のっぺらぼう

それは私が小学校低学年ぐらいの頃、
夏と秋のあいだ、
やけに寒くて暗い日の話。

私は一人、
当時借りてた家で、
母の帰りを待っていた。

その家は、平屋で、
二間しか部屋がなく、
手前は居間、
奥の部屋は寝室に使っていた。

家族構成は、義父、母、私、
弟の四人で、義父は仕事、
母は、女友達と出かけていて、
弟は、喘息がひどく、
長い事、
遠くの施設に預けられていて、
その時私は家に一人で、
留守番をしていた。

居間で、電気をつけ、
テレビはつけず、
分厚い漫画雑誌を読んだり、
寝転がって枕にしたり、
だらだらと過ごしていた。

なんとなく、後ろを振り返った。
すぐそばで、
自分よりひとつ年上ぐらいの、
少年が立っていた。

その少年には、顔がなかった。
そして、すぐに、
消えてしまった。

私は、
巨大な恐怖に襲われたが、
なんとなく、
“あわててはいけない”と思い、
そうっと立って、
玄関に向かった。

障子が閉まっていて、
そこを開けたら、
また何かおそろしいものが現れるのではないかとも思ったが、
ためらっているヒマはなかった。

障子を開けて、左側に、
寒々しい玄関があった。

私はゆっくり足をおろして、
靴を履いた。
靴の中にきちんとかかとを入れるのが、ひどくもどかしかった。

ドアを開けて外に出た。
外は昼間なのに暗くて寒くて、
いつもは子供が集まる、
斜向かいの駄菓子屋も、
シャッターが閉まっていた。

私は、駄菓子屋の前の、
二段しかない石段に、
立ったり座ったりしながら、
母の帰りを待った…

ずいぶん経ってから、
母は、女友達の運転で、
助手席に座り、車の窓を開けて、
「こんな所でどうしたの?」と、
声をかけてきた。
私は、話す気力もなかった…

その後も、私たち家族は、
その貸家に住んだが、
それっきり、
顔のない少年は現れず、
しばらくして、
近所の家に引っ越した。

そして、母の聞いた噂では、
その後入った家族のお父さんが、玄関で、
顔のない少年を見たという…

私が見た少年がなんだったのか、
私は知らない。

ただ、私には、顔のない、
一瞬だけ現れたその少年が、
どこにいても、何も主張できず、
いつもひとりで、
その辺をうろついている、
臆病な自分と重なって思えて、
仕方がなかった。

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