1未満の不自然たちへ(短編・1/2)

 淡い夢を見ていた日は、必ず雨の音で起きた。カーテンを開けない。音のままでいろ。
 ボクにとっての大きな出来事、転換は、雨の降る時をいたく好む。そんな強調など、お芝居の中だけで充分なのに。しとしと、ざあざあ。これ程までにありふれて、しかも厖大な数のものを鍵にされたボクの記憶は簡単に解かれる。もういい、やんでくれ。……これ以上開くペイジはないんだ。どれを読むかは、ボクが勝手に選ぶから。
 鳴る前のアラームを切った。なぜ目覚ましは、心を許せた筈のメロディーさえも倦ませるのだろう。聴きたくない曲が増えた。……ああ、お前も鍵なのか。ボクが戻りたくないこの世界の為の。感傷はボクをすぐ下らなくさせる。着替えを済ませると、ダイニングへ出た。
「あ、おはよう」
 相変わらず、三日月みたいな横顔をしている。常識的な時間、それが朝と呼べる時間だった場合、ハルキはいつもボクより先に居た。……と言うより、未だにこいつの寝姿を想像出来ない。自室に帰っているだけで、三日月は眠りの概念を忘れているんじゃないか。
「……あー、ごめん。おはようって言っちゃった」
「構わない。……おはよう」
 ……ハルキ、お前との出会いもそうだったな。もう幾度も読んだ――繰り返し、繰り返し。
 
     x x x
 
 蝶は、誰かも知らない女子生徒の善意だった。
 土砂降りになったのは夏のバスがスクーリング帰りのボクを乗せてからで、目的のバス停に着いた後も勢いが衰える事はなかった。端的に言って自業自得だ。天気予報はまともに見ないし、家を出る前の空模様だけで判断するのが習慣づいていた。
「えっと、ミタライ君、だっけ?」
「惜しいな……渡会だ」
 ボクが在籍するのは通信制の高校だが、何回かの登校日は設けられている。色合いだけは煉瓦造りみたいな、三階建ての、まともな駐車場すらない小さな学舎。その玄関口で雨を眺めていたボクは、予期せず傘の親切を受けた。性質上、慣れ合いも交遊も少ない環境で、何よりボク自身が他人と関係を一切結ぼうとしなかったから、名前を覚えられているのが――間違えてはいたのだが――奇妙だった。現に彼女を、ボクはまるで関知していない。
「どうして、ボクの事を?」
「気に、なってたんだ。……正直言うとね、綺麗だな、って、思ってたから……」
 理解が及ばなかったし、話題は不愉快な舵を取ろうとしているらしかった。もう忘れたが、適当に名前を尋ね返して、そのまま主導権を握らせない様なやり取りを重ねた。駅まで、彼女の右隣を殆どボクの速さで歩いた。道路脇の階段からペデストリアン・デックへ上がると、屋根のない所為で、横に並ぶ二人が対向の傘を避けるのはいよいよ煩わしくなる。それでボクから――乗る路線や方面を教えたくないのもあり、半ば強引に別れを申し出た。謝辞だけは真剣に述べておいた。体を濡らしたのはその間の十数秒だけだった。
