令和4年 司法試験 知財 特許法

第1 総合
 特許法に関しては難,著作権法に関しては通常(やや難)
 という印象を受けました。久しぶりに司法試験の問題文をみて解いてみましたが,(受験生的に)難しいという印象を受けました。近年は実務的に話題になった(近時5年周辺)を基礎に,基本的学識を出題するというのが,基本的な出題のスタイルの印象を受けました。司法試験はあくまで多くの論点が含まれる中,全体的な答案筋が重要になるので,あくまで1つの答案筋ということでご覧いただければと思います。すべて解答できなくても合格点に達すること,裁量点も多いことはご留意いただきたいと思います。

第2 特許法(配点50点)
 ざっと見た印象としてはモデル裁判例としては「旨み成分と栄養成分を保持した無洗米」事件(平成29年(行ケ)第10083号)を想起しました。但し侵害訴訟ではなく審決取消訴訟であることから知っていても直接的に援用できないことや,受験生で知っている方は少ないと思われますので,精神的にはしんどい問題かなと思いました。問1は知識問題,問3,4も比較的解きやすい問題かとは思います。他方問2は問われていることがやや難しい部類になるかとは思いますので,そこまでできていなくてもいいかなという印象です。

 玄米,白米の構造や,無洗米といった言葉から,街中や地方に存在する精米機を想起し,イメージすると取組みやすい事例かとは思います。

問1 具体的行為態様に関する点(配点予想8点)
 (1)は104条の2を指摘し,条文記載にあるように,「特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、特許権者又は専用実施権者が侵害の行為を組成したものとして主張する物又は方法の具体的態様を否認するときは、相手方は、自己の行為の具体的態様を明らかにしなければならない。ただし、相手方において明らかにすることができない相当の理由があるときは、この限りでない。」
 とあるので,このことを指摘し,具体的行為態様を提示する義務に反していることを簡潔に述べればよいと思われます。Y商品は販売されている商品の解析ですので,後段が考慮されないことも(2)との比較で記載しておいても良いとは思います。

 (2)は(1)との違いを意識すると,工程に関し何ら反論しない点です。YからするとYの工程(製造方法)は何も教えたくないので,構造は認否したとしても,工程までは何も記載しないとするのが,被告代理人としては正しいかとは思われます。営業秘密にあたり,釈明を通じて被告へ主張させて,更に被告から閲覧制限の申立てを義務付けられるという解釈は不合理だなとなります。またそれを許すと濫訴にもつながりかねません。
 この膠着状態を改善するため近年の特許法改正においてとある制度が導入されました。査証制度の申立て(特許法105条の2以下)を指摘できそうです。査証人がYの工場までいき,それを裁判所に報告することになります。査証人の報告という証拠書類によって,相違点が明確になり審理を進めることができ,Yが査証人を拒むと主張が擬制されます(第百五条の二の五参照)。要件としては,「特許権又は専用実施権を相手方が侵害したことを疑うに足りる相当な理由があると認められ、かつ、申立人が自ら又は他の手段によつては、当該証拠の収集を行うことができないと見込まれるときは、相手方の意見を聴いて、査証人に対し、査証を命ずることができる。ただし、当該証拠の収集に要すべき時間又は査証を受けるべき当事者の負担が不相当なものとなることその他の事情により、相当でないと認めるときは、この限りでない」,特許権B充足論との関連,解析は終わったものの工程へ接触することができないこと,工場であれば査証人が向かえばそれほど負担,時間はかからないことを指摘し記載することになるかと考えられます。なお,秘密保持命令(105条の4)は使い勝手が悪いのもあり,記載したとしても得点につながるかは不明です。

問2 侵害(配点予想20点)
(1) 充足論
 X発明は「第5層の8 5ー9 5パーセントが残るように同層の表層側の部分を削り取ることにより製造される米(第6層の2つの層のみから構成される米)」,Y商品は「特殊な液体に浸すこ とで第5層の表層側の部分を溶かし,第5層の残り9 0パーセントの部分と第6層の2つの層のみから構成される米」となり,相違点は「削る」or「液体で溶かす」ことと,第5層が「85-95パーセントが残る」or「90パーセント残ることです。このうち後者が前者のクレームに含まれることはわかりますが,前者は異なっています。ここからが問題となります。
 この点「削り取り」がどのような意味を持つのかを指摘し,リパーゼ判決とを参照することになるでしょう。本件では特許請求の範囲が一義的に理解できないとする特段の事情も指摘し,明細書(問題文中の出願の経緯の点)も考慮する必要がありそうです。
 まずクレームの文言「削り取り」ですが,①刃物で物の表面を薄く切り取る。そぐ。という意味と,②全体からその部分を取り除く。削除する。という2つの意味があり,前者とするなら,技術的範囲に属しないとなり,後者であれば,技術的範囲ということになります。文言上①②が含まれ,技術的意義を確定することは困難でしょう。
 この点,85-95%程度うまみ成分が残る物質を残すようしたことが新規・進歩性のある特許といえそうで,削り取る方法は①②いずれでもよいと解し,技術的範囲に含まれるとするのも1つの解答筋かと思われます。

 他方下記(2)とも関連しますが,X発明2で製造方法を示している点と重複している点は如何とするという問題点もありえるところではあります。いずれかの結論に達していれば高評価というところかなと思います。「論じなさい」としていることからも答えよりは,思考過程を問うてる問題かなと思います。

