【R3 知財:特許法 司法試験】

第1 今年の問題

 去年と異なり,全体的に落ち着いた問題が多い印象でした。知財は比較的オーソドックスな問題が多く,基本7法は設問3つのうち2つが典型(予備校の模試,問題集やローの期末テスト,予備試験で出題されやすく),内1つは実務上問題になる点(又は学会等で理論的に提示されている問題)でかつロー生の学習範囲から類推,推測して解きやすい問題か(修習生に解かせてみたい問題),比較的「考えさせる」問題が多いとは思います(民法第2問の予備校の社内派遣する契約は典型契約ではない分ー(委任に近いのか?労働に近いのか?請負に近いのか?といった論点主義だと飛ばしがちな基礎的な分水嶺,解除はどうか,損害賠償の範囲は?改正民法で若干の理論的背景が変更された部分を含む)いろいろ民法からの基礎からの応用を試しているような印象を受けました。このような類型は実務に出る多くなるので良問感がありました。

 ちなみにこのような問題はわからなくてもいいので,何が問われているかを探求することで,わからない場合も含めて法的3段論法のお作法の貫徹,契約の認定,請求権の成否をしっかり応答する解答でもかなり点数はいただけます。)

 全部解説するのもめんどうなので,知財だけ公開しようと思います。なお急いで記載しているので,誤字脱字はあります。

難易度としては,設問1 標準 設問2 やや優 設問3 (1)やや難(2)標準 といったところですが,事案の把握がやや難なので(想像しにくいので),全体的に少し難しい印象を受けます。「胃瘻穿刺針事件」がリーディングケースです。逆にメディカルな業界に属している人だとやりやすい印象を受けると思います。

第2 知財

1 特許法の出題

 がっつりと医薬品機器の問題でした。特許の中で有名な分野ですが,受験生からすると「う」という感じになる人が多いかなと思う類型です。こういうときはあくまで相対評価と割り切り,事実を整理して解答していくだけでも差はつくものですと割り切りましょう。

設問1 均等侵害

 「侵害」が問われているので,思い浮かぶ単語は「文言侵害」と「均等侵害」です。いわゆる均等論の5要件を問われていると理解してください(問題文もいろいろ要素があります)

 ① 文言侵害の成否

「金属製」と「樹脂製」とある点で,文言が異なるので,この点で文言侵害は成立しません。ここでクレーム解釈をする答案もあると思いますし,そっちはそっちで裁量採点があると思いますが,あまり深入りしなくてもいいと思います。

② 均等侵害の成否

「金属製」と「樹脂製」との差分につき,均等論の5要件を展開していくことになります。最高裁判例(元は米国判例)と基礎に,近年の裁判例で問題になっている点を要件に含めて論じることが求められています。結論的には均等侵害が成立するのではないでしょうか?

 まず第1要件,第5要件の部分を中心に論ずることになるかと思います。

第1要件は2説あって,差分のうち特徴的な部分を掘り起こして,本質か非本質か?という説と,差分をそのまま比較して技術的範囲に包含されているかといった点で考察する説です。後者の方がより検討しやすいという点はあるかと思います。

 本問だと「金属製」でなければいけなかったのかという点を考察する点が重要です。本問では明細書に他の針でもよいと書いていますが,出願人は「固い針」といった程度で書いているのか,「金属」でなければいけないのか?を考察することになりますが,当業者も含め前者の考え方かと思われますので,「樹脂製」であることはささいな違いといえそうですので,結論的には均等侵害になりそうです。

第2,3要件,第4要件は問題文に事情があり,引用して移してください。

 本問だと文言侵害,均等侵害を分けて記載していること,均等侵害の5要件を記載していることが「良」であり(文言があまりに不正確だと「一応の水準」),さらに踏み込んで第1,第5要件を検討している答案は「優」といった感じですかね。