 短い区間で二度乗り継ぎ、最寄り駅からロータリー、バスへ。暫く頭上は守られていた。最後の行程を残すところで再び、立ち往生は余儀なくされる。多少なら割り切ってもよかったのだが、鞄やその中身への被害を嫌った。だから静かに、雨音の休符を待った。その運命は一人だけモデラートのテンポで、楽譜を追い抜いて来たらしい。
「キミ、傘ないの?」
 低く甘やかで後を引く声、折よくコントラバスに似た声だ、と言うのが第一印象だった。目をやるとそれは痩せぎすで髪の長く、実際見上げる様な背丈をした、特徴だけ挙げれば怪談めいた男だったのだが、どこか人に安心感を与えようとするのは、柔和な顔つきでも落ち着いたスマート・カジュアルの装いでもなく、その音色の効果によるところが大きい。だからって、相手をするつもりは一切なかったのだ。
「……ええ、まあ」
「オレのをあげるよ」
「結構です。あなたのがなくなるでしょう? 弱まるのを待ちますので」
「ふーん、そっか。……キミは」思えばなぜ狂騒の中で掻き消されずに、はっきりと聞こえたのだろう。答えを期待しない、独白の温度だった。「雨に濡れる事を、不幸だと思うかな」
「……は?」
「躊躇ってるみたいだからさ。やっぱりあげるよ」
 そう言って笑うと、畳んだ傘をベンチに立て掛けて、豪雨へと堂々歩き出した。ボクにぞくりと来るものがあった。その日受けた二度目の恩義だが、質が全く違っている。まず事実、降水量と行動が違う。しかし事実以上にもっと、明らかな奇異を秘めていた。確かに善行ではあるだろう、なのに善意を微塵も感じさせない。手で雨避けの一つを作ろうともせず、最初から傘など持っていなかったみたいに振舞うハルキは、瞳の奥の、更に奥で笑っていなかった。
「え……待って、っ」
「何?」見立て通りだった。状況に少しも頓着せず足を止めた。
「いや、取り敢えずこちらへ。濡れますから」
「ああ……そうだね。でもオレは雨は不幸だと思わないんだ」
「……傘を差していたじゃないか」
「あはは。それは、キミにあげる為に持って来た傘なんだ」
 ボクはもう、確信していた。
 笑っていないんじゃない。笑えないんだ、こいつは。
「ほら、どうせ濡れちゃってるし」
「……傘、返しに行くので。連絡先か何か、教えて頂けると」
「別にいいよ、あげるんだから」
「そうは言ってもだな……ああ、それじゃあ」内々では焦っていた。手繰り寄せたい一心だった。きっと、最後の機会じゃないか。ボクと同じ、或いはボクよりも低い体熱の、人間に望みを欠いた人間と邂逅するのは。「この傘は貰います。だから交換しませんか、ボクの傘と」
「……キミ、面白いね。いいよ。キミが望むなら」
 口角が上がった。視界と距離が、瞳の奥を読ませてはくれなかった。
 
