【知財法務入門 基礎からわかる知財③ 知財と契約編②】

第1 ライセンス契約

 知財の契約といえば,この種類が一番多いかと思われます。

ライセンス契約とは権利者のの持つ特許や実用新案、意匠、商標、著作権等の知的財産を他人に使用させる契約のことです。
ライセンスする側は「ライセンサー」と呼ばれ、ライセンスを受ける側は「ライセンシー」と呼ばれます。このライセンサーとライセンシー間で、「ライセンスの対象」「利用の態様」「独占か非独占化」「期間」「金額」などの条件を定めなければなりません。


第2 重要な事項

 1 独占か非独占か
「独占」か「非独占」かは重要な交渉テーマといえるでしょう。
民法と比較するとわかりやすいと思います。例えば賃貸借契約では「所有権」の一部である「使用権原」を賃借人に与えることとなります。この際,民法の「物権」は「物」を対象としていることから,必然的に空間的な限界が生じます。(空中や地下で区切るやり方はありますが,X,Y,Z座標が存在する部分は「独占」となるわけです)

 他方知的財産権は「無体物」を対象とするため,空間の独占という現象が生じず,そのため何人でも実施権限を与えることが可能となります。原則形態は通常実施権となり,何人でもライセンス可能です。しかし,ライセンシーからするとライバル企業もライセンスされちゃうと,ライセンス料払ってる意味が・・・となります。そこで「君だけ」という独占的にライセンスする権利を与えてほしいということになります。法的には,「専用実施権」「通常実施権」とありますが,契約では「独占的通常実施権」というのも存在します。これは「専用実施権」の使い勝手が悪い(特許原簿にのってしまい公開されてしまうデメリットが大きいかと思います)

 このことからすると独占ライセンスは、単なるライセンスというよりも、ある分野においてライセンシーに技術等の知財に付加された事業を許諾する行為に近い性質をもっています。(OEM契約のときもこのパターンとなることがあります。)従って、独占ライセンスにあたっては、期待利益を要求することが可能になります。これによって、技術の開発投資の回収を確実にさせるという観点を可能にすることができ,ベンチャーやスタートアップだとこの手法が採用される場合もみかけます。
 しかし独占は1回だけなので,誰に独占ライセンスを付与するか、その際に、独占ライセンスの条件設定をどうするか、というのは高度な戦略的判断になり,場合によっては全員に実施させた方が良いという場合もあります。

2 改良発明の取り扱い
ライセンシーによる改良発明の取り扱いは重要な事柄です。
通常であれば、ライセンサーが改良発明について実施許諾を受けられるようにしておけば十分ですが、複数のライセンシーにライセンスすることを予定している場合は注意が必要です。

3 販売地域の制限,製品台数の制限

 これも条項として重要でしょう。ちなみにこれに違反した場合,契約違反に留まるのか,物権的侵害として構成しうるのか?(すなわち差止めまでの法的効果をもたらすのか)といった論点があります。

4 ライセンス料

 これは単なる月額制にするのか,それとも基礎ロイヤリティに売上げ数に比例,賦課制にするのか,はたまた別の方策かといった点は重要になってくるでしょう。薄利多売戦略に付加価値加えるサービス戦略の場合,独占にしていればそこまで必要ではないが,通常実施であれば,価格競争が生じるのでどちらがメリットがあるか?といった風に,事業戦略とも密接に経済,経営的知見が必要になってくる場面でもあります。

 マイルストーンもあったりいろいろな支払方法があります

5 ノウハウ条項,技術指導

 ライセンスしてくれても,実際に技術者がいないと意味がなくなるという場面も多いかと思いますので,この条項も重要になるかとは思います。

 なお,品質保証,監査も附帯されて条項が追加される場合もあります。

6 再委託,利用態様

 これは,サブライセンスされ続けるとどんどん利用態様が広がることを懸念して条項として追加されることが多いです。

7 その他

 他には,秘密保持,解除,損害賠償条項,期限の利益の喪失条項,存続条項,仲裁条項,裁判管轄,準拠法といった一般的条項に加え,特許なら共同出願,著作権なら二次的著作物等の処理といった条項が存在することが多いですね。

 他にも業界独特の条項もありますが,これはまた別の機会に・・・

第3 これはライセンス契約? 検索してみた「マイクロソフト クラウド ライセンス契約」

 少し検索してみると,このような契約を見かけました。これはソフトウェア業界で使用されるライセンス契約と呼称されるものです。(知的財産権はクラウドのソフトウェアだと考えられます。厳密には利用,使用料という形で,コンサルティングやサポートという業務委託契約の報酬も含まれているとは思います。)

 なので厳密にはライセンス契約という意味ではありませんが,ソフトウェア業界ではこのようなライセンス契約(+サポート込み)を展開していると考えられます。

 そもそもlicenseは資格を与えるという意味もありますので,いろいろと複合している契約もみられるところです。

 余談ですが,米国イノベーション大国を支えているのは,特許の世界では「製薬」系,「ソフトウェア」業界,「ビジネス特許」業界,著作権の世界では「エンターテインメント」業界だったりしますので,「ソフトウェア業界」独自の契約の世界という感じです。(このあたりは別論で書いていきます笑)

 そのため,これらの業界は模倣品やライセンス違反には敏感です。米国政界にもしっかりロビイングしているため,米国は他国の知的財産権侵害に敏感という感じです。(このあたりの知財と国際問題は結構根深く度々問題になっています。)

第4 小括

 今回はライセンス契約の一般的な部分も記載してみました。実際は知財や事業の戦略に密接にかかわってきますので,解説書のように単純にいきませんが,知財を考えていくうえで基本となりかつ当事者にとっても重要な契約とはいえるでしょう。

 



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