建築物と人の”あいだ”にあるもの。kudan houseで生まれる物語 <前編>【旅先案内人vol.11】
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建築物と人の”あいだ”にあるもの。kudan houseで生まれる物語 <前編>【旅先案内人vol.11】

普段、私たちの運営施設をご利用くださっているお客様を対象に、私たちの宿に関わる人々に焦点をあてたニュースレター、「旅先案内人」をお届けしています。

noteではバックナンバーを掲載しています。ここからは【8月9日 配信 旅先案内人 vol.11】の内容をご覧ください。
(温故知新 運営ホテル:瀬戸内リトリート青凪・壱岐リトリート海里村上・箱根リトリートföre &villa 1/f 等)

時を重ねた空間には、おおらかで、自然体な空気が流れる。

古いものの中に身を置くと、決して一朝一夕では纏うことができないであろう、居心地の良さを感じます。その度に、この言葉にできない心地良さの正体に、想いを馳せずにはいられません。

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東京・九段にある国の登録有形文化財「旧山口萬吉邸」をリノベーションした会員制ビジネスサロン「kudan house」。東京タワーなどの構造設計者としても知られる内藤多仲らが手がけています。戦中戦後の混乱の世を生き抜き、当時とほぼ変わらぬ姿で街を見守ってきたこの場所。歴史と現在が交差するタイムレスなデザインは、確かな風格の中に、くつろぎを感じさせる空間です。

そんなkudan houseでは現在、建築家・石上純也氏のインスタレーション『木陰雲』が、邸宅の庭に展示され、期間中の約2ヶ月間、夏期限定のレストラン『maison owl PROLOGUE(メゾンアウル・プロローグ)』がスタートしました。

石上純也 作品「木陰雲」 (3)

『maison owl』は、2021年秋に開業を控える、山口県宇部市の石上純也設計 洞窟のようなレストランです。この夏は、舞台を東京に移し、庭園に広がる作品を眺めながら、1日3組限定でディナーを楽しんでいただけるレストランを期間限定でオープン。kudan houseのオーナー、建築家、シェフ、それぞれが、積み重ねてきた時に耳を傾けながら、新しい場が立ち上がりつつあります。

「古いけれど、新しい。」

kudan houseに足を踏み入れると、不思議な感覚に襲われます。昔からそこにあった重厚感と、現代的な美意識とが折り重なり、新しい空間に調和をもたらしています。

今回の旅先案内人では、kudan houseの事業会社の一社である東邦レオ株式会社および運営を行う、株式会社NI-WAの代表取締役社長、吉川稔さんへのインタビューをお届けします。

kudan houseのリノベーションの視点、場作りの流儀、おおらかな空間の正体についてお聞きしました。株式会社NI-WAの吉川社長、maison owl オーナーシェフ平田、株式会社温故知新代表の松山社長、3名での対談の様子を、前編・後編2回に分けてお伝えします。

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(左から:株式会社温故知新代表の松山社長、株式会社NI-WA吉川稔社長、maison owl オーナーシェフ平田)※撮影時のみマスクをはずしております。

空間の「再解釈」。kudan houseのリノベーションの視点。

松山:九段ハウスにはじめて訪れた時、当時女中さんを呼ぶために使っていた”呼び鈴”や、地下に当時のボイラーがそのまま残っているのを見て、ぐっとくるものがありました。私たちも古い場所の改装をやっているので。単純な洋館のリノベーションではなく、少年っぽさというか、古いものに対するリスペクトというか、ワクワクする思いをそのまま伝えられていますよね。これは吉川さんがディレクションされたのでしょうか?

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(当時のまま残る呼び鈴)

吉川:そうです。ただ、自分で設計ができるわけではないので、『この洋館ができた当時に戻してね』というコンセプトをシンプルに伝えました。ただし、単に復元をするのではありません。100年近く前にこの洋館を作った人たちが、この空間、場をつくるために意図したことは何か?そして、現代の技術を用いてその本質の部分を再現するとしたらどうなるか? ということを考えながらの作業でした。

松山:古いものをそのまま受け継ぐのではなく、再解釈し捉え直した上で、作り上げる。それがkudan houseで感じる遊び心や、リスペクトに繋がっているように感じます。

人の営みを引き立てる余白と、制約が生んだクリエイティブ。

吉川:例えば、プログラムを開催するときに、建物ではなく『考えたこと』が目立つようにしたかったんです。あくまでも土台を作っているイメージで少し物足らないというか。むしろ、ここで何かをやりたい、演出をしたいと思った人が、この空間を使うと「いいな」と感じる。プログラムなどを運営する側になったとき、「なんでこれがここに置かれてしまっているのか、いらないものつけないでよ」とがっかりする時ってあるんですよね。空間自体が、主張しすぎてしまう。とはいえ、ギャラリーのようにしてしまうと余白がありすぎて、それはそれでよくない。

