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他人に触れられない





いつからか、人の体温が恐ろしい。


小学生の頃、泣いている友人を慰めるクラスメイトたちが、肩を抱いたり手を握っているところを、わたしはいつも遠くで見ていた。
同級生の中にはよく手を繋いだり腕を絡めたりしている子たちがいて、周りはその子らを「仲良しだね」なんて笑っていた。わたしはその時“肉体の接触”が愛情の表現なんだと知った。
だから友人に腕を絡められたときも、「あなたに触れたい」と言われたときも、興味本位で作った恋人に抱きしめられたときも、わたしは「この人は愛情表現をしたいんだ」とちゃんと理解できた。


けれど、本当の意味で上記の「触れ合い」を理解できた、と感じたことは未だないように思う。
抱きしめられたことによって「愛情」という目に見えない何かを受け取った覚えは一度もないし、感じたのは体温と匂いと服の素材くらいだった。
抱き締めるだけの行為で「満たされる」とか「落ち着く」とか聞くけど、あれって本当にみんな何かを感じ取ってるのだろうか。共通認識として“ハグは愛情表現”と知っているからそう感じるだけのことじゃないのか、不思議に思う。
仮に、わたしに“受信する才能”がないと表現するなら、おそらく送信のほうもバッチリ用意がない。
生まれてこのかた、人間を見て抱きしめたい・手を繋ぎたい・触れたいと感じた覚えは一度もない。(動物には感じた事がある)
そのため、「愛しくて触れたい」という言葉の意味は知っているけど、理解は出来ないため「そうですか」としか答えようがない。そのほか身体接触による細かな機微が分からないので、雑に〈性欲〉カテゴリに振り分けて自分に向けられた欲望にゲンナリしてしまうこともある。




他人に触れられない 
けど愛してないわけじゃない


上記だけなら正直、直接的に困ることもない。
多少のストレスはあれど、実感が無いままでも形だけなぞってそれらしき行動をすることは可能だから。


なによりも困ってるのは、わたしが他人との接触の際にすこーしばかりの不快感(不安感?)を感じてしまうこと。
タイミングや体調もあるけど、軽い握手程度の接触なら出来る。大丈夫。(でもやらなくていいならやらない)
肩が触れ合うのは少し苦手。人とくっついて座るのもあまり好きではない。
パーソナルスペースの問題かな、とも思うんだけど、学生時代に感じた背筋を駆け抜ける悪寒が忘れられずにいる。男性で体に触れてくる友人はいなかったけど、女性は特に友人同士で腕を組んだり手を繋いだりすることが多かったから。
腕に手を回された時も手首を包まれた時も指をからめられた時も、正直心の中では叫び出しそうだった。鳥肌が立ち、思わず振り払いそうになる腕を必死で抑えながら、心を殺して耐えていた。(その後当たり障りない仕草で距離を取り、虫唾の走る腕を隠れて掻き毟った。)
人に触れらることが不快だって言うと「親しくない人だからだよ、好きな人なら触れたいと思うよ」とかアドバイスされるだろうけど、こちとらアロマンティックで恋愛いたしませんし、一番親しい友人や親族に手握られても不快でしたのでそこは問題じゃない。(家族には感謝してるし関係良好)
わたしは皮膚と皮膚の接触が苦手だった。


自分のこと大好きだけど、これに関しては流石になんでこんなふうなんだろうって思っちゃう。
恋愛をしないことや性愛対象がいないこととか、人と違うことは大変だけど別に困らない。その分好きなことできたり、自由だと思ってるから。

でも他人に触れられないことって、メリットがなにもない上に社会的な立場が本当にない。敵が多すぎる。
フリーハグやらカップルやら、人と物理的に触れ合うことが愛情の表現だと誰もが信じて疑わない世の中で、「触れることの出来ない」人間なんているはず無い、みたいに思われてる気がしちゃう。(Aセクとちょっと近い環境かも)

まあ、Aセクやスキゾイドと違って、実際同じ悩みの人誰にも会ったことないんだけどね。誰にも告白したことないからかもしれないけど。これは身近な友人や家族にこそまったく相談できないという孤独。
親しくしてくれる人に「あなたに触られるのが不快だから触らないで」「近寄らないで」なんてどんな言い方でも言えないじゃない。


あと、普通に苦しい。自分のことを好いてくれる友人や、慰めてくれる人の優しさからくる行動を「不快」に感じてしまう自分が1番苦しい。
わたしの気持ちが落ち込んでるときに優しさで抱きしめてくれた友人を、心の底から悍ましく思った自分が大嫌い。「離れて」なんてもちろん言えないし「今まで気持ち悪かったです」なんて思わせたくない。気持ち悪いと思ってしまうわたしが悪いだけから。
(愛情は恐ろしい。人に与えられたとき、それを返さないでいるとなぜか悪いことをしているような気持ちになってしまう。悪意には無視か反撃が出来るけど、愛情は無視した時点でこちらが悪者。だからわたしは無碍にできない無償の愛が最も恐ろしい。)


