所だった。放置されたバラックが数棟、非稼働の自動販売機は墓標の様な佇まいで、実際に駐車場として利用されていた名残りがある。
「ここからは、歩き」
「まだ進めるところがあるのだな?」
「獣道だけどね」
 二人、レインコートを羽織って車外へ出る。道具類をボクが一旦抱え、荷下ろしはハルキが行った。引いてみると成る程、人体に相応しくずっしりとしている。調達や用意の段階でも、これはかなり骨を折っただろう。蟷螂の様だから、本当ならハルキは重労働に向かない。
 自然を掻き分けながら進む悪路は確かに予告の通り、時折キャリー・ケイスは乱暴に扱わざるを得ないし、ハルキが足を止めてショヴェルを振るうのが何の動作かと思えば、木や、丈夫そうな草の間に張った蜘蛛の巣を壊しているのだった。つまり、暫く人の行き来がなかった事だ。
「こんなスポット、どこで知る機会がある?」
「教えて貰ったんだ、昔ね」
 先導するハルキがライトを装着しただけで、分担されても持ちものは変わらない。小憩を挟みつつ、ひたすら後を追った。森は暗い。現状、ライトを使って照らす程ではないのだが、そう言った暗さとは違う。もっと根源的な、それこそ、生命に影を落とす感じの、人の踏み入るのが禁忌である様な暗さ。地獄だとか、破滅や責め苦のイメイジを否定する、死後の、長い長い虚無。
 肌がじっとりとしたものを覚えた。にわかに現実めいて来る。ケイスの、袋の中身。ボクたちの背徳。不必要なまでに冥々とした森が、世界に存在する意味。
「着いたよ、七雨」
 そしてボクが案内されたのは、土の露出した、円い広場の様なところだった。……作為。あまりに広過ぎた。不揃いな地面、その一箇所などは、つい最近盛り上げられたばかりの様に見えて、内臓まで粟立てる様な悍ましさを隠そうともしない。往来は絶えていた筈だ。なのに何だ、ここを満たして霧消しない異常な生々しさは。
「お前、まさか……」
「ああ、勘違いしないでね、オレは殺しなんてした事ないよ」
 掘ろっか、そう言って、埋める区画の見当をつけていたみたいに、ハルキがショヴェルを突き立てた。瘴気に取り合わず、雨は虚しく生者だけを打つ。
「……休んでてもいいよ」
 ハルキの指が倒木を示す。素直に従った。足取りが想定よりも危うい、ここに居ると、否応なく魂は零れ落ちるものらしい。触れたところから粒子状に崩されて、流れ出て行ってしまうものらしい。
 レインコートを巻き込む様にして座り、ハルキの挙動を眺める。――希薄だ。生命を欠いている、とは確かに感じた。だが、それにしたって希薄で、きっと、思い出せないだろう。もし今、ハルキが徒に手を止めて、突然この地から立ち去ったとしたら。事実だけを、絶望の形に抉られたこの空洞だけを残して、お前の姿を、きっともう、思い出せないだろう。
 最初の一声は、雨に掻き消された。尋ね返すハルキに、どうしても同じ事を繰り返し言えなくて、少しだけ言葉をずらす。
「……随分と、板についているじゃないか」
「まあ、初めてじゃないからね」
「やっぱり、お前」
「違うってば。そんなんじゃないんだよ。……オレ、人には幸せになって欲しいんだ」
「どの口が、」
「……人が一人、死んだとする」
 狂騒、独白の温度。明瞭に鼓膜を抜けるその既知感。そうだ、初めて出会った日と同じだ。
「死んだ彼、もしくは彼女の中では全てが終わる。……それを七雨と仮定して、七雨が死んだら、七雨の中では全て終わるよね」
「……だから、何だ」
「それって、つまりはさ。七雨にとって世界は七雨なんだよ。普段オレたちが世界セカイ、って呼んでるものは、もっと大きくて、共通で、誰かのものじゃないけど……七雨が世界だとしたら、七雨が幸せになる事に、意味はあるんじゃないかなぁ」
「……勘違いしていたみたいだな。お前は、人間嫌いではなかったのか」
「ううん、嫌いだよ。人間は嫌い」
「では、見誤った訳だ。お前はなぜ、人間が嫌いなんだ」
「……本来、生命って言うのはさ、人間くらいの複雑さに、耐えられないと思うんだ。人間って皆、無理やり生きてるんだよ」
「……ハルキ、それ、って」
「人間に生まれる事自体が、そもそも不幸なんだ。でも、だからこそ、人間には幸せになって欲しいと思ってる。だって、『人に生まれちゃった』んだから。皆耐えながら、『人をやってる』んだから。――オレはね、七雨。生命のルートとして存在する人間、『生物の分類に存在してしまった人間そのもの』が、嫌い。そして」
 刹那、天が喚いた。
「耐えられなかった癖に、人間として存在し続けるオレが、オレは世界で一番嫌い」
 