平田:ほど良さが大切なんですね。実際にkudan houseは、”抜け感”がすごくありますよね。あえて完成させないように仕向けている。

松山:完成しすぎてない、押し付けがましくないですよね。

吉川:はい、わかる人ほど、”足らないと感じる”と言われます。でも実は、計画的にやっているのではなくて、多分、制約がある方がクリエイティブになると思うんです。これがなんでもできる状態だとイマイチになってしまう。あと僕は、引き算するのが好きなんです。いらないものを考えてスパンと抜く。あとは未完成でも良い。妥協ではなく、余白の部分もかなり作ります。余白もただ抜くのではなくて、こうしたいというイメージを持ちながら、邪魔なものは限りなく抜きました。

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大切なものは、人とモノの”あいだ”にある。

吉川:実は、会社を代表する人はいなくていいと思っているんです。僕は、会社の社長ではあるけれど、kudan houseであれば、使う側の代表・お客様代表としてやっています。オーケストラに近い感覚です。指揮者ってある楽団の指揮者になると、今いるメンバーで最高の演奏がしたくなってしまう。しかし、ずっと一緒の楽団でやっていると化学反応が起きないので、渡り歩いていく。そう思うと、建築家も指揮者に似ていますよね。ある種奇才な指揮者が来ると演奏する側のバトルがあったりして大変なこともあるけれど、色々なものが引き出されて、オーディエンスと一体化した状態が作れたら大成功です。そしてそれは、お客さんが入った状態でないと作り出せないものですよね。

だから今回の石上さんの作品「木陰雲」をみても、ここにいる人の風景が大事なんだなと感じました。主役は人であり、人が”心地いい感じ”を作るために工事をしている。それは僕がkudan houseに作った日本庭園の時とも同じで、空間は人の存在の脇役でしかない。だから引き算がないといけないんです。

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kudan houseを作るときに言ってたのは、壁とか床とかはどうでもよくてこの空間をどう作るのかが重要だと。でもそこは表裏一体なので、壁や高さをどうするとか、灯りをどうするとかは必要なのですが。どうしても壁やものを作っていると、そっちの方に目がいきがちですよね。

例えばレストランであれば、出てきた料理が重要なのではなくて、風景や場の空気がいいとか、楽しかったというのが大事ですよね。アートもそうです。そこに飾ってあるアートが大事なのではなくて、そのアートと自分の”あいだにある創造物”が大事なのであって、ほとんどが脇役で自分も脇役。大切なものは”あいだ”にある空気なんです。

だから石上さんは建築物と人の”あいだ”に価値が存在してて、それを演出できる人なんだって思ったので面白いと思いました。

平田:本当にそう思います。押し付けがましい空間に行った時の窮屈さや居心地の悪さの正体がわかった気がします。

吉川:多分、空気が小さいとか、狭いんじゃないでしょうか。そこに自由度がない。かといって単に”自由”なだけだと、作られてない空間なので、そこにはきちんと創造物がないといけない。kudan houseの昔のままのボイラーには価値がなくて、あの空気感が大事なんです。

平田:松山さんがあのボイラーに、何かを感じたことに意味があるんですね。

吉川:そうなんです。ボイラーによって、そこの”あいだ”にあるものを感じていただく。それを感じていただけると作り手として、僕は嬉しいです。

平田:その”あいだ”のデザインは、すごく難しいように思います。

吉川:だからこそ僕は、作れないので見る側に徹するんです。だって、作る側になってしまったら、ものに凝ってしまって作りたい”あいだ”のものが作れない。この”あいだ”を作ろうとすると、見る側にならないといけないと思っています。

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(前編終わり)
こちらの対談の続き(後編)は、8月19日配信の旅先案内人でお届けします。

<プロフィール>

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吉川 稔(よしかわ・みのる)
株式会社 NI-WA/東邦レオ株式会社 代表取締役社長

1965年10月 大阪生まれ。89年 神戸大学農学部卒業、住友信託銀行に入行。2001年 株式会社リステアホールディングス 取締役副社長。 バレンシアガジャパン取締役。 株式会社リステアインベストメント(ゴールドマンサックスとJV) 代表取締役。10年 クール・ジャパン官民有識者会議委員。14年カフェ・カンパニー株式会社 取締役副社長。16年7月 株式会社NI-WA創立 代表取締役社長に就任、現職。 16年11月 東邦レオ株式会社 代表取締役社長に就任、現職。

レストラン「maison owl PROLOGUE」概要

maison owl PROLOGUE (メゾンアウル・プロローグ)
住所 :kudan house 1階(東京都千代田区九段北1丁目15-9)
期間 :2021年7月1日(木)~9月5日(日)
営業時間 :17:00~20:00 ※政府や自治体からの要請で変更する場合がございます 
定休日 :月曜日
料金 :コース一人24,000円(消費税込、サービス料別途)
予約・問合せ:080-9455-5399(12時~16時)  ※電話のみ受付、事前予約制
maison owl 公式サイト: http://maison-owl.com/

kudan house

公式サイト:https://kudan.house/


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ありがとうございます!いつか宿でお会いできると嬉しいです。
瀬戸内リトリート青凪等の宿を手掛ける、ホテルプロデュースの温故知新です。 「目的地になる宿づくり」を目指し取り組んでいる事や、地域・ホテルの魅力・企画などの情報を発信中。 (運営:瀬戸内リトリート青凪・壱岐リトリート海里村上・箱根リトリート före&villa 1/f 等)