今年は株価上昇でも来年一時急落すると見るワケ

当方の見通しは「日米など主要国の株価については、年内は極めて緩やかな上昇で、来年は一度大きく下振れする」というものだ。また、来年の下振れ見通しについては、ずっと株価が下がり続けると予想しているわけではなく、「一度ドカンと下落する」というイメージであって、向こう数年単位では、株価の上昇基調を見込んでいる。したがって、来年「下がれば買い」でよいと思う。

背景要因とともに、そうした結論について説明する。まず今年内の緩やかな株価上昇について「株価がどちらかといえば上がると見込む」のは、新型コロナウイルス変異株の流行に対する懸念が継続しても、世界経済と企業収益が「持ち直し」を続けていることが大きい。

アメリカの雇用については、雇用者数の回復は遅いが、今年7月時点の雇用者の総所得はコロナ禍前のピーク(2020年2月)を4%ほど上回っている。経済規模が最大の国であるアメリカの、最大の需要項目である個人消費が、家計の所得増によって支えられると期待できるわけだ。これは、大きな株価の下支え要因だ。

こうした同国のマクロ経済の回復基調により、S&P500指数採用企業の先行き1年間の1株当たり利益予想値は、前年比42%増と大幅な増益が見込まれている(同国のファクトセット社集計によるアナリスト予想平均値)。

日本も世界経済回復の恩恵を受けており、とくに大企業製造業は、日本が得意とする設備機械やそれを支える機械部品・電子部品の輸出が増加している。そのため、製造業中心の企業収益の回復が見込まれており、東証1部全銘柄について上記と同様の集計値を見ると45%増益が予想されている。

このため、日米ともに年末に向けて株価上昇を見込んではいるわけだが、その上昇力は限定的だろう。というのは、世界経済と企業収益の回復はすでに市場で相当織り込まれているからだ。とくにアメリカ株のPER(株価収益率)の水準自体は高い。

ニューヨーク(NY)ダウ工業株指数の年内高値は3万7000ドルで想定している。これは先週末終値から5%弱高い水準にすぎない。

日経平均株価については、年内に3万円の大台を超えると予想している。ただ高値メドを3万1000円には置いてはいるものの、今年の高値(ザラ場ベースで2月16日の3万0714円)に達することができるかどうかは、かなり微妙な情勢だ。仮にそれを上抜けて3万1000円に達することができたとしても、それは先週末の水準から1割強高いだけだ。

とくに日本株については、10月辺りまでは上昇というより横ばいに近い展開に陥りかねない。ただ、その後は若干ながら、横ばいより上昇の度合いが強まろう。

というのは、まず日本特有のリスクとして、政治情勢が挙げられる。足元は、とくに菅義偉政権の経済政策に期待して株価が支えられているという状況ではない。逆にいえば、もし菅首相が交代したとしても、株価が下落することもないだろう。実際、8月22日の横浜市長選挙で菅首相が支持する候補が敗れても、翌日の日本株は上昇した。

それでも、9月29日の自民党総裁選挙、その後と見込まれる総選挙(10月投開票か)が終わるまでは、結果が出ていない分だけ不透明で、日本株を大きく買い上げる材料にはならない(衆議院議員の任期満了選挙か、それとも9月解散か、仮に9月解散の場合、総裁選の延期はないかなど、スケジュール自体もある程度不透明だ)。

このため、逆に選挙がすべて終われば、結果がどうあれ、不透明ではなくなる。したがって、国内外の投資家が日本株の売買について判断がしやすくなり、株価の持ち上がり度合いが若干でも増すと想定される。

また、前述のように日本の企業収益見通しはかなり明るくなっているが、まだ投資家は疑心暗鬼のようだ。4~6月期の企業収益が7~8月に発表され、自社の収益見通しを大きく上方修正した企業などは株価が直後に上昇したが、その勢いが長続きしなかった銘柄が多かった印象だ。しかし、さすがに4~9月期の半年分の業績が10~11月に公表されて、収益改善が一段と如実に示されれば、日本株全般に上昇力が強まりそうだ。

