つみのかじつは夢をみせる【編集版⑨】

 キターーーー!宴会!そう、今日は星野源のオフィシャルイヤーブックを買って入れるファンクラブ的なもの(ファンクラブそのものにお金はかからない、チケット先行などがあるお楽しみ要素)の会員限定ライブ「宴会」があるのだ。ライブのあとは宴会。バンドメンバーも飲み食いしながらお喋りしようぜ、的な催しだ。楽しみにしていたので今急ピッチでこれを書いている。

 前回の続き。今日は「凡才肌」。百鬼夜行の一番最初にこの楽曲を演奏しているのだが、円盤で初めてそれを観たとき瞬きすらできなかった記憶がある。

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褒められるのが苦手な私へ~「凡才肌」~

 2015年の実演「椎名林檎と彼奴等がゆく百鬼夜行2015」。実際に生で観ることは叶わなかったのだが、DVDを持っていて、セットリストも好きだし、主演(付属のブックレットのクレジットにそう書いてある)の椎名林檎に演奏メンバー(彼奴等)である玉田豊夢、鳥越啓介、ヒイズミマサユ機、浮雲、名越由貴男、村田陽一、西村浩二、山本拓夫を加えたMANGARAMAも好きなので定期的に何度も観てしまう。この実演のもう一つのおまけの実演「椎名林檎と彼奴等による陰翳礼讃2016」にも、魅力がこれでもかというくらいにあって最高なので、続けて観てしまう。
 その「百鬼夜行」、観るたびに1曲目でとてもどきどきしてしまう。それは主演の彼女があまりにも美しすぎて、とか彼奴等の演奏が物凄くかっこよすぎて、とかそういう類のドキドキではない。楽曲が突き刺さってくるような感じがするからだ。楽曲のタイトルは『三文ゴシップ』収録の「凡才肌」。CDや定額配信のアプリで聴いた時も、「何だこの歌詞とメロディー。抉ってくる。」とか思っていたのだが、このパフォーマンスを観たらどうにも刺さって抜けなくなった。生命が燃えているその瞬間を見ているような気がしたのだ。他の好きなアーティストのライブでも、観ていてこんなに胸が苦しくなった楽曲は無かったと思う。
 「凡才肌」の一番は、【生きる】というその意味を今一度問い直してくれているのだと思う。
〈生を受けた歓び哀しみ骨身に浴びせて 生きて死にたい〉
〈お腹が空いて考える さあ何を犠牲に満たそう 喉が渇いて考える さあ誰に恵んでもらおう〉
 何かを成すためには何かを犠牲にしなければならない、とよく言うように、やはりこの世の中で生きていくためには少なからず何かを犠牲にしなければならないのだと思う。お腹を満たすのを、喉を潤すのも犠牲がいる。
〈労働するたび空虚が付き纏う〉
 働いても働いても、その分だけ時間は溶けていくし、稼いだお金は生きるために財布の中から出ていく。それはあまりにも虚しい。しかしそれが生きるために必要なことなのだから、生きる意味を見失ってしまうのも何となくわかる。ならばもう収まるべき場所に身をまかせてしまいたい、と思う。歌いだしの〈空よ山よ川よ故郷の海よ わたしを還してくれ〉とか、一番の最後の〈そうあなたもわたしも空いてる穴を求めては 今日を彷徨う〉という歌詞がストレートに胸に突き刺さってくるのだ。
 そして2番。私はこれを椎名本人の、特にデビューしたての頃の心の叫び声なのではないかと思っている。今作は三枚目の前作『加爾基 精液 栗ノ花』から六年四か月ぶりのアルバムであり、それまでのソロ活動や2004年からの東京事変を経た後の一枚である。その頃の色々な資料を読んだり、アルバムの作風だとかをみていくと、若さもあるのだろうが少しだけ世の中に盾突いていたような感じとか、自分の中で壁にぶつかってボロボロになっていたような感じが出ていて、歌詞に使われる言葉もそれゆえの棘がある気がする。
 しかし彼女は大人になったのだ。棘を含むような言葉で自分自身に傷を作ることもない。その代わりにしっかりと言葉でその当時のことを表現しているのではないかと思う。
〈賞賛はヒトを孤独へ追い払う 殺し文句は嫌い 安直だよ そうあなたとわたしが異なる偏旁と云うのは とんだ間違い 天才等という言葉が突き放す 素知らぬ顔して 冒涜だよ〉
 こうして立て続けに息をつく間もなく放たれるこれらの言葉は、あれよあれよと持ち上げられ消費される毎日。仕事をしているとき以外は歌手ではなく普通の女の子なのにと思うあの頃彼女が言えなかった言葉なのではないだろうか。そしてそれは他の「天才」と呼ばれる人たちの気持ちの、そして褒められるということが苦手だという人たちの気持ちも代弁してくれているのだと思う。
 人には2種類、褒められるのが得意で他方からの気持ちを素直に受け取れる人と、褒められるのが苦手で素直になれない人がいる。ちなみに私は後者だ。「~できて凄いよ」とか言われたら「え、これはやって当然のことだと……」などと思ってしまって気持ちが塞いでしまう。この「凡才肌」という楽曲はそういう気持ちも的確かつ丁寧に描いているのだと思う。そうして心に突き刺さると同時に私の中にあったモヤモヤした気持ちを代わりに叫んでくれた気がして、気持ちがほんの少し楽になった。

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この間、Twitterでつながっている友達にこのことを話した。話していて「この楽曲は私のための楽曲だな」と改めて思った。

 

知識をつけたり心を豊かにするために使います。家族に美味しいもの買って帰省するためにも使います。