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晩秋と冬凪

海辺を歩いていて なんの不安もないことに気づく
以前は堤防沿いを歩くだけであんなに不安だったのに

穂を揺らす芒が日をふくんで光の林になっている
目に映るのは穏やかであたたかな光景だ

世界がわたしを受け入れている気がする
自分、自分だったところから ようやく世界に手が届きはじめている

それはひとえに自然に触れてきたから
森を歩いた。海辺を歩いた。百本の桜に囲まれた広大な野原を歩いた。感じたことをそのままに歌にした。

誰にも私を救えないだろう。
でもみんな「救われてくれ」と願っている気がする
わたしは今出て行きたい衝動に駆られている
外へ出て行きたい

5人の男女の若者が波打ち際で遊んでいるのを見ると胸がきゅんとして痛くなる。
今のわたしには望めない経験だから
いつかあんな風にぴょんぴょん跳ねて感動して泣いている私が見える
未来のわたしはいつも笑っている

日が暖かいせいかあたたかい気持ちになった

わたしの住む街は西近くに山が連なっていて四時を過ぎると陽が山の端にかかってしまう。日が陰ると穏やかな風も一気にひんやりする。体が冷えるかと思ったら、体の芯にあたたかさを感じていた。怯えて冷えきっていた体の中に陽が灯る。

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結局、堤防沿いの二キロを往復した。
ノラジョーンズの Moon Song ただ一曲を聴いて歩く。
歩き足りないような、生き足りないような気がしてもう少し歩く。
上弦の月はおとといから少しずつ膨れてきた



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