(2) 無効論
 新規性はあり,進歩性も容易推考の事情がないため,問題は明確性の点(他にも実施可能性要件,サポート要件等)の無効論の主張となりましょう。知財高判平成22年8月31日(伸縮性トップシートを有する吸収性物品事件)や知財高判平成22年1月28日(フリバンセリン事件)では切り分けが行われていますが,実質重ねて判断することも多いところで,この点についてはどのような見解にたつにせよ3つの要件の趣旨を明確に記載して論じる方向が良いと思います。明確性要件は、第三者に不測な不利益を与えないために設けられているため、第三者に不測な不利益を与えるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
 そして何より論じてほしいのは本件の発明1とPBPクレームとの関連であるかという点でしょう。最高裁判決の規範は承知していると思われますが,実務上その後も進んでおり,このあたりの違和感をしっかり答案に書けるかと思われます。モデル裁判例では、物同一性説を採用し、一般的には、製造方法が物のどのような構造又は特性を表しているのかが不明であり、権利範囲についての予測可能性を奪う結果となることから、不可能・非実際的事情が存するときに限ってPBPクレームを認めることとした。しかしながら、上記一般的な場合と異なり、物のどのような構造又は特性を表しているのかが明細書等の記載から一義的に明らかであれば、第三者の利益が不当に害されることがないと考えられる。として,明確性要件違反としませんでした。

 本件も明細書を見れば,物の発明の方で明確といえるので,Yの反論は認められないことになるかと考えられます。

 さらに進んで,実施可能性要件違反となるか,同記載及び出願時の技術常識に基づき,過度の試行錯誤を要することなく,その物を生産し,かつ,使用することができる程度の記載があるか否かの問題であるとする裁判例(知財高裁平成29年2月2日判決「新規な葉酸代謝拮抗薬の組み合わせ療法」)があります。これを踏まえると過度の試行錯誤を要するかは問題文中から不明ですが,場合分けをして答えるとgoodかと思われます。とはいえ受験生で短い時間でそこまでできる人は少ないように思いますので,いずれかの結論を簡潔に示しているだけでも十分高評価かと思われます。

 モデル裁判例に加え,知財高判平成29年9月21日「無洗米の製造装置」(平成28年(行ケ)第10236号)知財高裁平成28年11月8日「ロール苗搭載樋付田植機と内部導光ロール苗。」平成28年(行ケ)第10025号 審決取消請求事件等でも議論されたところでありますが,受験生にとっては難しいのではないかと思われます。

 この問題(1)(2)はいずれも難しいので,結論はさておき,前提となる条文,規範,文言,問題文の事情,ヒントを使い何とか部分点を稼ぎきるという方向性で合格点に達するかと思われます。たまに受験生の答案をみていてもったいないと思うのは,精神的にパニックになり,条文番号,条文の文言,規範,ロースクールや判例百選の掲載の判例をすっとばして答案を記載してしまうことにあります。一部は欠落していても構いませんが全て欠落するとガタと点数が落ちるかと思われますので,よくわからない問題も,問から導き出される条文から何とか結論にたどり着くという方向性で答案を作成すると盤石になるかと思われます。

問3 公然実施 (12点)
 これは発明2の製造方法を物同一説を指摘する実質的に発明1と同様で,いずれも公然実施と反論することになり,「公然実施」の無効論を展開することになるでしょう。もっとも公然実施で本件の発明は,第5層の含み成分や構成物質に関連しますので,購入して解析できる状態に達した時点で公然実施となると思われます。発明1は物の発明ですので,購入し成分分析を行うことができます。本問中の「購入者がいなかった,誰も知っていなかったが知りえる状態にはあった」という点の評価によりますが,いずれの結論でもよいかとは思います(私見では公知ではなかったという評価が穏当には思います)

 発明2については実際に購入しても具体的な工程を知るのは難しいでしょう。そのため発明2についての公然実施該当性は困難といえるでしょう。

問4 容易推考 (10点)0809修正→拡大先願

 追記:ご指摘を受け,「拡大先願」の「発明の同一性」にて下記議論が展開されることとなると考えられます。


 他人の発明の明細書の記載である「第1層から第4層までを精米機により取り除いた上、さらに第5層のほとんどが残るように同属の表層側の部分を削り取った米を使用することにより、炊飯後の米により旨みを感じることが できるようになる。 」とから,特許権1の進歩性を根拠づける85から95パーセントが残るように表層側の部分を削り取り,製造された米は 従来の精白米よりも多くの成分Aを含んでおり、このような米自体を発明することが容易推考だったという反論と再反論になるかと思われます。
 結局のところこの発明のすごいところは第5層にうまみ成分がほとんど(85-95%程度)残ることにあるので,パーセンテージ自体はそれほど意義をもたず,そのため同一といえるのかと思われます。他方,パーセンテージが重要になると考えた場合,発明は非同一という関係になるかと思われます。ここまでくると,設問1から設問4まで一貫して,本問の特許はどのような意義をもっているのかという点が問われ続けていることになります)
 

結論 

 実務的な充足論と無効論のオンパレードのように感じました。今までだと論点解説が多かったですが,本問は特許訴訟の攻撃防御を簡易にしたもので,受験生の方は解きにくい部類だったのかなと感じています。ただ,特許権といってもケースバイケースで,論点は固まっていても,そのあてはめが左右されたり,主張も変化してくるということが体感できる,実務的な問題のようにも感じました。

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