「んー、ななめ、でいいのかな」
 無事に連絡先を入手し、後日には「傘の交換」も果たした。ハルキ――気怠げな雰囲気だけを別にすれば、喫茶店の似合わない男だ。飾りものにしても、スタチューでは大き過ぎる。
「読み方ですか? それで合っていますが」
「や、呼び方」
「何だって構いませんよ、ボクだと認識出来ればね……」
「じゃあ、七雨」その時点で既に、肌に馴染む感覚をボクは持っていた。「敬語、外しなよ。嫌いでしょ」僅かに強いアクセントが、〈嫌い〉に乗せられていた。
 カップを口へと運んだのは、敢えて一度間を置きたいが為の動作だった。……あれは奇しくも、アメリカン・ブレンドだったな。所詮焙煎の深度だ、まさか産地がテキサスではないだろうが、蝶の羽ばたきはお誂え向きのところに逢着した訳だ。「分かりますか」
「うん。そう言うの、オレにも覚えがあるからね」
「……だが、ボクの言葉は少々乱暴だぞ」
「それでいいよ。嫌なものは減らそう」
 ハルキの言葉は何としても、優しさなどと思えなかった。意味のある始まりだった。
 
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 ボクは人間嫌いだ。切っ掛けはあったが、いつからかは知らない。全てを明確に敵視し始めたのが、いつだったかは。
 三人の父を持つ。一人は母親と元々の婚姻関係にあった誰かで、そしてもう一人は不倫相手だった。どちらの顔もボクは見た事がない。〈実の父〉は早くに消息を絶ち、ボクの生まれる前に離婚した母は暫くシングル・マザーをやってみせた後、再婚した。三人目、今の父だ。その母もやがてボクを押しつけて蒸発した。それがボクの人格、不信の要素を形成する初めの雨の日だった。人生で最も親身だった第三の父、長く生活を共にした全くの他人から完全な経緯を訊き出したのは、ここ数年の話だ。
 小学校二年の二学期、と言う中途半端な転校は、そうした都合によるものだった。活発旺盛な子供になる訳がなく、新しい学級でもボクは当然の様に不和を起こしていた。そして、それを決定的にした宿題もまた、天気の崩れた午後を狙い撃ちにした。
「お父さんやお母さんに、自分の名前の由来を聞いて来ましょう」
 無邪気な若い女教師だった。香水くさく、幼年ながらやたらと目障りに感じて――ボクにも当時の局地的な反発心は説明しがたいのだが、その教師に教わった「友」の書き順はわざと逆らって覚えたくらいだ。分別をしなかった癖は、今も抜けていない。「友」とは「右に倣え」だ、と称すれば、冗談にしても含蓄はあるか。
 内向的とか怖がりとかの段階は既に超えていた。率直に言うならボクはマセガキだったが、方向を歪めた為にその中でも一等酷い子供をやっていた。宿題の件は、父には黙っていた。
「じゃあ最後ね。わたらい、ななめ君」
「はい」ボクの苗字が渡会なのも、大いに助長した事だろう。遠慮なく言い放った。「七雨の由来は、一週間七日、毎日悲しいからです。特に、こんな日があるからです」
 窓の外にあった雨音が、真っ先に教室を占拠した。不気味がられて当然だった。教師は訝しんで狼狽し、同級生からは「ごきげんななめ」などと無垢な悪意で揶揄われた――それもだ、ボクが腹立たしいのは。「ななめ」の語感に「雨」の字の名前。馬鹿が、どんな頭をしていたら考えつくんだ。
 不登校を決めた。こっちから願い下げだった。以降殆どを自宅で過ごし、そうでない時は別室登校か、適応指導教室とやらに行った。後者は比較的自由な場で、トランプや将棋セットなんてものも置いてあったし、屋外のレクリエイションも多かったが、同時に腐るまで煮詰めた様な慣れ合いの誘因だったから、通うのはすぐにやめた。合う訳がない。
 中学も、上がりたての初期を除いてスタイルは変わらなかった。別にいじめなどはない。案の定、嫌気が差しただけだ。父の愛情は反面が怯懦だった。元来の腫れもの扱いに加え、小学校の前例があるお陰で、事情を掘り下げられもせず、不登校生活に戻るのは容易だった。別に訊かれたとして、感じているそのままに顔を顰めてみせればいい。踏み込めなくなる。
 確かに人間嫌いは急加速した様に思うが、始まりかは疑わしい。種が芽吹いたと言うだけだろう。そうしてボクの厭人癖は時が経てば経つ程に肥大化し、突き詰められ、幾つかの性質を併せ持った。やがて自己分析と探究の海で、極めて強い結果を発見した。
 それ以外を無視する訳ではないが、取り分け今のボクは「知能嫌い」だ。
 