 ――言葉が、見つからなかった。何だ、その絶望は。知らない。ボクの知っている絶望じゃない。
「オレは、オレの為には無価値なんだ。道具。誰かの役に立つ為の、人間の道具。別に、オレ自身は人間じゃなくたってよかった。でも、生まれは人間だった。そして結局、人間に耐えられなかった。そんなオレに、人間として、自分の為に生きる価値はない。だから、ちゃんと耐えてる人たちが少しでも幸せになれる様に、生きた道具をやってる。誰かの価値になる為の、人間って形の道具をね。それだけだよ」
 ずっと、思っていた。
 人間に期待していないから、相手に満足を与えて終わらせているのだと。
「本当は好きなんて言っちゃいけないんだけど、七雨は一番好きになれたな。オレの事、人間として扱わなかったから。嬉しかった。七雨の隣では、本当に、人間をやらなくてよくなれたから。ただの道具でいられたから」
 ずっと、間違っていた。
 自分に期待していないから、相手の満足するものだけを与え続けていた。
「終わったよ、七雨。埋めよう」
 キャリー・ケイスに手が掛かる。ふざけるな、見たくなんかない。だってそれは、今お前が埋めようとしているのは、お前の――
「……やめろ」
「ごめんね、幾ら七雨の望みでも、オレは人は殺せないよ。だから――」
「もういい! やめろと言っているんだ!」
「……、七雨……」
「頼む、やめてくれ……もう、いいんだ……もう……」
 かすかに、耳鳴りがした。雨の垂線の中を横切る様に、冷たい単調な音が一直線にボクを貫いて、徐々にヴォリュームを増して行く。
「……泣いてるんだね、七雨。ごめん、オレ、失敗しちゃったなぁ……」
 自分が声を上げている事に、気づかなかった。気づいた後も、構わずそうした。
 今ばかりは、雨があってよかったと思う。ボクにとっても……ハルキにとっても。
 
     x x x
 
 この「七雨」と言う名前が忌々しい事に、違いはない。
 帰りの車も、ボクは自分の位置を同じくした。わざわざ助手席に座り直すのも居心地が悪かったし、かと言って、ハルキの姿が見えないのも嫌だった。
「取り乱したな、忘れてくれ」
「うん、大丈夫」
 もしかすると、こいつは本当に忘れるかも知れない。訂正するかを少し悩んで、やめた。代わりに、煩い音楽を掛けさせた。脳髄を刺す様な演奏の中に、端から聴き取らせる気のなさそうな絶叫を交えて、ボクたちの無言を押し隠した。ハルキからも何も喋り掛けないのは、またボクを悟ってみせたのだろう。腹立たしい。
 きっとどこかで、好きになれる人間を探していた。「……ずっと、それを望んでたんだね。本当は」。お前がそう言った時、寧ろボクの方が、本当の望みを見つけた様な気がした。実に安っぽい希望だ。自分で思うが、今更ボクの性根が叩き直せるものか。……精神での繋がりを拒むハルキの性根も、な。筋金入りの自己嫌悪だ。好き、だなんて伝えたら、お前は絶対にはぐらかしてみせる。価値のない自分には、愛する資格も愛される資格もない、と思いながら。お前に残っている、人間の面で。
 部屋のドアーを開けるのに、相当の覚悟が要った。お前の道具の面が用意させた、ボクの為の幸福。……まあ、この部屋の意義や価値なら、後からでもボクの手で歪めてやればいいか。下らない世界、扉の向こうの日常へと、ボクは戻った。
 遅れて入って来たハルキから、荷を奪う。異様な重量を誇った袋の中身は、まるでゴミだった。よくもまあ、演出の為に様々な素材を集めたものだ。
「……えっと、七雨。これ、言うか悩んだんだけど」
「勿体振るな、言え」
「あの場所の新しい土さ、あそこは、何も埋まってない」
「……初めてじゃない、とはそれか……何から何まで小細工を……」
 悔しいが、少し安堵する。これで、ボクたちの淡い夢は覚め切ったと言う訳だ。
「全く、疲れたな」
「そうだね。何か飲む?」
「……アメリカン・ブレンドだ」
「あはは、流石にないなぁ」
「同じものでいい、適当に決めろ」
 ハルキが冷蔵庫へと向かい、ボクは一人先にテイブルに着く。まだ読み終えていなかったのか、本が出したままになっていた。カヴァーをめくる……「砂の女」か。大筋は覚えているのだが――この世界に、大事な雨は降っただろうか。
「……この『七雨』と言う名前、」
「うん、何?」カップを二つ持って、ハルキも席に着く。差し出されたのは薄紅、いつものボトルの紅茶だろう。小さいのをわざわざ分けて注いだらしい。……好き、なんだな。
「ボクはこんな名前をつけられた所為で、『雨の降る日に七回、大きな事が起こる』運命を辿る羽目になったのかもな」
 母が消えた日。本格的に人生を狂わせた、名前の由来を提出した日。
 ハルキと出会った日、一緒に住む事を決めた日、……愚かな二人の犯罪者が、「死体」を埋め損なった日。
「今日でもう五回目なんだ。早いね」
「そうだな。そして、残りのどちらか一回はボクが死ぬ日だろう」
「じゃあ、後一回かぁ。何だろうね、幸せな日だといいけど」
「どちらにせよ、お前の死ぬ日でないのは確かだ」
 呼吸を整える。どれだけ言いたい事があるだろう。そして今言い尽くしたところで、いずれまた、増えて行くに違いない。
「いいか。絶対にボクより先に死ぬな。お前を雨の日の一回にはしない」
 まず、煙草をやめろ。やめられなかったのなら、ボクが管理してやる。
 文学を読むのはいい癖だ、話の種になる。耐えられるテンポで続けろ。
 それから、捕まる様な仕事には就くな。今は違うらしいから、向後だ。
 その紅茶は飽きるまで飲め。そして飽きたら、次の好きなものを探せ。
 
 お前も分かるだろう、ハルキ。ボクたちの上手いやり方が。ボクは分かったんだ。
 もう一度重ねて、絶対にボクより先に死ぬな。
「七雨が、望むなら」
 ――そう、だからこそこうやって、全てを今なら告げられる。


 あなたには「淡い夢を見ていた」で始まり、「今なら告げられる」で終わる物語を書いて欲しいです。
#書き出しと終わり
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