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先発投手はどれだけ引っぱるべきか。12球団の先発起用傾向をチェック

100球で交代はもう古い?MLBにおける先発交代の新しい判断基準

 長いレギュラーシーズンを戦い抜く上で、先発投手をどのように運用するかは首脳陣の力が試される重要なポイントだ。シーズン序盤から先発を酷使するようでは後半にそのツケが回る。かといってあまりに温存するようでは、ポテンシャルを引き出せない。先発投手はどのように起用するのが適切だろうか。今回は先発投手をどれだけ引っ張るかというポイントに注目したい。

 かつてNPBには球数制限的な基準は見当たらなかった。30年前の1993年、ルーキーの伊藤智仁(当時ヤクルト)が193球で完投を記録。現代野球では考えられないほどの球数だが、1試合を投げ抜くことが優先されていた。

 ただそこから時代は変わり、現在のNPBの先発投手はおおよそ100-120球が上限で運用されている。MLBで交代の目安となっていた100球という基準がNPBにも輸入されたかたちだ。しかし実はこの100球という基準に明確な根拠はない。故障を防ぐには球数を制限する必要があることは違いないが、その基準としての100という数字に特別な意味はなかったのだ。

 ただそこから時代が変わり、実は現在MLBにおいては、データ分析の根拠をもって投手交代が行われている。その根拠となっているのは「球数」ではない。「打者の巡目」である。

 「周回効果」という言葉を聞いたことがあるだろうか。対戦が1巡するごとに打者は投手に慣れ、打撃成績が向上する。投手からすれば成績が下がる。例えば以下は2015-22年におけるMLBの周回効果のデータである。

 この期間、MLBの先発投手は1巡目の打者に対しては、23.4%の割合で三振を奪っていた。だがこの数字は巡目が進むごとに低下する。2巡目には20.6%、3巡目には18.8%、4巡目には17.9%と巡目が進むごとに成績は落ち込む。これをスタミナの問題ではないかと考える人もいるかもしれないが、実は同じボールの威力でも、巡目を追うごとに投手成績が低下することが報告されている[1]。打者の慣れは投手にとって大敵なのだ。

 こうした研究を受け、現在のMLBでは先発投手は打者に慣れられる前に交代するのがスタンダードになってきている。以下は2015年以降のMLBにおいて、先発投手の打者3・4巡目との対戦がどれだけあったかを示したものだ。短縮シーズンだった2020年は除いている。

 2015年、MLBの先発投手は打者3・4巡目の打者との対戦が33188打席あった。しかしこの数は年々減少。2021年には20702打席と、3分の2以下にまで減少している。慣れた打者との対戦を避けるために、MLB球団は工夫を凝らしているのだ。

 そしてこうした「周回効果」を根拠とした起用の結果、現在MLBでは1試合平均投球数が減少している。これは球数を減らそうとした結果というよりは、周回効果を考慮した投手起用を行った結果なのだ。

 現在のMLBにおいて、先発投手の交代基準は、勝利投手の権利でも球数でもなくなってきている。

巡目の視点でチェック。12球団先発交代タイミング

 こうした巡目の観点で捉えたとき、NPBの投手起用はどのように考えられるだろうか。12球団の中で、巡目を意識した起用を行っている球団はあるだろうか。NPBのデータをチェックしてみたい。以下は先発投手の対戦のうち何巡目の打者とのものが多かったか、その割合を表したものだ。

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