なんか、スキゾイドパーソナリティのときも思ったけど、「世の中で良しとされる愛情表現方法」と同じことができないだけで薄情者みたいに思われるのしんどくね??嫌いなわけじゃないのに、明らかにペースと表現方法が合わないんだよなあ……。ハリネズミのジレンマ?シザーマン?
手を繋いだり抱き合ったりすることが何よりも良い事みたいに言われてるけど、こっちからするとコンクリート触ってたほうが心が落ち着くのよ。「手作りのぬくもり」ってなんなんだい 人のぬくもりが怖いんだよ



自分や他人が「生きてる」ことが恐ろしい


気を取り直して。
そもそもなぜ接触が苦手なのか考えてみたところ、思い当たるのは「内臓や骨を感じる」「生きてると実感する」ことに対する不快感。(自他ともに)

変な話だけど、小さい頃から肘の先端の感覚が苦手だった。頬杖ついた時にテーブルと肘の骨の先端の間ですり潰される皮膚と筋(?)の感触が気になっちゃっていてもたってもいられなくなる。他にも膝立ちした時に床と皿の骨の間にある表皮、硬い椅子に座ったときの坐骨と椅子の間の肉…。
ふいに自分の身体を構成する肉とか液体の存在を意識すると、居心地悪くて寒気がしてどんな姿勢でいたらいいのか分からなくなることがよく有る。
だから、他人と触れ合った時にもそんな状態になって寒気がするんじゃないかと思う。

触れ合いによる不快感のひとつの原因が上記の「自分の肉体そのものに感じる違和感」だとして、もうひとつ「他人が生きていることに対する恐怖」がある気がする。


今更なにを言ってんだってくらい当たり前の事実なんですけどね。生きてるの。

前にちょっと触れたスキゾイドパーソナリティ、特徴のひとつに共感性の高さがあって、他人の強い感情を受けると自分が飲み込まれる(内部から破壊される)恐怖を感じるらしい。 で、それを防ぐために常に心の防御壁がある。
この防御方法の話で、昔読んだ本で「石化」っていう言葉が自分の中でしっくりきて。
自分以外の全ての人間に感情があることを常に理解していて、それらによる飲み込まれ不安に日々悩まされている、だからメデューサの瞳で見つめるように相手を命のない石にしてしまう。(そう思い込む。)石になった相手はもうわたしを飲み込もうとはしない。
必要以上に相手に共感せず、苦しみも悲しみも余分に受け取らない、穏やかな交流を行うため、目の前の生きた人間を生きていないことにする。

そんな自己暗示の空想世界を通して交流してたはずなのに、ふと相手の身体に触れて体温や肉体を感じた時、まさに「うわ!石なのに生きてる!」ってビックリするんじゃないだろうか。逆・不気味の谷現象。
自己分析では不快感の原因はこれが一番有力。


そう考えると辻褄の合うポイントもたくさんあって、

・ごく稀にいる触れてもなんとも無い人間の特徴
(やや乾燥肌、身体の平らな面が大きい(広い)、顔立ちがシンプル、無欲そうな人)
主観的な意見だけど、たぶん毛穴とか皮膚感をあまり感じさせない人が多かった。男性プロレスラーのマット肌みたいな…言い方悪いけど河原の石みたいなサラッとした肌の…(失礼)(ごめんなさい)
・柔らかい生き物がめちゃくちゃ苦手(カエルナメクジイモ虫小さいトカゲなど)。触ると内臓の感触がすごいするから。生きてる感すごいから。
・人肌より無機物の方が触れてて落ち着く。


結局心の交流に恐怖を感じてるんですかね…
笑っちゃうくらい弱いな自分…
内破と飲み込まれ不安…




考えてみたけど、生きてる他人を恐れないってのが自分にできる気がしないんだよな。
根本的に、個人と個人がどれだけ親しくなったとしても別個体だから結局分かり合えない(完全に他者を理解することは不可能)ものだと思ってるし。
どれだけ一緒に時間を過ごしても、他人は他人。それぞれが持つ心なんていう曖昧で目に見えないものによって行動する、何考えてるか分からない生物。社会はそんな実態不明な人間だらけの場所。
そんな考えを変えない限り、この問題は解決できないのかな。

石化されてない生きてる他人と真っ正面からぶつかれるメンタル、…実は心弱いもんなぁ自分…。



せめて他人に触れられることくらい解消したいのに


「恋愛も同居もする予定ないなら、治さなくていいじゃん」ってわたしの中の第八使徒が囁くのですが、確かにすぐ困ることはありません。
大人になればみんなパーソナルスペースの理解があるし、手を繋ぐことなんて介護補助か子ども預かる時くらいしかないし。自分から触れなければ、滅多にない。
でも、わたしだって何も考えずに誰かの手を握ってみたい。ハグしてみたい。会えなくなる前に、後悔する前に、彼らの方法で愛情を伝えてみたい。
負い目を感じずに、対等な愛情をなんの迷いもなく返したい。

でもそれが恐ろしい。


なーんか根深そうだ。





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