見出し画像

発明品に恋をした。

わたしの仕事のひとつに、「契約書を説明する」といったものがある。部屋を借りるときに、契約を締結するでしょう?わたしは物件を貸す側だから、そこに書いてあることの中から、特に重要なところをお客さんにお伝えする。

「第6条の1項、乙はするとき、甲は●●します」

淡々と文章を読むだけだとお客さんは分かりにくいだろうと思い、わたしは「乙」という言葉が出てきたあと、●●さんのことです、とお客さんの名前をセットで言うようにしている。

ただ何度もやっているけれど、甲と乙を度々まちがえて言ってしまう。

「乙は私たちで、あっ違います、乙は●●さんです、で、甲は●●さんです。あっ違います、甲は私たちです」

こうなるもう、理解をしやすいようにしたはずの工夫が、分かりにくさ増強剤と化す。

次は間違えないように頑張るぞ。「乙」はお客さんでしょ?「甲」は私たちでしょ。もう、大丈夫なはずだーー。


数日後、こんなツイートを見つけた。

やられたと思った。そんなことを言っても、わたしはこんな素晴らしいアイデア、きっと逆立ちをしても思いつかなかった。甲乙が紛らわしいのは仕方がない、自分の努力の問題だ、と信じて疑いもしなかったんだもの。自分も常識を疑えない側の人間だったなんて。そう思わされた。

ツイートの主は藤原 麻里菜さんだ。彼女は、自分の作っているものを”無駄なもの”と言う。だけど彼女が生み出したものは、わたしにいつも足りないものを気づかせてくれるし、おしとやかに笑わせてくれる。

こういうのを、恋っていうのだろうか………。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?