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【SS】不気味な摩擦音の恐怖

「今日も一日仕事を頑張ったなぁ。後は家に帰って、シャワーを浴びて美味しいビールと美味しいご飯だな」

 一郎は、少しだけ残業をして夜八時ごろに帰ってくる都心のマンションに住んでいるサラリーマンだ。楽しみは愛妻が作ってくれる料理と一緒に飲むビールのようだ。そして、帰った時に飛び上がって喜んでくれるトイプードルのレッドの歓迎にも癒される。まだ、子供はいない。

 ある日、いつものように帰ってきた一郎は、いつになく疲れていた。それでも規則正しく、夜八時に帰ってきて愛妻の料理を美味しく食べ、シャワーを浴びてビールを飲んだ。いつもはTVを見ているのだが、この日は疲れているせいかソファでうたた寝をしてしまった。愛犬のレッドも一緒になってソファの上で一緒になって寝ている。時間は夜十一時を過ぎていた。愛妻はキッチンの後片付けをしてシャワーを浴びているのだろう。今日も平凡な一日が終わろうとしていた。

 しっかり眠っているわけではない一郎の頭の中では「シャー、シャー」という何かを擦っているような不気味な音が聞こえているのを感じていた。夢の中かなと思っていたが、中々鳴り止まない。「シャー、シャー」という音は遠くで聞こえていたかと思うと、後ろから聞こえることもあった。

 一郎は怖くなって目が覚めていたが、怖さのせいで目を開けることができないでいた。基本、怖がりな男だった。しかし「シャー、シャー」という音は鳴り止む気配がない。その時、リビングの照明がタイマーによって消えてしまった。目を閉じていても瞼の前が真っ暗になるのは感じたので、余計に恐怖は募った。いっそのこと、声を出して愛妻を呼ぼうかとも思ったが、音の正体が解らないのでそれも怖い。

 一郎は、高鳴る動悸を感じながらも意を決して目を開け、音のする廊下の方に目を向けると、そこには明かりの下でニコッと微笑んでいる愛妻の姿があった。彼女は、クイックルワイパーで廊下を掃除しながら、一郎に優しく声をかけた。

「そんなとこで寝てると風邪引くよ」

おわり


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#ショートショート #創作 #摩擦音  

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