「今まで見た中で一番の悪夢は?」

そんな問いには答えられても、その逆は答えられないと思う。
吉夢ほど砂糖菓子のようなものは無い。夢の残り香を追いかけて反芻するうちにわからなくなるばかり。

比べて悪夢はと言えば嫌なリアリティのせいか尾を引きそれがずうっと記憶にこびりつく。逆だったら良かったのにと思わんでもない。

私はいまだに、初めて見た明確な悪夢をよく覚えている。

小学一年生の時だ。背中に「日本画」と検索して一番最初に出てくるような画風の女性が憑りつく夢。ポイントとしては背後ではなく、背中なのだ。背中一面に日本画風の女性の顔があり、煙管を吸っていた。それが自分の背中で動く、というのが恐ろしく怖かった。
洗面所の鏡で背中を必死に確認したのは夢だったか現だったか。

中学二年生を超えたあたりから明確に悪夢を見ることが増えた気がする。ストレスかもしれないし違うかもしれない。

ムカデだらけの水槽に肩と足を掴まれて放りこまれる夢を見たときは起きてから布団の中にムカデがいないか気になったし、仕事で苦しんでいるときは仕事をさせられる夢を見たものだ。

されどあの夢には適わない。一番の悪夢をここに書き出しておく。

何十回も夢から覚めたと思ったら夢だった、というのを繰り返していた。夢じゃないと思って当時買ってもらったばかりのスマホを触ろうとしたら夢で、足だけでも床に付かせようとしても夢で。起き上がろうとしたって夢だった。気が遠くなりそうな回数繰り返して、やっと起き上がった後。

まだ怖かった。これも夢ではないのかと疑って枕を持ち上げてみたら、ひっくり返せない。30cmほど持ち上げたところでカクン、と透明な壁にぶつかる感触。
おそろしくなってクローゼットを開けたら、そこには壁しかない。
あまりにもあまりにも怖くって、別室で寝ていた母親のもとへ駆け出した。

母親に必死にすがりついた。眠たげな母親は口を開く。
「それならあんたの隣にいる」
意味が分からなくて左肩を見れば、

半透明の女性が私を見ていた。

そんな夢だ。なにが思春期の記憶に深々と刻まれているかと言えば、やはり記憶に刻み込まれているからか無駄にリアリティのある母親に縋って、絶対安心できると思っていた場所から突き落とされた感覚が大きいのだろう。

創作においてもきっとそれは同じなんだろうな、と思う。絶対に安心できる基盤が無ければ落とされた時によりどころがなくなり不安に感じるのだろう。

あなたの見た、一番の悪夢は何ですか?

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