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アナリストはどのような手順で選手を分析する?分析の導線を具体的に紹介する

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ヤニエル・カノ急成長の理由をFangraphs、Baseball Savantから読み解く

 近年はNPB、MLBともに、データが一般レベルにまで広く公開されるようになっている。こうした状況を受け、自分でも選手の分析を行いたいと思った人もいるのではないだろうか。ただデータ分析はある程度のリテラシーがなければ難しいものだ。データの扱いに慣れた人でも、アナリストが具体的にどのような目線で、手順で選手を分析しているか、ご存知ない方も多いだろう。今回はMLB公式のデータサイト、Baseball Savantを使って、アナリストが実際にどのような順にデータを見ているか、分析時の導線を具体的に紹介していきたい。

 今回取り上げるのはボルティモア・オリオールズに所属するヤニエル・カノ。ご存知ない方もいるかもしれないが、昨季から今季にかけて凄まじい成長を見せている救援投手である。MLB1年目の昨季は13試合に登板し、防御率11.50。まさにマイナーとメジャーの狭間にいる投手だったが、今季はここまで27試合32.1イニングを投げて防御率1.09。見違えるような好成績を残している。カノの成績はなぜこれほど良くなったのだろうか。

 投手の成長を読み解く際にはじめに注目したいのが、投球の三大要素である奪三振、与四球、打球管理能力(ゴロ)だ。現時点でカノについてわかっているのは、防御率が良くなったという情報だけ。これが幸運にもたらされているものではないのか、根拠のある成績であるのかを確認する必要がある。

 以下のページからカノのデータを見ることができる。日々データは更新されるため、執筆時点とズレが生じることはご理解いただきたい。

 さきほど述べたとおり、奪三振、与四球、打球管理能力(ゴロ率)から確認していこう。昨季から今季でカノはK%(奪三振/打者)が21.6%から28.9%に、BB%(与四球/打者)が16.5%から3.5%。ゴロ率(GB%)が49.2%から66.2%に改善している。いずれの項目も普通では考えられないレベルの改善具合だ。

 これらから、カノの今季の成績向上は決して幸運によりもたらされたものではなく、投球レベルの向上によるものと判断できる。逆にここで大きな変化が見られないようであれば、BABIP、LOB%、HR/FBなど、運の影響が強い要素をチェックするとよいだろう。ともかくカノの投球は確実に改善している。

Plate Disciplineからわかる投球戦略の変化

 カノは奪三振と与四球の面で大きな改善があった。こういったときに次にチェックすべきはPlate Disciplineだ。Plate Disciplineとは打者にスイングさせたかどうか、またスイングさせた場合、コンタクトされたかどうかなどを集積したデータ群である。

 投球の三大要素であれだけの向上があったということは、さぞかしボールの威力が上がっていることが想像される。ボールの威力が向上しているということは空振りが奪えているはずだ。そう想像して、Plate Discipline成績のWhiff%(空振り/スイング)を見ると、昨季の23.3%から今季は25.1%。意外にも値の向上は大きくない。カノは空振り奪取能力が劇的に上がっているわけではないようだ。

 ほかにはZone%(ストライクゾーン率)が45.4%から50.6%に上昇していることにも注目だ。甘い球を表すMeatball%が6.3%から9.6%に上がっていることを考えても、コース的に甘くなることを恐れず、どんどんゾーン内に投げ込んでいる様子がわかる。投球戦略が変化したのだろう。こうした要素は与四球の減少に大いに関係しているはずだ。

見えてくるシンカーの異常な好成績

 しかしこれら投球戦略の変化だけであれほどの成績向上が起こったとは考えづらい。戦略だけでなく、投げるボール自体にも大きな変化があったと考えるのが自然だ。このあたりは場数をこなすことで感覚的にわかってくるところかもしれない。次はもう一段球種成績に踏み込んでみよう。

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