 第2問 消尽

 いわゆる「インクカートリッジ」事件における消尽の趣旨と,規範が「良」,「一応の水準」かと思わます。

 薬剤分包用ロールペーパ事件判決(大阪地判平成26年1月16日)でも問題になりましたが,「新たな製造」にあたるかは取引の実情も考慮する必要があります。

 回収して,分解,減菌して,(きれいにして),もう一度組み立てており,部品の取り付けを行っていないので,新たな製造とはいえないようにも思います。他方,「再使用禁止」とあり,特許権者はリサイクルを禁じています。添付文書にどこまで拘束されるのか?消尽理論に踏み込んで検討されている方は「優秀」かと思われます。

 いずれの立場によるとしても,ここをしっかり評価するのが重要かと思われます。

設問3 間接侵害

 いわゆる本問のモデルケース「胃瘻穿刺針事件」がリーディングケースです。論点的には複数関与者の実施行為となります。間接侵害を検討することになります。

 本問はC製品は一体化措置をとっていないので,文言,均等侵害は困難です。もっともクレームを充足するように使用しているのはお医者さん3割です。

 さて如何とするべきかということで間接侵害の構成にして,102 条 2 項の「その物の生産に用いる物」であるかどうかが問題となります。

「一体化同時穿刺という被告製品の使用態様が,特異なものではなく,医師らによって通常行われ得る被告製品の使用態様の一つである」として,被告製品は特許法 101 条 2 号の「その物の生産に用いる物」であるとしました。

その他の要件についても,不可欠性要件については裁判例と同様の事実があります。他方被告はこの危険性にために一体化措置を設けているにすぎません。どう評価するかはおまかせしますが,どちらでもいいかと思います。

また医療業界しか使わないので,広く一般に流通もしていないでしょう。

 主観的要件は「添付文書」の記載です。結局このように使用されることがわかっているから記載しているのではないか?という点です。この点いやそれは被告はこの危険性にために一体化措置を設けているにすぎない。わからんわからんという評価もできます。

 とはいっても警告していますから,その時点から悪意であることを認めることはできます。

 では最後に差止めの可否についてです。この論点の問題意識は,いやあとはいってもこれいろいろ使えますし,しかも使用態様によって分かれているやつならどう見たって過剰でしょう。専用品ならわかりますけど・・・という問題意識です。

 この点については悪意性まで認定したからOKです。といった見解もあり,必要性と相当性を考慮しますが,結論的には先ほどの主観的要件の規範を緩くするのか,強めるのかによって理論的にリンクしうる論点ですので,「事案の妥当性」という点も意識しつつ,認定してもらえればいずれでも結構です。

 かくして(1)に関しては,間接侵害の2号要件の認定が一通りできていること,「一応の水準」,問題文の事情をある程度反対事実を意識し認定していること「良好」,その他の差止めの必要性等,ロースクールの授業レベルでは必ずしも学修していないと思うが,実務的論点に着目,又は現場で粘り強く着目し,鋭く考察・評価等を加えているものが「優秀」かと思われます。

(2) 損賠

 この問題意識は,間接侵害の点です。

 7割の医療機関はは原告のやり方で行っていないのと,被告は添付文書で注意喚起していること,から102条2項の推定覆滅事由があるということです。まずはこれを指摘し,規範,あてはめを行えば良いかと思われます。これは裁判所でも認められています。まずはこれを端的に指摘するだけで,「一応の水準」,事実のあてはめや下記の補足反論を指摘すれば「良好」「優秀」かと思われます。

補足として裁判例では,C製品は特許権者の製品のセット販売品の1つであるっぽいので,市場ではキット全体に着目して選択され,被告製品は被告キットの単なる1部材にすぎず,市場において競合していないから,被告キットの販売によって原告に原告製品の販売による得べかりし利益の損害そのものが発生していないので,本件において,特許法102条2項の推定規定は適用されない。という主張は排斥されています。

寄与率の主張もありますが,本問ではあてはめる事情がないので,2,3行程度しか記載できないとは思います。


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