「ハルキ。お前、誕生日はいつだ」
 九月四日、最も憎むべき日。ハルキは昼下がりのバルコニーで紫煙を燻らせていた。
 これはボクの私見だが、人間嫌いは根底が何であっても、自分の誕生日を酷く忌む。結果論とは言え、ただでさえ生まれたくなどなかった、そんな自意識を抱えているのに、挙句それを祝われるのだから。
「あー、オレね」だからお前の隣は、居心地がいいんだろう。「覚えてないんだ、誕生日」そしてハルキは尋ね返さない。ああ、満点だよ。ボクの嫌いな知能のなせる忖度と言えばそれまでだが、ボクにしたって知能ゆえの人間嫌いなのだから仕方ない。
 ……いや、違うな。もっと機械的に思う。訊かれた、言いたくない。七雨だって答えなど望んでいない、言わない。そしてきっと七雨も同じだ、訊かない。その一連の計算や推量を、知能でも感情でも濾さず、こいつは反射でやっている節がある。「動かされている」。
 多分、ボク以上だ。人間と言う存在そのものに対して諦めている。相手に何ら期待していないからこそ、満足を与えて終わる。完結させてしまう。だからハルキは、外面だけで判断すれば愛想はよくて優しい。人間嫌いが、真逆に見える。
 マリオネットの様でいて、本当に踊らされているのは、ボクの方か。不愉快ではない。構ったり構われたりを、人間とするよりは、ずっと。
「そうか、悪かったな」
「気にしないでいいよ。必要になるなら、七雨が決めてくれればいい」
「やめておこう。……今日は、何を吸っているんだ?」
「……煙草」
 共に暮らし始めてから三箇月を過ぎた。出発点から数えれば一年と三箇月が経ったと言う事だ。自惚れかも知れないが、ハルキはハルキで気楽になれていると思う。ボクの隣では、人間になりすます必要がないから。煙草、なんて馬鹿げた応答がボクに対しては出来るのだから、それくらいは驕らせてくれ。
 六階、郊外の2DK。各々の部屋から繋がったバルコニー。ボクたちのどちらにも和室は似合わないと感じたが、消去法としてボクが貰った。たまにハルキはボクを苛つかせる。つまりボクが、我慢している様に見えた時だ。
「本当に? 七雨が洋室でもいいよ」
 不満は満足よりも、次の何かを生みやすい。終わらせたいハルキはいつも己を殺す。所詮は人間同士だ、完全には分かり合えないのだろう。お前と居る時のボクは、存分に傍若無人なのだ。我慢の選択など、わざわざ進んでするものか。
「……一口くれ」
「これ、キツイけど」
 そう、ちょうどこんな具合に。「つべこべ言うな。ボクがそうしたいんだ」
「……はい、どうぞ。七雨が望むなら」
 それでいい、ボクが望んだ事なんだ。
 果たしてハルキの忠告は正しかった。しかしボクは約束を破り、丸ごと吸い切ってやった。
 