こうした点から、10月初め辺りでも日経平均は2万8000円を何とか超えた程度の青息吐息かもしれないが、その後は年末に向けて3万円超えを目指すと見込んでいるわけだ。

もちろん、株価の上昇力が予想より限定的で、「年末の日経平均の水準は今よりは高いが3万円に届かない」という可能性も、残念ながら高まっているように感じられる。ただ、今のところメインシナリオとしては「3万円超え」を変えていない。

これまで当コラムで何度か述べたように、日本株の投資家にとって年内で最も重要なのは「買い持ちしてじっと待つ」という忍耐だろう。個別銘柄では株価が大きく上下するものが多くあろうが、全体論としては、買いから入って大儲けをするのは難しく、売りから入って儲けることはさらに難しい。

さて、ここで主な世界的リスクを2つほど挙げ、それが前述のような来年の主要国の株価下振れシナリオと関係しているのかどうかを、述べてみたい。

1つ目は、アメリカの金融政策だ。7月に開催されたFOMC(連邦公開市場委員会)の議事要旨が8月18日に公表され、「年内にもテーパリング(緩和縮小)を開始することが妥当」との意見が多数であったことが判明した。

この日の同国の株価指数は反落したが、アメリカ国債やドル相場はほぼ無風だった。実はこの前から、市場参加者や専門家の間で「年内のテーパリング開始」を見込んでいた向きは多く、議事要旨がサプライズであったはずはない。

実際に何が起こって株価が下落したかといえば、もともと同国の株価指数がたびたび史上最高値を更新して高値警戒感があり、いったん利食い売りしたい投資家が多かったところ、議事要旨が単なる売りの「ネタ」にされた、ということなのだろう。

その後に株価が持ち直したことや、8月27日のジャクソンホール会合におけるジェローム・パウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長の講演で市場が波乱に見舞われなかったことは、そうした見解を裏付けているといえる。

したがって、市場は年内のテーパリング開始を織り込んでおり、連銀によるテーパリングスケジュールの公表(筆者は、おそらく11月のFOMCで、12月から開始する旨を発表すると予想)があっても、それで市場が揺れることにはなるまい。

しかしテーパリングについて、別のリスクがある。それは、実際に量的緩和を絞り始めると、これまで金融緩和の環境に堕してきた企業や投資家に動揺が広がり、それが経済や株式・債券市場などに大きな波乱を生じる、ということだ。

それは今年ではなく、テーパリングが一段と進む来年のリスクだろう。この点を詳細に述べる必要があるのはまだ少し先なので、当コラムでは今年のどこかで詳しく解説しよう。

2つ目は「中国リスク」だ。括弧をつけて述べているのは、中国に関するさまざまなリスク、例えば同国の景気減速や株価下落への懸念、米中間の対立(人権問題や安全保障面)の激化、中国政府による突然の産業規制、同国企業のアメリカ上場に対する制限などなどだ。このリスクは過去の当コラムでかなり述べたので、繰り返しは避ける。

ただ、来年2月の北京冬季オリンピックを多くの国が参加する形で成功させたいと、今の中国政府は考えているだろう。とすれば、その前に中国から過激な行動には踏み出しにくいと見込む。

逆にいえば、そのあとは何が起こるか予想しがたい。この点で、「中国リスク」は短期も中期も長期もリスクであり続けると懸念するものの、今年以上に来年は警戒すべき展開となりうる。

こうして、今年より来年のほうが、2つのリスクが世界市場に大きくのしかかるとすれば、日米など主要国の株価は、来年は一時的に下振れしよう。NYダウ工業株指数は3万ドルに、日経平均は2万5000円に下押しするとの予想値を立てているが、これは単なるメドにすぎない。

それでも、それらの下値メドは、今年の上値メド(NYダウ工業株が3万7000ドル、日経平均が3万円超)から、せいぜい2割程度の反落にすぎず、よくある株価の下振れであって、うろたえるようなものではない。不幸にして筆者の見通しが的中し、述べたような株価の下押しがあれば、そこでは買いでよいだろう。

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