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中日・立浪監督が投手陣にシュート習得を指示。この戦略に妥当性はあるのか

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立浪監督の指示により増加した中日のシュート割合

 昨オフ、中日・立浪和義監督が、チームの投手陣にシュートの習得指示を出したことが報じられた。この方針に際し立浪監督は「体の近い所に食い込んでくるボールは武器になる。それを習得することで投球の幅が広がる。みんなでトライしてみよう」とコメント。投球のバリエーションを増やし、好成績につなげようという意図が読み取れる。もしかすると監督自身、現役時代に食い込みボールに対して嫌な印象を持っていたのかもしれない。

 そしてシーズンが始まり、実際、今季の中日投手陣はシュート・2シームをかなり多く投じている。昨季1.7%だった中日投手陣のシュート投球割合は今季9.1%まで上昇(図1)。過去10年で見ても突出した割合を記録している。

 これはシュートを多く投げる投手の起用が増えたということではない。これまでシュートを投じていなかった投手も多く投じるようになっているのだ。例えばエース格の柳裕也は昨季シュートを1球も投じなかったが、今季はここまで11.5%もの割合で投じている(表1)。救援の清水達也、勝野昌慶は昨季まではキャリアで1球もシュートを投じていなかった投手だ。彼らの今季シュートの投球割合はそれぞれ5.9%、5.0%。オフに打ち出した方針がシーズン中も継続している様子が見てとれる。

 ただこのように組織レベルでシュートを習得しようとすることは合理的なのだろうか。どれほどの妥当性があるのだろうか。

減少傾向にあったMLBでなぜシュートが復興したのか

 こうした立浪監督の施策の妥当性を考えるうえでまず知っておかなければならないのは、シュートという球種の現在地だ。MLBではシンカーや2シームと呼ばれるが、ここではシュートという呼称で統一したい。

 MLBではここ数年、シュートが投じられる割合が低下していた。一要因として考えられるのは4シームの隆盛だ。トラッキングデータの導入により、2010年代中盤からフライボール革命の時代が到来。打者の多くはフライを狙い、アッパースイングに矯正した。

 こうした打者のスイングに対し効果的であることがわかったのが高めの4シームだ。高めにホップする縦変化量の大きい4シームはフライを狙うアッパースイングに軌道が合わない。一方でボールが沈む縦変化量の小さいシュートはアッパースイングでもコンタクトしやすい。こういった背景もありシュートが減少していたのだ。

 Fangraphsを見ても、2010年には22.2%投じられていたシンカー(シュート)が、2021年には14.8%にまで減少している(図2)。MLBというと動くボールという印象があるかもしれないが、近年はそういった時代ではなくなっていたのだ。

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