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 ティシューの空箱に、様々な銘柄を放り込む。ハルキの喫煙はおみくじだ、吉も凶も殊更ないのだが。確かに分かり合えないとは言ったものの、行為に理由すらつけがたい。
 新居に至る前の、元々ハルキが住んでいた部屋には随分通い詰めた。高校よりよっぽどだ。ボクが中学を卒業する直前に父は鉄道関連の仕事に転職し、一日半働いては一日半の休みと言う勤務体制が基本になった。全日制を選ばなかったボクには、父と長時間を同じ空間で過ごすのが苦痛で、自然とその回数は重なった。そうする内だ、妙な癖にはいずれ気づく。
「何だ、それは」
「えっとねぇ……白地に花鳥紋古紙莨箱」珍しい冗談だった。或いは無意味で、尚且つ突き放した印象だからこそ蓄えていた諧謔かも知れない。認めないが、評価はした。
 また、変わり者は意味を失わせたインテリアーを愛蔵した。今の部屋にもある。アロマ・ライト、天球儀、真空管アンプ、手挽きのコーフィー・ミル。いずれも使う為ではない、使われた事のない実用品だった。……天球儀の様に、そもそも実用するかは怪しいとしても。
「趣味なのか? 美術とか、工芸とかが」
「うーん、どうなんだろうね」コレクションは豊富で、状態もよく保たれている割に、熱を上げたと言う訳ではないらしい。「なりたいのかも」
「……まあ、理解の範疇か」
「七雨は? 何か趣味とか持ってるの」
「特筆すべきものはないな。文学作品を嗜む程度だ」
「へー……読んだ事ないや。難しいんでしょ」
「堅くはなる、文章の格調も重要だからな……ただ、ボクが重視するのは内容なんだ。その多くが人間を、自己でも他者でもいいが、抉る程に観察して書かれるだろう? 似た匂いを感じるんだ、作家にも登場人物にも。彼たちが必ずしも、ボクの様にならなかっただけで……」
「……そっか。今日、泊まってく?」
 傷を舐めるのが得意なやつだ。「……そうする」初めてボクが煙を覚えたのは、その日だと記憶している。
 父は――人間としては疑いなく善良で、どうにも気が弱い。こうして増えた度々の泊まりにさえ口を挟まず、寧ろ僅かな安堵があった。一つは、こんなボクにも「友人」の居る事実。もう一つに、自分の管理下から離れてくれる時間だ。負担だろう、お互いに。家族をなすりつけ合わされただけなのだから。ハルキも、何も言わなかった。甘えと言う考えは無視し続けた。その悪果は、ボクの堕落の中で図らずも声になってしまった。
「ここに居られたらいいのにな、ずっと」
 四箇月前の、布団の中。ボクは天井を見ていて、隣にハルキの背中があった。大きな背中。並んで寝る時はそうだった、ハルキはこちらに顔を向けない。
「じゃあ、そうしなよ」
「……聞こえてしまったか。と言うより、眠っていなかったんだな」
 半身を起こす。雨で、目が覚めちゃったんだ。その時点では嘘に違いなかった。降り出したのは、ハルキの嘘を繕おうとする後づけのタイミングだった。
 ハルキも体を反転させて、ボクたちは目が合った。髪が、少しだけ青み掛かっている気がする。男性的でも女性的でもない、ハルキの線は水が持つ色気に近い。
 普段は隠れているが、たまに覗かせる耳から、ピアスは外されていた。縁を幾つもの輪や曲線が貫き、耳朶はおよそ、トゥー・ホールのチェイン型に明け渡す。好きでつけている筈は、決してないと思うのだが。
「さっきのは寝言だ、放っておけ」
「……いい夢だった?」
 声が詰まった。本当には怜悧なのだ、ハルキは。翼さえ広げようとしない、能ある鷹。お前はきっと優秀がゆえに、世界から離脱してしまったのか。ボクは寸時触れて、ああこれは絶望だな、と分かってからすぐに見切りをつけた。一方、より深くに身を浸してみても、結局いつまで待ったって絶望のまま……ハルキの感じは、そんな納得に思えた。
「新しい部屋、探しとくよ。二人で住めるとこ」
「それはそれは、まるで夢の様だな」
 皮肉は、自分を刺したものだった。その日最後の会話になった。
 
 三週間もすると、曰く「ツテ」でハルキは随分と好適な物件を引っ張って来た。別段驚きはしない、虚言なら却って下手なくらいのぶっ飛んだ経験を幾つも聞かされている。なかんずく裏カジノのディーラー、それも「バイト」で月三〇万の収入なんてどうやっても信憑性のないエピソードなのだが、これが大真面目だったのだから、その他の有象無象など最早手に負えない。ちなみにハルキが辞めた途端、強制捜査が入って潰れたとの事だ。笑える。
 後で知ったのだが、ルームシェア形式には契約の面倒があって、況してパートナーとなるボクが一八歳未満なのは足を引っ張るどころではないらしい。ハルキは「見つかったよ」と連絡を寄越しただけで、何も教えなかった。世の中をナメたガキだ、と言う事を。
 互いに準備を終え次第、現在の拠点に移り住んだ。父には――人間嫌いと言えど、ボクだって丸っ切りの恩知らずではないから、丁寧な説明をしておいた。交渉の態、ではない。どちらも分かっていた。偽りを織り交ぜる必要すらもなかった。箇条書き程度の心配と注意とを受けて、躓く様な石は何もなくなった。
 かくして三箇月、ボクはここに住み着いている。スクーリングか買いものでもない限り、時間の大多数をここで過ごしている。そう、一人では何も出来ないまま。ハルキは何も教えないまま。事実だけが狂ったボクを謗り、またボクを狂わせる。狂わせて、進む。進む。


 →後編(2/2)